混乱的マネジメント

先週JTPA行動主義ーレム・コールハースの著者の瀧口 範子さんをお招きし、建築家コールハースについて語って頂いた。コールハースは建築の大御所、であります。しかし(というか、だからこそ、なのか)、その行動様式は滅茶苦茶。世界を常に飛び歩いているが、どこに出張するにも秘書が3パターンのチケットを手配、どんな風に気が変わっても対応できるようにしているとか。(そんなコールハースの気まぐれに付き合って著書をモノした瀧口さんは本当に偉い)

そんな風でありながら、数十人、数百人の事務所を経営。コールハースというスターの下で働きたい、という意欲溢れる人ばかりなので成り立っているようだが、それで思い出したのが、The Power of Indirect Influenceという本。

通常のアメリカンで直接的なスタイルを会得した人に、さらにその上を行く間接的影響力によるマネジメント方法を説く。

「模範になる行動をとりましょう」みたいな当たり前のことものっているが、かなり笑えるものもある。例えば

Paradox
本当は相手にやって欲しくないことを敢えて言い、相手の奮起を促す。例えば、「この仕事は私には荷が重い」などと泣き言を言う人に「そんなことない、がんばって!」と鼓舞しても、何度も同じ泣き言を繰り返される時。「そう、確かにこの仕事はあなたには荷が重い。仕事やめる?」と聞く、とか。

Confusing
訳のわからないことをダラダラといい続けることで、相手に聞く意志を失わせ、自分の頭で考え、イニシアティブをとって行動するようにする。例えばこんな風に語りかけたり:

「多分、私の言うことは、覚えててくれるかもしれないし、忘れてしまうかもしれないけど、でも、それでもいいですよ。誰だって時には何か忘れることもあるし、時には覚えていることもあるんだから。それに、もちろん、誰だって本当に何かを忘れるなんてことはなくて、ちょっと後ろ向きに戻っちゃったり、前に進みすぎたりして、覚えていることを忘れたか、忘れることを覚えているだけなんだから・・・」

聞いている側はボーっとなって、自分の考えに浸り、自分でなんとかしなくちゃ、と考えるようになる、と。

Confusingの注意事項としては

A leader who uses Confusing has to be smart, capable, knowledgeable, credible, and purposeful. Otherwise, he will fall flat on his face, and hte target group will think he is an idiot.

本当は優秀なリーダーでないと、単なるバカだと思われます、と。

コールハースは多分このConfusingの派生系。「何がなんだかわからないトップを抱え、下のものがシャカリキになって物事をきちんと進めようとする」ということで事務所経営は成り立っているのではないでしょうか。世界に冠たるスター建築家ということで、どんな混乱する行動をとっても部下からの尊敬は(ある程度)保たれるし。

さて、Confusingに似たものとして本で紹介されているのがColumbo Approach。「刑事コロンボ型」。
「あれれ、よくわかんないですけどね」
と、おばかさんで要領が悪い振りをすることで、相手の警戒心を解き、真実の情報を相手から引き出す。例えば、ミスを犯した部下がその失敗を隠して他に責任を押し付けようとしているようなとき、詰問しても仕方なさそうだったら、嘘だとわかっている部下の報告でも
「え、そんなことがあったんだ」
と心から驚いた振りをして言う。で、
「いやーよくわからないから、もうちょっと説明して」
みたいに聞き続けることで、相手の説明がどんどん明快になっていく、と。

刑事コロンボ型は、特に普段は隙がなく優秀なリーダーがすると非常に効果的だそうです。
「服装をちょっとだらしなくしたり、書類を落としたり、机を汚くしたり、話すときに言いよどんだり、意味もなく宙を見据えたり」
といった行動を足すことでさらに効果的になるそう。ただし、全部一度にやってはいけません、と。それはそうです。

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ちなみに、マネジメントということでは、某大手シリコンバレー企業でVP of Engineeringを勤める日本人の方と最近ランチをご一緒した。いわく、「joint VP of engineering」になった、とのこと。それまで4人のVPが分担してマネージしていたエンジニアリング部門を一つにまとめ、二人のVPが共同責任で管理するそう。(残りの2人のVPのうち、一人は会社をやめ、もう一人は別部門へ、とのこと)なんと、Eメールアドレスも2人で共同のものを持つそう。(2人別々のものもそれ以外にあるそうですが)エンジニアリング部門の総数は400人ということで、非常に大変そう。この「ジョイント・ヘッド方式」はIntelやCompaqを参考にしたそうですが。

ちなみに、joint VPの片割れとは、それまで犬猿の仲だったそうで、すごいチャレンジ。それぞれ「プロセスをきっちりまとめる型」と「ひらめき型」という異なるタイプということで、その違いが生きて1+1が2以上になるのか、大混乱に陥るのか・・・。またお話を聞けるのを楽しみにしているのでした。

混乱的マネジメント」への7件のフィードバック

  1. [Mysterious usual life] 新たな後輩管理術:Confusing

    [http://www.chikawatanabe.com/blog/2005/05/post_2.html:title=chicaさんのblog]から. なるほど.俺の後輩だった人たちは非常に優秀になって出て行くわけだが,知らないにConfusingを実践してたんだなー.(�…

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  2. 私の育ての上司はconfusingの一種?”意味不明”型?だったかもしれません。何か怒っているのはわかるのですが、「バッ!○×★□ダウ!※※ドワ!△÷〆ボウ!・・・」と何行ってるのはわからない。でも、低音で、迫力はあるのでなんとなく恐縮してしまう。ついには、こちらも意を決して「すみません。おっしゃってることがわからないんですが・・・」といってみました。すると「バッ!○×★!△÷〆ボウ!・・・」といいながら、書類に書き込んでくれたのですが、これまた読解不能!
    こりゃもう考えるしかないわけでして、一晩考えて直してやっとOKになりました。
    未だもってあの方が何を教えようとしていたのかはわかりませんが、少なくとも自分で納得いくまで思考を停止させずに考え続けることは、この上司の時にクセがついたと思います。今では、自分が「バッ!○×※※ドワ!△」といってたりするかもしれませんけど・・・ :-)

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  3. いつも拝見しております。
    リンクさせて頂きました。メルアドが見当たらなかったのでここに書かせて
    頂いております。
    http://kousinpage.com/bnews/
    からリンクさせて頂いております。よろしくお願いします。何かございましたら、メールにてお願いいたします。
    とりいそぎ、ご報告まで。

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  4. gt-san,
    Madrid!いいですね。Madridは一度暮らしてみたい街です。湿り気があって、大昔の繁栄の後がちょっとカビ生えかけで残っていてすばらしいです。。
    emans-san,
    その上司の方は、どちらかというと、confusingというよりcrypticでは?ドワ!
    め-san,
    そうですね、長嶋監督は天才アーティスト系ですよね。だから、confusingでも許されるんじゃないでしょうか。
    ちなみにリンク先に『鶏肉料理を頼んだとき「アイム チキン」』と言ったという逸話が書いてありましたけど、三菱商事の入社時の英語研修で、
    「『I』と『Newspaper』を使って文を作りなさい」
    といわれて
    「I am a newspaper」
    と言った人がいたとか。
    (ちなみに、多分同じ人だと思いますが、「昨日の夜は何をしましたか?」という質問に
    「I am a disco」
    と答えたそうな・・とほほ。)
    kousinpage.com
    りんくありがとうございました。

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  5. 初めまして。Bloglines経由で発見して読ませていただきました。なかなか興味深いですね。私は、現在Orange Countyの会社で進んでるちっちゃなソフトウェア開発プロジェクトを日本から監督する役目を負わされておりまして…これを読んでたら何か自分が日常的に本能的になのか、かなりColumbo Approachに近いもどきをやってるような気がします。電子メール経由なので細かいことが判明したときには手遅れ、ってことが多いのが困りモノです。他のテクニックも使えそうだし、この本、買ってみようかな…。

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M.H. への返信 コメントをキャンセル