ペンギンの罠:March of the Penguins

哀しい映画が嫌いだ。哀しくなるからである。

March of the Penguinsは、映画公開された去年の夏から、DVD化を楽しみに待っていたドキュメンタリー映画。南極観測基地に1年間泊り込んで、皇帝ペンギンの生態を追ったもの。
「厳しい自然の中で力強く生きる皇帝ペンギンを見て心温まる」
という著しい期待の元、DVDを入手して見た。

しかし、その実態は・・・皇帝ペンギンのあまりに過酷でつらく悲しい生き様を見せ付けられて呆然。よたよたペンギン歩きで行進する姿すら、全くかわいいと思えないくらい悲惨。

ドキュメンタリーの流れはこんな感じ:

「皇帝ペンギンたちは、夏場3ヶ月ほど海に潜ってたらふくエサを食べるが、その後は海から遠く離れた繁殖地まで歩いて行進する。そこで2週間ほどかけてじっくりパートナーを選ぶと、タマゴを生み、オスとメスが交替でタマゴ・ヒナの面倒を見る。春が終わる頃には、ヒナは1人立ちする」

簡単そうだが、場所が南極だけにその過程はとんでもないことになるのである。

例えば、卵を産んだメスは即座にオスにタマゴを渡して、海岸にエサを取りに戻っていく。繁殖地に行ってから全く食事を取らずにタマゴを産んだメスは体重の3分の1を失い、早くエサを取らないと餓死してしまうから。タマゴは一つだけメスの揃えた足の甲の上に産み落とされ、そこからオスの足の甲の上に移される。

が、タマゴは氷の上に数秒置かれただけで、凍り付いて割れてしまう。ここで、多くのカップルがタマゴ・パスに失敗、100キロも歩いて、2週間かけて見つけたパートナーとの間にせっかく産まれた、たった一つのタマゴがこの一瞬で死んでしまう。カップルは、凍って割れていくタマゴをなす術もなく見つめる。

が、ここで成功しても、その後オスはさらに3ヶ月、タマゴを揃えた足の甲の上に乗せて、ジッとおなかで暖めながらヒナがかえるのを待たないとならない。この間も絶食。移動はかかと歩き。

しかも、ここで南極の冬がやってくる。氷点下80度のブリザード、などという恐ろしい状態になると、オスたちは一団となって互いに暖めあう。横殴りの雪風の直撃を受ける集団の外側と、暖かい内側とを交替しながら、ひと時も休まずずっと動き続けることで、体温を保つ。(この間もかかと歩き)。ビョウビョウと真横から吹き付ける雪の中で、殆ど幾何学的な精密さで寄り合ったペンギンたちが、ザワザワと動き続ける。

マイナス80度ですよ、マイナス80度。もちろん、巣なんてない。氷の世界だから。ひたすら首をすくめて全員が体を寄せ合って耐える。ここで、体の弱っているオスは力尽き、倒れ、眠りに落ちていく。

ああ、しかし、ここまでがんばっても、ヒナが生まれて2日以内にメスがかえってこないとヒナは餓死してしまうのであります。3ヶ月待って、誤差2日しか許されない。

そしてヒナをメスに渡す際も、足の甲から足の甲へと精緻なパス。失敗すると、ヒナは一瞬で凍死する。

そこで今度はオスが海にエサを取りに行くのだが、この時点でオスの体重は当初の半分になっている。しかも冬で氷が大きくなっているため、海辺までの距離はより長い。ゆえに、多くのオスがこの道のりで絶命。(このせいか、皇帝ペンギンはオスが足りない。最初のパートナー探しではメス同士が乱闘になる。)

今度は待つ側になったメスにも、さらにブリザードが襲い掛かる。3週間もの間続くことも。ここでまた、猛吹雪で親とはぐれたヒナが命を落とす。子供を失った母親は、カチカチに固まったヒナを触ってキューキューと泣く。その中には、他人のヒナを奪おうとするメスも出てくる。しかし、泥棒メスは周囲のペンギンたちから体当たりでボコボコにされる。

やがてオスが帰ってくると、今度はメスがエサを取りに行く。

・・・・これをひたすら繰り返して春が来るのを待つ。その間なんと9ヶ月。1年のうち4分の3が、この過酷な子育てに当てられるわけです。

本編を見て暗い気持ちになったので、もしかしたら、心温まるエピソードが満載かも・・・と、Special
Features(DVDのおまけ)の”Of Penguins and Men”、”National Geographic’s
Crittercom: Emperor
Penguins”と続けて見たのだが、それはさらに悲惨。力尽きて死んだペンギンたちの累々たる死体とか、凍り付いたパートナーの死骸の前で悲しげに泣
くペンギンとか。

うーむ・・・。

南極大陸は、昔は熱帯にあったのが、だんだん移動して現在に至った。その間、元々熱帯だった頃に住んでいた動物たちは、他の土地に移動したり、死に絶えたりして、結局ペンギンだけが残った、とのことなのだが、このペンギンの進化は何か間違ってないか。南極大陸に適応したのは偉いことなのであろうが、つらいだけじゃないか。マイナス80度で、ブリザードで、餓死寸前で、かかと歩きで子育て、というのはイクラなんでもひどすぎる。Million Dollar Babyなみに悲惨だ。

せめてカンガルーのように子育て用ポケットくらいあっても良いのではないか。是非、コアラと掛け合わるとか、遺伝子操作するなどして有袋類にしてあげたい。皇帝ペンギンにとっては余計なお世話だろうが。

March of the Penguinsを見て、ふと思い出したのが、村上春樹の短編小説の一節。以下、ちょっと長くなりますが引用して終わりにします。

「彼は私に一度、北極熊の話をしてくれました。北極熊がどれくらい孤独な生き物であるかという話です。彼らは年に一度だけ交尾をします。年に一度だけです。夫婦というような関係は、彼らの世界には存在しません。凍てついた大地の上で一匹の牡の北極熊と一匹の牝の北極熊とが偶発的に出会い、そこで交尾がおこなわれます。それほど長い交尾ではありません。行為が終了すると、牡は何かを恐れるみたいにさっと牝の体から飛び退き、交尾の現場から走って逃げます。文字どおり一目散に、後ろも振り返らずに逃げ去ります。そしてそのあとの一年間を深い孤独のうちに生きるのです。相互コミュニケーションというようなものはいっさい存在しません。心のふれあいもありません。それが北極熊の話です。いずれにせよ、少なくともそれが、私の主人が私に語ってくれたことです」
「なんだか不思議な話ね」とさつきは言った。
「たしかに。不思議な話です」とニミットは生まじめな顔で言った。「そのとき私は主人に尋ねました。じゃあ北極熊はいったい何のために生きているのですか、と。すると主人は我が意を得たような微笑を顔に浮かべ、私に尋ね返しました。『なあニミット、それでは
私たちはいったい何のためにいきているんだい?』と」
- 村上春樹 「タイランド」

ペンギンの罠:March of the Penguins」への12件のフィードバック

  1. わたしも映画館で見ました。このペンギン映画。モーガン・フリーマンのやさしげな口調のナレーションで一瞬だまされますが、たしかに起こっていることはヒサンですよね。でも私は、オスが一番つらいところを引き受けるところが、ちょっと気に入ったのですが。
    ミリオン・ダラー・ベイビーも、映画館から出てきた後、ものすごーく暗い気分になって、「イーストウッドはアカデミー賞欲しさに、批評家うけを狙ってワザと超ヒサンな展開にしたに違いない。なんでお金払ってこんな気分にさせるんだ」とか毒づいていたのですが、みょーに後に残るんですよね、あの映画。わたしはその後、気の進まない作業をするときは、ヒラリースワンクのパンチング・ボール姿をイメージしてがんばることにしました。。。

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  2. お久しぶりです。
    この映画は辛すぎでした。卵凍るし、母親は子供盗もうとするし、ビンタ喰らって村八分ですし。
    皇帝ペンギンのあのビンタは、コミカルに見えても人間が喰らったら肋骨が割れるほどの衝撃だとか。モーガンフリーマンも冷静にナレーションしてますが、実はちびってたのかも。
    この映画、詳しくは知らないんですが、日本で見るとまったく違った吹き替えバージョンがあったとか。
    「お母さーん寒いよー」
     「あらーよしよし、ほらお母さんの下に入りなさい」
    「ワーイ あったかーい!!今夜は鰯のシチューだね」
     「そうねー パパが (生きて)帰ってきたらねー (腹の中から戻して)おいしいご飯たべようね」
    一番面白かったのは、ここです。
    「哀しい映画が嫌いだ。哀しくなるからである。」
    ジャイアンの「なんで殴るかって?お前がノビ太だからだ!ボカッ」ぐらいストレートに響きました。では。

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  3. [etc.] 悲惨なペンギン-ライフ

    渡辺千賀さんのOn Off and Beyondより、 http://www.chikawatanabe.com/blog/2006/01/march_of_the_pe.html おもしろ過ぎ! つーか、内容は面白いどころじゃないんだけどね。 この人は、ビジネスビジネスしてるものだけじゃなく、こういうネタの文章も面白いんだよねぇ。 とりあえず、生まれ変わってもペンギンになりたくないと強く思います。 …

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  4. 私も飛行機の機内でこれを見ましたが、ほんと何のために生きてるんでしょうね。ヒナも多少大きくなっても他の鳥に狙われたりして常に危険にさらされているし。それでも絶滅しないのは、彼らにとってはそんな状況も実は”当たり前”だからでしょうか。マイナス80度の環境に”裸”で生き延びてしまう生き物って凄すぎる。

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  5. えり-san,
    >「イーストウッドはアカデミー賞欲しさに、批評家うけを狙ってワザと超ヒサンな展開にしたに違いない。なんでお金払ってこんな気分にさせるんだ」
    私も思いましたです。はい。いくらなんでもねー・・・。ちなみに、Million Dollar Baby,Eastwoodはなんと、音楽も作曲しているのだ。天才ですねぇ。。
    ジョージ-san,
    やっぱり辛かったですか!同じ感性ですねぇ。
    ビンタはそんなに衝撃なんですか。なるほど・・・。それだけ力強いから、水中ではあんなに速く泳げるんですな。すごい!
    Ted Weapon-san,
    >マイナス80度の環境に”裸”で生き延びてしまう生き物って凄すぎる。
    と書いていただいて考えたのですが、「洋服を着ないと生きていけない人間はかわいそう」と動物に思われてるかも。。。世の中何が「当たり前」かは本当にわかりませんよね。でもやっぱり皇帝ペンギンは辛そうだ、と思いますが。

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  6. 初めまして。。。ほ乳類の生存競争の厳しさはツライものがありますが、でも、これを観て思ったのが動物の本能。どんなにツライ環境でも、環境が厳しいほどそこに適応してしまえば外敵は少ない。ぬくぬくなとこで100万個卵を産む魚の群れより、同じ群れ単位でも生存率は良いかもしれない。平気でハエをたたき殺すことはできても弱った子猫を発見して思わず連れて帰ってしまう人間の反応と同じかもしれませぬ。どんな動物であれ、そこに適応して生きてしまう、という悲しい性かもしれません。

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  7. kentaro-san,
    >平気でハエをたたき殺すことはできても弱った子猫を発見して思わず連れて帰ってしまう
    私も、March of the Penguinsを見た後、クラーイ気持ちになったとき
    「これが、ゴキブリが主人公のドキュメンタリーだったら、何万匹死のうが全然かわいそうじゃないぞ。かわいい歩き方のペンギンだからといってかわいそうに思うのは差別である」と考えようとしたんですが、やっぱりだめでした。。。
    おさる-san,
    確かに・・・鳥には、固体より種の保存に偏った生き物って結構いますよね。

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  8. ペンギンの生態

    渡辺千賀, On Off and Beyond: ペンギンの罠:March of the Penguins@20060111 この記事,面白いのでまだの方はご一読をお勧めします. 内容は, 昔は熱帯だった南極大陸がいまの位置に移動し氷点下80℃にもなる極寒地になった.そこで唯一?生き残ったペンギンがおくるそれはそれは厳しい生活のお話. です. さてなぜペンギンはこうまでして厳しい南極に住むのでしょう? 熱帯や温帯では他の種との生存競争に勝てないのでしょうか? 単に他の場所へ移動するこ…

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  9. 『皇帝ペンギン LA MARCHE DE L’EMPEREUR』

    『皇帝ペンギン』公式サイト:http://www.gaga.ne.jp/emperor-penguin/index2.html
    原題:LA MARCHE DE L’EMPEREUR製作:2005年 フランス監督:リュック・ジャケ声の出演:ロマーヌ・ボーランジェ/シャルル・ベルリング
    《公開時コピー》生命を継ぐ物語また必ず会え……

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  10. 皇帝ペンギン

    日本を脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係も(塚本邦雄『日本人霊歌』)「日本を脱出したい」と思った皇帝ペンギンと皇帝ペンギン飼育係が、もし本当に脱出したらどうなっただろう。飼育係の方は、人間同士、まあ、どこに行ってもやっていけるだろう、私が日本……

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  11. March of The Penguins を、映画館で見ました。
    私のブログにその記事を書いたのですが、渡辺さんのブログにストーリーの流れがとてもうまく書かれていましたので、リンクを張らせていただき、トラックバックもさせていただいてしまいました。
    もし、ご迷惑でしたら、削除してください。
    しかし、それにしても・・・・考えさせられる映画でした。
    ブリザードの中でオスたちが悲鳴のように啼きながら、動きまわるときなんか、本当に胸が痛みました。

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