増殖とダイバーシティ

Dr. Tatiana’s Sex Advice to All Creationは、スタンフォードで学び、オクスフォードでPhDを取ったOlivia Judsonが書いた、進化生物学の本。「森羅万象の生き物向けセックス相談室」ということで、動物(や昆虫やバクテリアやその他いろいろ)からの相談に回答する形式です。

ま、どれも大おかしいのですが、特に印象に残った「無性生殖で8500万年生き残っているワムシ」の話。

ワムシ(といってもなんのことやら、ですが、要はプランクトン)の一種にBdelloid rotiferというのがいて、彼女たちは自らのクローンを作ることで種としてずっと存命している。通常、細胞内に核を持つ真核生物は、「他人とエッチする」という有性生殖が必須。(ワムシは真核生物)そうしないと、遺伝子が混ざらず、周り中同じ固体ばっかりになって、ちょっとした環境の変化で絶滅してしまうから。

ところがBdelloidはクローン一筋で8500万年存続してきた。しかも、遺伝子シャッフルが起こっていないにも関わらず、8500万年の間に数百もの異なる種類に分化。有性生殖しているワムシよりずばぬけけて多様になっている、という驚くべき結果。

有性生殖だと、一人におこった突然変異も、その後他人と遺伝子をマゼマゼして子孫へとわたっていく間に平均化されて、長い目で見ると飛びぬけて変なやつは誕生しにくい。ところが、クローンだけで子孫を増やしていくと、誰かに起こった突然変異は、そのままその子孫にずっと受け継がれ続ける。

結果、いまやBdelloidワムシは360種類もに分化、南極からスマトラ島まで広く分布。

一方、Bdelloidワムシの親戚にseisonidワムシがいるが、こちらは有性生殖。seisonidは結果的に2種類にしか分化しておらず、いずれも同じ種類の魚に寄生、という似たり寄ったりの二種類。

ということで、クローンを続けているBdelloidの方が多様性が増しているのである。

有性生殖をしない生物としては、核がない生物にはバクテリアがいる。しかし、そのバクテリアでも、その辺をふわふわしているDNAを拾ったり、行きずりのウィルスからDNAをもらったり、死んだバクテリアのDNAをゲットしたり、といろいろな方法で遺伝子シャッフルを行っているわけで、クローン一筋のBdelloidは非常に稀。

個体間の遺伝子シャッフルが起こらないときに一番困るのは環境の変化(や疫病)。周りの固体がみんなちょっとちがって居れば全滅は避けられるが、「周りはみんな自分のクローン」だと一網打尽にやられちゃう可能性大。クローン一筋Bdelloidの危機である。

しかし、そんなとき、Bdelloidは

「からからに乾いて風に飛ばされて行く」

という裏ワザを繰り出すのである。そして、新天地に着陸してそこで新たな生を営むのだ。(この裏ワザにはAnhydrobiosisという名前がついてます)

つまり、

1)クローン(というか、無性生殖)で増殖すると、短期的に見ると周りはみんな同じヒト。なので環境変化に弱い
2)しかし、時々ドラスティックに起こる一瞬の環境変化を生き残ることができると、長期的にはクローンの方が変った種類が誕生。

一方、有性生殖のように他人と遺伝子が混ざると、短期的には、周りはみんな違うヒトだが、個体の間違い(というか変化)は遺伝子シャッフルで補正され続けるので、長期的にはあまり変らない。

***

というわけで、他人とシャッフルしないことが、実はエラーの蓄積を助長させて種の多様化につながっているとは。この考え方って、社会学的に見て、人間組織の思考方法・行動様式にも適用できそう。。。。

ま、「からからに乾いて風に飛ばされていく」を人間が実現するのは大変そうですが。

増殖とダイバーシティ」への5件のフィードバック

  1. 人間にとっての「からからに乾いて風に飛ばされていく」とは、多世代型宇宙船に人間を詰め込まれて、他所の星へ移民する事ではないでしょうか。

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  2. お久しぶりです。
    「飛行機で海外に移民する」くらいじゃダメなんですね。。。
    ちなみに、よその星への移民、ではアメリカのSci-Fiチャネルというケーブル局のBattlestar Galacticaは、中々よくできているSFで面白いです。
    http://www.scifi.com/battlestar/
    最近、2003年の分をDVDで見ました。

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  3. 私には何のことかさっぱりわかりませんが、それほどまでに生命力の強い”ワムシ”!あなどれませんね。”ワムシ”から特性を抽出して人間に使うようになったりして。

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  4. 細菌ネタ

    細菌や遺伝子に特段興奮する人ではないんですが、さすがに興味を持った話があったので2つ紹介。増殖とダイバーシティ(On Off and Beyond)「からからに乾いて風に飛ばされていく」という…

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  5. おおう・・・・
    http://www.sankei.co.jp/news/060414/sha034.htm
    『2億年「不在」オスがいた カイミジンコの謎解明・・・「過去の研究ではオスをメスの幼体と見誤っていた可能性もある」』
    これって・・・・
    カイミジンコ=Podocopida
    のようですが、、Bdelloid rotiferとは別人なんでしょうか・。2億年と8500万年と違うけど・・・。

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