シリコンバレーに住み始めた日本人の多くが仕事以外の面で最初に面食らうのは
「ちょっとした用事で一日がつぶれてしまう」
ということだろう。その理由は、
「どこに何があるかわからない」
ということと、
「どこにあるかわかってもそこまで遠い」
ということだ。その辺の顛末は話し出すときりがないのだが、東京の距離感で言うと、ちょっとトマトを買うのに荻窪に行って、その後ティッシュペーパーを買いに目黒に行き、それからランチを食べに巣鴨に行き、はっと思い出してもう一回荻窪に戻って牛乳を買うという感じだろうか。
さて、そうした最初のカオス状態を乗り越えると、次にやってくる困ったことは
「最低限暮らしていくためのサバイバルスキルは身につけたが、そこから一歩進んで周囲の普通の人が一体全体日常何を思って、何をして、どんな余暇の過ごし方をしているのか、イマイチわからない」
ということではあるまいか。
その辺の常識を身につけるのによい3つの媒体が次の3つである。
1)おなじみSan Jose Mercury News
技術関連産業の動向に関する記事も、シリコンバレーで働く人にとって関係の深そうなものが選ばれていてよいのだが、それ以上に「ローカルの人々がどんな暮らしをしているか」を推測するのにGood。
それには、紙媒体で読む方がよい。オンラインだと、ついつい自分の興味のあるところしか読まないで終わっちゃうことが多く、「近隣で起こっていることをざっと概観する」という感じにならないからだ。
Business、Peninsula、Sportsなど、いろいろなセクションがあるが、満遍なく目を通す。毎日読むのが大変だったら日曜だけでも全部読む。できれば折り込み広告もざっと眺める。アメリカは新聞だけで生活できるようになっているので、これでなんとなくいつどこで何が起こっているかわかるようになる。Arts and Entertainmentというセクションには、テレビ番組の紹介から、ローカルで行われるコンサートや展示会、セミナーなどこのあたりで行われることの殆どが載っている。その他、新しいお店のオープン情報、ボランティア募集案内、不動産の売買、自動車の売り買い情報など、基本的に必要なものは全て新聞に載っている。宗教と思想のセクションもあるので、信心深いアメリカ人(やユダヤ人やインド人などなど)が何を思っているのかも覗くことができる。
日曜版を読む場所としては、是非「朝ごはんや」に行って見て下さい。週末、朝ごはんを食べに行く、というのはアメリカ人の日常にふかーく組み込まれた楽しみ。家族連れやら老夫婦やらがわいわいとやってきているのがわかる。例えばHobee’sなど。
2)Palo Alto Daily News
Palo Alto Dailyといいつつも、Palo Alto以外のMenlo ParkあたりからLos Altosにかけてもカバー。街角の赤い新聞ボックスから無料で入手できる。不動産の広告料で成り立っているのではないかと思われるぐらいたくさんの家の広告が出ている。多くが写真つきなので、「ふーんあの街のこんな家はこういう値段なのか」とバクっとした相場がわかる。
Palo Alto市議会が常時もめにもめている話、宗教や学校と住民の対立、カリフォルニアならではの年間ゴマンとある直接投票の対象となっている問題など、ローカルな話題満載。必見はPersonal Ads。交際相手を求める人の広告。シニアオンリーのものもあったりする。こういうので知り合ったシニアの方はどういうデートをするのであろうか、と興味津々だったのだが、一度とあるタイレストランで隣に座った年のころ60才くらいのカップルは、会話の内容が「初デート」であった。(趣味は?とか)そうか、こうしてデートをするのか、と納得したり。
というわけで、恋愛・結婚から宗教・政治まで超ローカルにカバーするDaily Newsである。
3)San Francisco (月刊誌)
ベイエリアのような田舎に暮らしていても、ちょっとはおしゃれなこともしたい、という人に。San Francisco近辺の社交界(そうです、そういうものがあるのだ)の人たちが何をしているか、とか、2ヶ月先まで予約が取れないレストランの紹介とか、PCも携帯電話も「つながらない」宿泊地とか、カナダやメキシコなどのいい感じのバケーションリゾートとか、そういう話。
例えば今の号のCaboの記事などよむと、すぐに行きたくなる。
KQEDというNPOのラジオ局に一定額以上寄付すると購読権がついてくる。
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昔日本のコメディアンか誰かがこんなことを書いていた。ちょっとシモネタなのだが。
「洋式トイレというのは、ふたを開けてそれを抱えるよう(つまり、あるべき姿とは逆)に座るものだと大人になるまで信じていた。で、ある日トイレに駆け込んだ人が座りながらドアを閉めるのを目撃、自分と逆向きに座っているのを見て、初めてそれまでの自分が間違っていたことに気づいた。」
外国で暮らすというのは、「トイレ逆座り的」なことが多々あるものである。つまり「全く持っておかしな間違いをし続けているが、中々他人の行動を観察することもできない類の行為であるため、間違っていることに気づかずにずっと暮らしてしまう」ということ。
昔仕事の知り合いで
「アメリカ出張に行くとお金がかかる・・・」
と嘆いている人がいて、そんなの会社の経費で出してもらえるはずなのになぜ、と思ったら
「毎日ホテルの宿泊費の15%をチップとして、自腹を切って置いているから」
とのこと。しかもその人の出張はコムデックスなんかで一泊300ドルとかの高額になっているホテルに泊まることが多く、毎日45ドルとか大金を部屋にチップとしておいていたのである。
部屋には二日目以降やたらにお花やら果物やらがあったそうだが、さもありなん・・・。しかしチップというのは、どんなサービスに対して・いくら・どうやって出すのか、中々わからないものである。私なんか、最初にアメリカに旅行した時、クレジットカードでどうやってチップを払うかわからず、ウェイターに聞いてしまった。まぁそういうのも楽しいものだが、日常毎日これだと疲れてしまう。
もとい。地元の暮らしに溶け込むには、もちろん地元の知り合いをたくさん作る、というのが良いのだが、その付加的知識増強を図り、少しでも「トイレ逆座り的」事象を減らすために、紙媒体で補強するのも一考では、と思うのであった。
