American Idolが始まった。
去年の夏に「ダメモト」で作ってみたら大ヒットした番組の第二弾である。
オーディションで全米から集まった素人シンガーが毎週歌で競い合う。駄目なシンガーを毎回冷酷に落として行く方式で、勝ち残った一人だけがAmerican Idolとして100万ドルの賞金とレコードデビューを約束される。投票は視聴者が電話で行う。水曜にライブで全員が歌い、その夜投票があって、木曜に落選者を発表、翌週に続くという流れである。
第一弾放映中、10人ほどの挑戦者が残っているくらいの時に、偶然テレビをつけたらやっていて、それ以降釘付けになってしまった。
なぜか。
歌がうまいからだ。マジにうまい。日本で30年位前にやっていた「スター誕生」なんかと桁違いに歌がうまい人がたくさんいる。
人口が多いからか?それとも人種が違うから?それとも、最近は日本人も歌がうまくなったんだろうか?時々行く日本食スーパーで流れている日本の若手グループの歌は、聞いていると脳がねじれそうなひどさだが・・・・。ここ15年くらい日本のテレビを見たことがほとんどないから実はわからない。
American Idolの話に戻って、第一弾では特にTamyra Grayというアフリカン・アメリカンの女の子がめちゃくちゃにうまかった。”House is not a home”というソウルフルな曲を歌ったときなど、鳥肌が立つようなうまさだった。抜群なスタイルと、インターナショナルな美しさと、優美さがあって、メロウなものからパンチのある曲までこなせる歌唱力である。
彼女はラッキーでここまで来たのではない。何年も前にMiss Atlantaに選ばれたこともあり、いろいろなオーディションに挑戦して、何度もだめでやっとここまできた。しかも、American Idolでも、やっぱり最後から4番目くらいで落ちてしまった。(彼女が落ちたとき、コメンテーターとして番組に出ていた懐かしのスターPaula Abdulがショックで泣いてしまった)
完璧すぎるのかもしれない。圧倒的過ぎる。Halle BerryのルックスにWhitney Houstonの歌唱力。American Idolに応募した理由として「To share my talent with the world」と答える自信。
もちろん、最後に残った他の挑戦者もそれぞれに個性的だった。オーディションの最初の瞬間から「俺がスターだ」というオーラ(と態度)をまとっている人もいた。歌だってうまい。でも、Tamyraは特別だ、と私には思えた。だから、彼女が落ちたときはとても残念だった。が、番組が終わったあと、テレビドラマへの出演や、レコードデビューも決まって安心。
American Idolに釘付けになってしまったもう一つの理由は、番組がアメリカという国らしさを体現していたからでもある。
それは「ダイヤの原石はお呼びでない」というお国柄である。「自分で磨いてから出直して来い」という国なのだ。「自分でも才能を自覚していない『醜いアヒルの子』が、テニスのコーチ、バレーの先生、過去の大女優、師匠、その他もろもろの『大御所』に認められて、無我夢中で訓練をするうちに、自らも気づかないまま才能が開花する」という日本的なシンデレラストーリーは成り立たない。「才能があって、しかも自分の才能を自覚して、血のにじむ努力をする人」がうようよといるので、ぼーっとしていたら「ダイヤの原石」であったとしても誰も探しに来てくれないからだ。
この「磨くのは自分」というシステムが社会の隅々まで浸透しているから、なんにでも学校がある。ビジネスからワインつくりまで、「自分はダイヤの原石だ」と思ったら、自腹で学校に行って磨いた上で相手に証明するのが、この国のルール。
もう一つ、American Idolにアメリカを感じるのが、超ヘタな人も物怖じせずにオーディションにやってくるところ。
今週は第二弾American Idolの初回で、各地のオーディションの面白いところを集めて見せていた。
審査員の一人、イギリスのレコードレーベルのSimonは、とんでもなく口が悪い。
第一弾では、Simonにけなされて泣いてしまった挑戦者も多々。
それを知りながら、とてつもない異次元の音感を持った人もオーディションにやってきて、ぼろくそに言われても
「いや、自分は歌がうまいのだ」と言い張ってその場を離れず、警備員に連れ出されたりとか。
あと、今回の予選で、明らかにobese(病的に肥満。アメリカ人のほぼ3人に1人がそうなんだが)のアフリカン・アメリカンの女の子が、「学校の友達金を出し合ってオーディションの旅費を出してくれた」といってやってきていた。
こういうのもとてもアメリカっぽい。「自分たちの仲間から、優れた人材が世に出る」ということが誇りなのだ。この子はものすごくうまかった。窓ガラスが割れそうな勢いの声量と、パンチ。一次予選はパス。ただ、前回は、結局最後に残った10人ほどはみんな美形ばかりだったので(歌自慢大会じゃなくて、アイドルを探すのが目的だから)、彼女はどこまでいけるのかな、とも思うけれど、圧倒的にうまいから、是非がんばってほしい。
「侘び寂び」はあまりないが、「圧倒的なもの」がたくさんあるのがここアメリカである。