サーフボードコア:どうして日本からクラークフォーム社の後釜が出ないのかな?

ウレタンでサーフボードのコアを作る南カリフォルニアのClark Foam社が昨年末突然廃業。Clark Foamは、毎日1000のサーフボードコアを製造、世界のコア供給の80-90%を占めていたので、業界はパニックに。

・・・・いや、私は別にサーフィンはやらないのだが、一応ニュースで知っておりました。数多くあった供給先に、突然「本日を持って徹底的に廃業」というファックスを送りつけた、というドラマチックな最後。事の顛末は混乱と謎に包まれていたようだが、8月21日号のNew Yorkerに6ページにわたる詳細なレポートが出ておりました。一言で言うと、
「サーフボードコア一筋50年、頑固一徹の爺さんが怒り狂って廃業した」
ということらしい。記事はオンラインでは読めない。残念ながら。(記事について語ったブログは発見したが。)

元々、貧乏なサーファーだったClark爺さん。名前はGordonだが、あだ名はGrubby。「薄汚い」みたいな意味で、いかにも頑固そうだ。50年代初頭、サーフボードのコアは木材だったが、水を吸うと重くなるのが難点だった。元々化学の素養があったGrubbyが、ウレタン活用を思いつき、試行錯誤の末に高品質のコアを安く作る方法を編み出す。

ある時期までは、大手メーカーだけに卸していたが、ちょっとしたいさかいがあった時に、
「誰にでも同じ卸価格で売る」
と宣言。家内工業的にサーフボードを作る人たちでも、ハイレベルのコアが入手できるようになって、特に南カリフォルニアにはこまごまとしたサーフボードメーカーが多数繁栄。

Clarkじじいは、非常に激しい人だったようで、自分の販売先が他のコアメーカーからも購入していることが発覚すると、それ以降は納期を遅らせたりといった嫌がらせで報復。競合を訴訟して追い落としたり。その一方で、性能向上には執念を燃やし、また、顧客のニーズにあわせてちょっとしたカーブの要求にも応じて「型」をどんどん作った。(型はコンクリート)。最後には、数千種類のコアがカタログに掲載されるまでに。

廃業は、「役所の安全基準に応じていたら、Clark Foamの理想とするコアはできない」というのが一応直接のきっかけらしい。しかし、その廃業の様子はすごいです。工場の作業員全員に

「自分の使ってきた道具、型、機械、全てを破壊せよ」

と命令したそうな。コンクリートの型は粉砕、ツール類もバーナーで焼ききる、という念の入れよう。ちょっとしたウレタンの配合の具合とか、強化用の芯を入れるための切り方とか、その手の製造技術に50年のノウハウが蓄積していたが、その殆どが跡形もなくこの世から消滅。特にウレタンを流し込む「型」は、世界のトップサーファーからの特注で作ったものも多く垂涎の的だったが、これも徹底的に破壊。

その後、Clark Foam並みの性能、品種、安価さを三つ巴で提供するフォームコア会社は出てきていないとのこと。

うーむ、なんかこれ、日本の町工場的中小企業がものすごい得意そうな気がするんですが。Clark Foamは社員120人だったということで、アメリカで120人の工員を養えるということは、日本だったらもっと大人数の雇用を生み出せそう。(アメリカのこの手の労働者は結構高いので。)

日本だと120人超の社員のいる製造業って、結構大きいかも。が、協調が得意な日本人、この際「社員20名」みたいな5-6社が一致団結して一つのブランドを作るとか。また、「サーファーしかわからない大事な性能ポイント」みたいなのがコア製造には多数あるらしいが、そこは、「オヤジは一徹の工場長、ドラ息子はサーフィン三昧」みたいなコンビネーションの家族っていそうじゃないですか。そんな親子が、手を取り合って、血と汗と涙の世界最高のコア製造!というのは美しいかと。・・なんて、シロウトの私が考えることは、既に行われているのでしょうか。

サーフボードコア:どうして日本からクラークフォーム社の後釜が出ないのかな?」への3件のフィードバック

  1. アメリカは、確かに役所がうるさい。製造業の安全基準系だと、多分EPAとかOSHAとかなんでしょうが、違反が見つかると罰金の上、営業停止も。Grubby爺さん、逆ギレってとこかしら? 日本の役所はどうなんでしょう。。。 
    ところで、気になって、Clark Foamでグーグルしてみたら、Clark Foam Europeなるものが。これがEuropeに場所を移しての新たな開業なのか、はたまた米国Clark Foamとは無関係なのか等々、わかりませんが、サーフボードブランクの会社であることには間違いないようです。 

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  2. CHIKAさん、
    ご無沙汰しております。元ラーメン屋の遠藤です。
    クラークの記事拝見しました。
    実は私は波乗り暦27年で(いまだに海三昧です)、1999年からサーフボードのオンラインショップ(www.psc-longboard.com)の運営をしている関係で、このクラーク廃業の影響をモロに被りました。このおかげで今年の1月から4月までは受注なし(といっても細々としか売れてませんが..)。
    確かにクラークはアメリカでは90%近いシェアをもち、その歴史の長さからテンプレート(型)も豊富だし自前の工場で設備も全て償却積みのために他社の追従を許さない低価格で納期も早く申し分なかっただけに私の工場では100%クラーク使用だったので、何人ものワーカーが職を失いました。
    日本では以前よりオーストラリア製のフォームがかなりポピュラーだったのでそれほど影響は無かったようですが、こちらではサーフィン業界の9/11といわれるくらい衝撃は大きかったです。
    最近ようやくメキシコ製や中国製のフォームが流通し始め何とか元気を取り戻してきましたが、やはり品質や値段はクラークにはかなわないのが現状です..。ただ面白いのは一部のメーカーや工場でウレタンに代わる素材がないかということでエポキシ樹脂などを使用したものが色々でてきて、こちらも市場に出回るようになってきました。今は未だ値段は高く品質もいまいちなのですが、ウレタンに比べ害も少なく、素材自身も強度があって軽量なので、これはこれで業界にとっては革新的な流れにつながるかもしれません。
    というわけで長くなってしまいましたが、自分にとっても非常にインパクトのある出来事でした。

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  3. クラークフォームのブランクス

    クラークフォーム社が廃業したというニュースは世界中のサーフィン関係者(ビジネスも
    プロもサーファーも何もかも)に衝撃が走りました。あれから1年・・・・。
    廃業の影響は末端であるコンシューマーにまで及ぼし、サーフショップ店頭の在庫の値段も
    高騰するという摩訶不思議な現象となりました。その時すでに板を購入してセーフだったけど
    ハワイ関連からの情報では、このブランクスを使用していない(はず)ドナルドタカヤマの板
    もなぜか高騰したとのこと!(便乗値上げか!)
    あれから1年・・・・。その後…..

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