新年である。シリコンバレーは嵐で明けた。嵐といえば遭難、遭難といえばサバイバル。
Deep Survival: Who Lives, Who Dies, and Whyという本がある。極限状況での遭難から生還した人たちのストーリーを集め、そこから「生還の条件」を語るもの。
「冷静に」「理性的行動を」などいろいろなステップが語られるが、その全ての前に必要なのが
自分のいる場所を、あるがままに受け止める
ということ。
遭難者がどんどん危機の深みにはまるのは、道を見失って迷ったときに
「こんなはずではなかった」
と、「予定されていたあるべき自分の姿」と「現実の自分の姿」のギャップに惑乱、むやみに動き回って「予定されていた自分の姿」に戻ろうとするから。
人間は、常に「あるべき環境」の地図を頭の中に持っている。その地図=メンタルマップと、実際の周囲の環境を照らし合わせて「自分」を認識する。この「メンタルマップ」と「実際の環境」の間のマッピングが大幅に狂うと、パニックに陥る。
迷い始めた遭難者は、マッピングができなくなっても、「実際の環境」に基づいた「メンタルマップ」を再構築するのではなく、逆になんとかして「実際の環境」を「メンタルマップ」に近づけようとする。
「こうすれば、元々知っていたメンタルマップの世界に戻れるのでは」
と、自分がいる場所がどこかもわからないのに、さらに新たな道に分け入り、どんどん深みにはまる。
本には、山で迷った時に、一番生還率が高いのは6歳以下の子供、とある。経験豊富なハンターよりも、高い確率で帰ってくる。その頃の子供は、そもそも最初から精緻なメンタルマップを持っていない。なので、「実際の環境」を「メンタルマップ」に近づけようと歩き回ったりせず、「誰もいない今の自分の場所」を新たなメンタルマップとして、その中で順応しようとする。寒くなれば木の洞に入り、疲れたらじっとしている。
かように、「あるべき予定の姿」というメンタルマップと、「現実の周囲の状況」がかけ離れたときに、自分のメンタルマップの方を修正して再構築できる力が、サバイバルで一番大事なことなのである。
新たなメンタルマップができれば、正しく「現実の周囲の状況」を分析、それに基づいて新たな生き残りのためのプランを立て、それを実行していく余裕もできる。
***
この「マッピング問題」は遭難だけでなく、人生においても誰もが出会うことでは。
例えば、アメリカで暮らし始めてから、「メンタルマップ」と「現実の状況」がかけ離れていることは無数にあった。
「来ると約束した修理の人が来ない」
とか。ここで、「来るといったら、来るはずである」という、「日本で構築されたメンタルマップ」に照らして、「約束しても来ないことはよくある」という「アメリカの現実の状況」に憤慨するのは、まだ単なる惑乱状況。
「約束しても来ないことは良くある」
という「現実」をありのままに受け止め、普通のアメリカ人にどう対応しているかを聞いたりして情報収集し、「信頼できる修理会社を選ぶ」、「約束の人が来ないときの連絡電話先を確認する」、「修理の人が来なくても困らないよう、予定をフレキシブルにしておく」など、新たな対応を取るのがサバイバル。
仕事の上でも、「契約書のプロの弁護士でも、誤字脱字頻出」とか、「海外からもそのためにやってくる参加者がいる会議を、当日ドタキャン」とか、いろいろと「日本で構築されたメンタルマップ」が適用できないことは多々あるが、そのたびに憤慨せずに「ふーん、これが現実か。では、こうやって対応しよう」と考えるのがサバイバル。
海外に行かずとも、人生やキャリアのどこかで「こんなはずではなかった」と途方にくれることは誰にでもあるはず。
以前、三菱商事で働いていた頃、年のころは30くらいの男性が
「大学の同級生で、外資系に就職したヤツが年収3000万だといっていた。俺の方がずっと成績が良かったのに。これはおかしい。三菱商事も俺に3000万払うべきだ。」
とまじめに言っていた。
この人は、「エリートでリッチな自分の姿」という俺様的メンタルマップと、社会の現実とのギャップに出会い、「優秀な(はずの)自分が、劣った(はずの)同級生より収入が低い」という現実の姿の方を曲げようとしていたわけである。
「そうか、外資ってのは結構儲かるんだ。転職を考えてみるか」
とか、
「出世すれば、三菱商事の生涯年収も捨てたもんじゃない。役員目指してがんばろう」
とかいう、「新たなメンタルマップ」を作る方が建設的だが。
***
というわけで、
「道を見失ったら、自分のおかれている状況をアリのままに認識」
をモットーに今年もサバイブしていきたいと思います。
明けましておめでとうございます。
明けましておめでとう御座います。
今年も楽しく読まさせて頂きます。
遭難時は6歳以下の子供が一番生還率が高い、というのは驚きました。無力に見える子供が、実はその適応力でサバイブ出来てしまうなんて意外でした。
確かにアメリカで生活を始めた時、一番早く馴染めたのは当時5歳の息子で、親はアメリカのいい加減さにほとほと困り果てていました。でもやはり若すぎてもダメなのようで、当時2歳の娘はその困難な状況すら把握していませんでしたが。
なんにせよ、ヨーロッパの友達に聞くと日本以外の国ではほとんど約束は守られないし、泥棒や詐欺も多いようです。そんな日本に生まれ住んでいることは、良い事なのか悪い事なのか分からなくなってきた今日この頃です。
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7-12歳というグループは、生存率が一番低いそうです。小さい子供ほど順応性もなく、かつ大人ほどの知恵もない、という最も危ない時期とか・・。
アメリカのいい加減さ、なんだか笑ってしまいますよね。というか、なんとか今年も笑ってごまかしましょう・・・。
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最近といっても読んだのが最近なのでちょっと前に書かれたものも。 「最初のジャーナ…
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初めまして。
す、すいません。トラックバックが三連荘も。
MovableType(ブログツール)の調子が悪く、
まるっきりスパムになってしまいまして。
大変失礼致しました。
拝読させて頂く度、いつも勝手ながら感心(失敬。)、いえ、感服しております。
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はーい、全然OKです。よくあることですので。私もMovableTypeです。Typepadですが。今後ともヨロシクです。
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変えるためにまず変わること、待つことの大事さ:世耕氏の「プロフェッショナル広報戦略」
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