嘘をつく人

アメリカで、10年以上大富豪Rockefellerの名を語ってきた男が捕まった。最終的には別れた妻の元から娘を誘拐したことで追っ手がかかったのであった。

しかし、捜査の過程で、実は過去に別の複数の著名な苗字を語って全米に出没、昔住んでいた家の大家のカップルが行方不明になった事件の参考人、しかも正体はドイツ人だった、ということがわかって、あちこちで大きく取り上げられている。先週末のNew York Timesにも特集として大々的に。

10年前後結婚生活を共にした奥さんはハーバードMBA、マッキンゼーで女性として最年少でディレクターになり、今はロンドンオフィスで働いている、ということで、この人もマスコミに追われている。気の毒・・・。

偽Rockefeller氏は、30年前の高校時代にドイツからアメリカに交換留学生として渡り、それっきり姿をくらまし、その後はChichester、Crowなどのいろいろな名前を使って出没、90年代前半にはRockefellerという名前となり、その後元妻と会って結婚してからはかなりの間Rockefellerに落ち着いていたようだ。

Rockefeller氏は豪華な車、豪華な家、豪華な絵画コレクションなどで周囲を煙に巻いてきたのだが、本人は「奥さんの収入で全てまかなってきた」と主張。まぁマッキンゼーのディレクターだったら可能ですな。離婚したときに、慰謝料を元妻から80万ドルもらったそうなので、とりあえずはそれで離婚後も優雅な暮らしをしてきた模様。

New York Timesでは、ボストンの検事のコメントも載っていて、いわく

“Gerhartsreiter is at the center of the longest con I’ve seen in my professional career,”

GerhartsreiterはRockefeller氏の本名。「彼の詐欺歴は、検事さんが見てきた中で最長」、と。

普通は、人から金を掠め取る過程のどこかで足が付く、というのがお決まりのパターンだと思うが、この人の場合やっぱり稼げる奥さんと一緒になれたことが嘘の長期化を可能にしたかと。

しかし、ちょっと疑問なのは過去10年間、奥さんが働いている間、何をしてたのかということ。「小国の財務アドバイザーをしている」とか周りには言っていたようですが、奥さんは不思議に思わなかったんでしょうか。最後は変だと思ったから離婚になったのでしょうが・・・・。

今日のラジオ番組でもこの人のことが取り上げられていて、専門家の人が

「騙されるのはありとあらゆるタイプの人。教育レベル、生活レベル等は関係ない。騙すプロに『こいつを騙す』とターゲットにされたら、それを見極めることはきわめて難しい。つまり、騙されるかどうかは、騙しのプロにターゲットにされるかどうかだけの違い」

てなことを言っていました。というわけで、長らくターゲットにされた奥様は大変お気の毒です。

勝間和代さんが「勝間和代のインディペンデントな生き方実践ガイド」という、自立した女性の生き方のお勧め本で、世の中の男には自立して稼げる女性を認めない「オレ様」と、そういう女性に依存してしまう人がいるので気をつけよう、と書いているが、Rockefeller氏は「依存」の超級版ですな。

で、さらにふと思い出したのはFrank Abagnale。経歴から年齢から何から何まで詐称して複数の人物に成りすまして周囲を騙した有名人。以前も触れた映画でCatch Me If You Canというのがあるが、これはAbagnaleがモデル。過去エントリーから引用すると

17-8歳の若さで、パイロット、医者、弁護士になりすまし、世界をただで飛びまくり、数百万ドルの偽造小切手を使ったFrank
Abagnaleのお話。主演のDiCaprioは好きでないのだが、実話ですよ、実話。そして、なんと「おまけ」コンテンツで、本物のFrank
Abagnaleの話が聞けるのだ。
捕まってしばらく監獄で過ごした後、28歳で特別に釈放されFBIで小切手偽造犯罪の部署に勤め、さらには、偽造されにくい小切手の作り方を銀行などに指導するコンサルティングビジネスで、詐欺師時代の10倍近い収入を得るにいたった

Abagnale氏は、最近でもコンピュータセキュリティのコンファレンスのスピーカーになったり、きちんとまっとうな道を歩かれている模様。

このAbagnaleもそうなんだが、偽Rockefellerもものすごく頭の回転が速そう。偽Rockefellerは、アートから政治から物理から、ありとあらゆることに精通していて、変幻自在に知的で楽しい会話ができたそうですし。
Abagnaleのように早くに逮捕されていれば、逆にその後更正してまっとうな人生が歩めた・・かも?

ちなみに、私、こういう感じの知り合いが一人います。まぁ彼の場合は、経歴は詐称ではなく、大学を19歳だか20歳だかで卒業して、大学院をスルスルと卒業するやいなや起業、ナスダックにIPO、と大変華々しい。・・・のであるが、その後だんだんと悪い噂を聞くようになってきた。国際的スケールで犯罪ぎりぎりのことをして大金を動かしている模様です。私が知っている彼は、嘘つきではないのだが、どこか世界観のネジがゆるんでいる感じが常にあった。目的さえクリアにあれば大嘘をつき、その後嘘発見器にかけられても針がびくりとも揺れない、みたいな。「焦る」「後悔する」といったことが無縁なタイプです。しかも極めて頭がよく、見た目さわやか。

今に大事件の渦中の人になるのではないか、と内心思っていたりします。はい。

嘘をつく人」への7件のフィードバック

  1. 嘘を嘘だと自覚していれば早く発覚しますが、嘘を真実だと信じている場合は発覚が難しくなります。後者をわかりやすく言うと、化粧やファッションで美しいと信じている女性は、信じることが強化されればされるほど、確かに外見は美しくなっていきます。たくさんの本を読んで知識が蓄積されると、自分で考えているのだと信じるようになる男性は、同じく信じることが強化されれば、自己の哲学が深まっていっているようにも見えるようになり、さらに多くの人にそう映るように勤勉的態度になっていきます。そもそも、このタイプの人は、信じる「行為」の訓練がなく自己流であるから、道からはずれていくのですね。よく言う、嘘を嘘と見抜くというのは、真実を疑う「勇気(臆病でない)」であったり、正義に対して反逆できる「少数」であるかなのでしょう。もし、友人知人が犯罪スレスレなことをしているならば、絶交するというのが良心かもしれませんよ。その友人知人が信じていることを考え直すきっかけになる「いつか」のために。

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  2. 「嘘をつく」のと「帳尻あわせをする」は近い、または紙一重な気がする。ちなみに後者の行為は私がよく行います。
    詐欺、嘘、裏切り、プロパガンダなど、見極めは、個人の見識によりけりと思います。
    丁度、TVばかり鑑賞する息子に、表わされるものだけが真実かというトピックで話していたところです。息子にとって、「なんでも疑え」または「信頼は大事」と相反する言葉を聞かされることは、ジレンマだと思う。
    あと騙される人の受け取りもそれぞれと思う。
    思い出されるのは、映画『ペテン師とサギ師-だまされてリビエラ』
    離婚屋などもいる今世、なんでもだれでも演じることが出来そうな気がしないでもない・・・

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  3. マッキンゼーのディレクターが10年間も騙された話に興味があります(笑)
    小説化・映画化の権利獲得にハリウッドは早くも動いているのでしょうか・・・?

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  4. >どこか世界観のネジがゆるんでいる感じ
    テッド・バンディとかジェフリー・ダーマーみたいな、今回のテーマとは違う系統の犯罪者の評伝を読んでも、やはりそういう「感じ」を感じます。
    人生のどこで、どういうきっかけで、「ネジがゆるむ」のか、それともやっぱり生まれつき「ゆるんで」るのか。。。謎ですね。
    我々「フツーの人」としては、そういう人生と交差せずに済むように祈るくらいしかないんでしょうかねぇ。

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  5. 初めてこちらに伺って拝見したばかりなのにコメントをさせて戴いても良いのだろうかと思いつつ失礼致します…。
    嘘を吐く人に最近まで振り回されていたので思わず書き込みしてしまいました。
    大学と勤務先は詐称ではなかったものの、職種に法外な法螺あり。一番最近判って一番びっくりしたのが人種詐称(色まで変えていました)。その流れで宗教も勿論詐称。家庭環境も詐称。その前には女性関係詐称。名前も完全に改名していて(アメリカでは簡単だそうですね)もう一体どうなっているんだか。
    月曜に倒産した投資銀行のマネージャー職を去年首になった後に今年になって別な巨大銀行の投資部門にもぐりこみアソシエイトしていますが、会社の女の子には手を出さない主義だそうでバレる事ないつもりみたいです。
    それこそ『良心のない人たち』という本を読みましたが、いるんですね、こういう”人”が本当に…。実際自分が被害を受けるまでは想像した事すらありませんでした。

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