恐れが非論理的な決断を産む

New York TimesのIn Hard Times, Fear Can Impair Decision-Making 。経済神経学者が、恐怖により人々の決断がどう捻じ曲げられるかについて書いた記事。

「将来に恐れを感じていると、人間は現状維持に走り、新しいものを探索する、リスクを取るといった行動は抑制される」ということ。そんなの当たり前じゃないか、と思うかもしれないが、ポイントは「非論理的なまでに」現状維持を図り、「非論理的なまでに」新規探索を拒むということ。

「将来の恐れがある際に取る非論理的な行動」としてはこんな例が。

we attached electrodes to the tops of their feet. Although not
unbearably painful, the shocks were designed to be unpleasant enough
that the individual would prefer to avoid them altogether.

The
kicker was that they had to wait for the shocks. Every trial began with
a statement of how big the shock would be and how long they would have
to wait for it: a range of one to almost 30 seconds. For many people,
the wait was worse than the shock. Given a choice, almost everyone
preferred to expedite the shock rather than wait for it. Nearly a third
feared waiting so much that, when given the chance, they preferred
getting a bigger shock right away to waiting for a smaller shock later.
It sounds illogical, but fear — whether of pain or of losing a job —
does strange things to decision-making.

特定の合図の後に足に電流を流す。電流が流れると痛い。合図の後電流が流れるまでには1-30秒の間がある。多くの人は「どうせ後で痛いなら、今すぐの痛みのほうが良い」と言う。3人に一人は、

「後で痛いくらいだったら、今すぐ、より強い痛みを感じるほうが良い」

と。これ非論理的、非合理的でございます。生物としての人間としてみたら、今か将来かに関わらず、弱い痛みのほうが望ましい。恐怖により人はこのような判断をするようになる、と。

なぜなら「恐怖」と「痛み」は同じ脳の場所で感じる、ということで、「実際の痛み」ではない「恐怖」も、同じようなものとして脳は知覚する、と。で、その強度が人によっては異なる、と。

さらには

when our brains sense  pain, or anticipate loss, we tend to hold onto what we have

「脳が痛みや起こるべき喪失を感知すると、今もっているものにしがみつく傾向がある」

「自分が今もっているもの」が、ほかの人から見るよりもずっと大事なものに見えてくるわけです。そういえば、昔、最初の会社を辞める前、

「こんなすばらしい会社のすばらしい仕事を辞めてしまったら、この世の終わりなのではないか」

と感じたものだが、辞めてみたらそこまですばらしくもなかった。いや、良い会社だったのだが、「辞めたらこの世の終わり」というほどではなかったと、そういうこと。当時は「辞めた先の将来」が怖かったんですな、きっと。

というわけで、合理的な判断を下すためにはまず脳を「恐怖」という概念から開放してあげる必要がある。そのためには

It means avoiding people who are overly pessimistic about the economy.
It means tuning out media that fan emotional flames. Unless you are a
day-trader, it means closing the Web page with the market ticker. It
does mean being prepared, but not being a hypervigilant,
everyone-in-the-bunker type.

「経済に関して大げさなまでに悲観的な人を避ける。悪い経済を煽るようなメディアを見ない・聞かない。デイトレーダーでもない限り、株式市場のサイトは見ない。準備を怠ってはいけないが、悪いことばかり重箱の隅をつつくように探って、全員防空壕へ退避しろという風になってはならない。」

これは、「世の中はどうあるべきか」という話ではなくて、個人がどう考えるべきか、というお話。

世の中のみんながどれだけ防空壕に隠れようが、「自分」は恐怖を退け、合理的な判断をすることによって、「自分」は正しいレベルのリスクをとり、正しいレベルのリターンを得ることができる、とそういうことです。

恐れが非論理的な決断を産む」への11件のフィードバック

  1. 「どうせ後で痛いなら、今すぐの痛みのほうが良い」

    「どうせ後で痛いなら、痛みを感じるまでビクビクと生きてその間の時間を台無しにするくらいなら、今すぐの痛みのほうが(幾分でも)良い(かもしれない)」
    というように解釈すれば非合理的ではないのでは。
    「後で痛いくらいだったら、今すぐ、より強い痛みを感じるほうが良い」
    これも
    「後で痛いくらいだったら、今すぐ、より強い痛みを感じ(てでも早く処理してしまって時間を有効活用でき)るほうが良い」
    という言外のニュアンスがあるのかもしれないと思えば非合理的とも言えないのでは。
    重箱の隅をつつくような発言で申し訳ありませんが気になったので・・。

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  2. chikaです。
    おっしゃるとおり!まさにその解釈が正しくて、「本人にとっては非合理的でない」のです。(だから神経経済学)
    恐怖を見つめれば見るほど、判断が「自分の中では」合理的に、しかし「ハタから見たら」非合理的(=割に合わないのにどうして?)になるわけです。
    なので、記事も「恐怖を乗り越えよう」といっているのではなく
    「脳が意味のない恐怖を感じなくて良いように、無意味に悲観的な情報は意思的にシャットアウトしよう」
    といっております。恐怖を感じると「自分の中では『合理的』」に将来の痛みがどんどん大きくなっていくので。(痛み総計=将来の痛み+恐怖を感じている時間の積分値って感じでしょうか。これもおっしゃるとおりです)。
    しかし、そもそも無駄な恐怖にとらわれていなければ、生きていくうえでより合理的な弱い痛みを選ぶことができる。わたしはそうありたい。そういうことです。

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  3. 「景気が悪いときはレイオフの危険が上がるから、そして新入社員のほうがレイオフされやすいから転職はとりあえず待っとけ」はどれぐらい合理的なんでしょうか。恐怖で目の前のチャンスの大きさを過少評価してしまうと合理的じゃなくなりそうですが。

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  4. 「後で痛いくらいだったら、今すぐ、より強い痛みを感じるほうが良い」
    というのと、
    「脳が痛みや起こるべき喪失を感知すると、今もっているものにしがみつく傾向がある」
    は、相反しているような気が。
    例えば株価がガンガン下がっているような状況で、前者の状態であれば、「損が出てもいいから、今すぐ全部売る!」となるだろうし、後者の状態であれば「何があってもこの株は売れない。。。」となるのでは。
    ビル火災とかで、救助を待ちきれずに飛び降りちゃう人とかは、たぶん前者のような状態なのでしょうね。

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  5. サンディエゴ在の例のトップガンの航空機が墜落して日本人が
    死傷したというニュースを聞いて、思わず渡辺さんの事を心配
    してしまいました~。
    今回の日記、確かに人間「怖いもの見たさ」という性質を持って
    いるものだと思うし、今の時期株をやっていれば当然ついつい
    株価を気にしてしまう。。。
    きっと恐怖感が通常の冷静な判断を鈍らせる事必至でしょう。
    クリスマス商戦が一年の消費量の40%という米国で、国民皆
    買い控え等による消費低迷の悪循環に陥っている様子。
    賃上げ凍結、レイオフ等が横行する足元の環境下に於いて、
    積極消費を奨励する事は出来ないものの、国民皆消費抑制
    ムードに陥るリスクに対し新聞記事は警鐘を鳴らせているという
    意味でNew York Timesはタイムリーな記事を掲載したと思います。
    世界各国で盛んに取り組んでいる景気刺激策が功を奏して
    一日も早く「負のスパイラル」状況から脱する時期が訪れる事を
    心より祈っています。

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  6. 株価最安値で号外を出す馬鹿新聞や、節約節約と言う馬鹿テレビはなんとかしてほしい。
    広告をどんどん出してもらわないといけないのに、自分の足下を掘ってどうするのか?
    経営者はをクビにしろ。

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  7. > 「こんなすばらしい会社のすばらしい仕事を辞めてしまったら、この世の終わりなのではないか」
    自分の場合は「この会社&日本にいては自分がダメになる」と思い、海外転職を模索したら意外とチャンスが多かったので、昨年末に転職を決意して今はロンドンで仕事をしています。
    リスクに対する恐れで保守的になるよりも、希望を持って前進した方が、人生は遥かに楽しいということを、ようやく学んだ次第です(笑)

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  8. サラリーマンの多くは、欲望と不安と恐怖で非合理的な判断をしていると思っています。シリコンバレーの人は、欲望が強いような気がします。一方で日本人は、不安と恐怖に支配され、上司の顔色ばかり…..。これ以上は言えませんね。

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  9. 派遣村などの件で、いろんな方と議論していて思っていたのは、「労働者はなぜ合理的な選択をしたがらないのだろう」という事でした。Chikaさんの記事に、思わず「目から鱗」が落ちたような気持ちになりました。

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