ビジネスモデル特許runs amok

Wall Street JournalのHolder of Patent On Global Trade By Web Sues Dell

「インターネットを使った国際的商取引」というビジネスモデルの特許を持ったDE Technologiesという小さな会社がDellを訴えている、というもの。

Critics say many business-methods patents shouldn’t have been awarded, because the processes they seek to protect are obvious or because they simply involve introducing computers into procedures that historically had been carried out with paper and pencil. The patent office is supposed to give patents only to inventions that are both novel and nonobvious.

とある通り、特許は「novel」で「nonobvious」でなければいけないのだが、この特許が出願されたのは1997年ということなので、そのころにはもう「インターネットを使った国際的商取引」はnovelでもnonobviousでもない。

(ちなみに、Wall Street Journalの記事では出願は1996年となっているが、後述のUS Patent Officeのサイトでは1997年となっていた)

US Patent Officeのサイトで検索すると、この特許はその名もUniversal shopping center for international operation
要約はこんな感じ。

An international transaction system for operation over the internet/intranet provides a pre-transactional calculation of all charges involved in any international transaction. Upon the option of the customer, the goods can be viewed on catalogue sheets translated to a language of the customer’s choice, and the price provided in a currency selected by the customer. The customer also has the option of initiating the order with automatic credit authorization, generation of an electronic title or commercial invoice and arrangements and payment of shipping charges and any taxes and import/export duties.

こんなものに特許を与えるアメリカの特許庁が間違っている。特許庁といえば、以前、「特許を出願した弁護士事務所が一緒」というだけで、農家が出願したリンゴの新種の特許を、間違ってマイクロソフトに授与したこともあったくらいだから、本当に単なる間違えという可能性もあるが。

***

アメリカの会社というのは常に特許係争に巻き込まれている。その中には、ほとんどイチャモン、という感じのものもある。どうやってそれに対抗するかというと、「量で勝負」という側面があるのである。つまり、イチャモンをつけてくる相手の事業をくまなく調べ、イチャモンをつけ返せる特許が自分の会社に無いか探す。「抵触する」というのまで含めれば、通常は必ず何かある。それで、
「そんな特許で文句をつけてくるなら、こちらもこの特許で文句を言うぞ」
とやり返すわけである。こうして、相互に特許を山積みし、その山が高いほうが勝ち、となる。

ここで、困るのは、相手の会社がものすごく小さくて、たいした事業をしていない場合である。特に「特許を持って、それで周りを訴えるだけ」という会社が相手だと、文句をやり返すことができない。

時として、大企業が、
「これは自社で事業にするには適さないが、特許としては結構いける」
という技術を持っている場合、新しい会社を作って、その特許の権利を新会社に移行、その会社からいろいろな相手を訴える、という戦略がとられることもある。「親会社同士で特許山積み」を避けるためだ。失うものが無い会社は怖いのである。

「外から特許を買ってきて、それで訴えまくる」ということが主事業になっているAcacia Researchという会社まである。

DEは今後、国際商取引全てからロイヤリティを取ろうともくろんでいるのだそうだ。ご注意くさい。

ちなみにタイトルのrun amokは、「手に負えない大混乱」という意味ですね。Dictionary.comによれば

Behave in a frenzied, out-of-control, or unrestrained manner.

ということです。

ビジネスモデル特許runs amok」への9件のフィードバック

  1. Chikaさんこんにちは。コメントできる話題で嬉しいです。
    ビジネスモデル特許は、日本ではすっかりブームが去った感がありますがアメリカでは細々と続いているのですね。ご存知とは思いますが4-5年前は日本でも「業界大騒然」などというキャッチーなフレーズがとびかっていましたが、短いブームでした。
    当時は大手銀行や商社などが特許部を新設しまくったりしていましたが、今でもあるのでしょうか、銀行内特許部。
    ちらっと見ただけですがこの特許のキモは、「インターネットを使った国際的商取引」自体ではなく、ユーザが使用言語/使用通貨をインタラクティブに選択できるところにあるようなので、さほど権利範囲が広いようにも思えません。明細書の中には「商品価格のほかにかかる送料や関税を自動で計算してうんぬん」ともありますし、そこまでやってくれるe-commerceサイトはなかなかないような気が。DELLってそんなに親切設計でしたっけ?
    なお、
    >(ちなみに、Wall Street Journalの記事では出願は1996年となっているが、後述のUS Patent Officeのサイトでは1997年となっていた)
    についてですが、この特許は1996年に仮出願をして、1997年に優先権主張出願をしているために記事では1996年としているようです。仮出願を利用すると、出願書類としての体裁が整っていなくても「出願日」を確保することができ、先行技術の調査の起算点がさかのぼるのでおトクなんですよー。
    >失うものが無い会社は怖いのである。
    はまさに、日々ひしひしと感じております。自分もいつかは「失うものが無い」立場で荒稼ぎしてみたい。。。
    だらだらとすみません。コメントできる話題がうれしくてつい。。。

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  2. maru-san,
    おお、お詳しそうですね!仮出願だったんですか。なるほどぉ。
    ちなみに、96年ごろ「データネットワークを利用した音楽のダウンロード販売」の根源的ビジネスモデル特許を持っているベンチャーのビジネスプランを書く、というプロジェクトをしたことがあります。
    ビジネススクールの課題だったのですが、ベンチャーも特許も本物でした。96年の時点で既に特許はawardされていました。でも、その後トンとうわさを聞かない。あの会社はどうなったんだろう。。。
    荒稼ぎした暁にはご一報ください♪

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  3. こんにちは.
    USPTOの審査官とは30件かそこら対決した経験が有りますので、蛇足をば^^.
    まず、審査官自体のレベルが非常にまちまちです.きちんと的を射た公知技術を調べた上で、仮に新規性だけは有っても「そんなのは、その時点の技術レベルからして発明性はないでしょ」とリジェクトしてくる手強い人も居れば、もうまったくあさってな方向でちょこっとキーワード検索かなにかを実施し、それでヒットが有ればただそれだけを理由に、実は全然関係ない先行技術で、「ほーらこういうのが有るよ」とリジェクトしてくる人も居ます.
    後者タイプの審査官は往々にして「んなもん、何関係ない事言ってんだ.これは、これこの通り新規な話で、ちゃーんとこれこれの効果があるんだぞ」と言い返すと、技術自体のジャンプも何もなくても「そうか、んじゃオッケイね」と許可出してくれたりします.
    モンダイの件は請求項も何も見てないのですが、この種の「新規性と効果」だけで認める系な感じがします.

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  4. 追加です.
    相手が手強い審査官のときにどうするか.いや正々堂々発明性も立派に有って筋が通ればロジカルにがんばれば良いのですが、そうじゃない場合にもやり方が有るのが米国特許です.
    何回かやり取りが続いてラチが開かなくなると、審査官は「このオフィスアクションはファイナルである」と宣言します.そのファイナルに対する出願側の主張が通らず、やっぱり拒絶だったとき、「あ、そ.じゃこの件は継続出願にします」と言えば(おっと、お金も掛かりますが)審査官が晴れて交代になります.さあ、次の審査官が甘い人である事を祈りましょう^^.

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  5. Toru-san,
    詳しいですねー。なるほどなるほど。勉強になります。
    ちなみに、日本はどうなんでしょうか。
    昔、日本の特許庁に電話で問い合わせしたら、非常に親切に教えてくれて、しかも最後に「ただいまお客様の満足度調査を行っております。簡単なアンケートに答えていただけませんか」と言われてたまげたことがありました。

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  6. chika-san
    日本の審査官は一般に優秀です.進歩性に対する要求が明らかにアメリカよりも高く、殺し文句は「当業者容易」です.

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  7. このコラム読むだけで、アメリカではその特許に絡む内容で、かなりのビジネスがありそうですね^^。回ってるよ~~、すんげ~~って感じです^^。
    確かに、日本の審査官は優秀そうですが、その優秀さが、文面化されてない規制法案になってエンジンブレーキの役割を果たしてるのかもしれませんね。

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  8. Toshi-san,
    日本の緻密さ、アメリカのダイナミックさ、いずれも一長一短があるみたい。(個人的にはいい加減なアメリカシステムの方が親近感ありますが)
    Economist11月11日号には、世界の特許認可システムについての記事があります。
    Monopolies of the mind
    http://www.economist.com/displaystory.cfm?story_id=3376181
    The world’s patent systems need reform so that innovation can be properly rewarded
    いわく
    -アメリカは安易に特許を出しすぎだし
    -ヨーロッパは国によってプロセス・言語が違って混乱
    -日本はやたらと些細な申請を認可しすぎ
    と問題だらけ。
    特にアメリカでどんな特許が認可されるかは世界に影響する。だから、アメリカは特に下記2点を修正すべき、と。
    1)申請時に特許を公開(アメリカでは申請から18ヶ月たって、かつ特定の条件を満たさないと公開されません)
    2)特許を出した後に、問題が起こったかどうかをフォローアップして、定量的に問題が分析できるようにする
    ではー。

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