移民と結婚

wedding先々週はインド人の知人の結婚式に行ってきた。インド風の催しで、結婚式そのものが2時間、披露宴が6時間という長大なもの。しかも待ち時間のカクテルアワーもある。トータル7時間で失礼してきたが、なかなかエネルギッシュでした。

新郎氏はうちのダンナの会社のfounder/CEO。もともとSunでコンパイラの開発をしていたという人である。今のベンチャーは起業二つ目。新婦はOracleで働いている・・・のだが、写真の通りお姫様のようである。彼女に会うと、インド映画で踊って歌うヒロインの女優(複数。でも全員同じ顔に見えます。)をいつも思い出す。新郎氏はアメリカ生まれ、新婦はインド産まれのアメリカ育ちだ。

結婚式は、本当は5時間以上に及ぶのを、はしょって2時間におさめた、というもの。式を務めるミニスター氏は、ヒンズーで何か言っては、英語で参列者に向かって
「今言ったのはこれこれで、その背景はかくかくしかじか」
などと饒舌に説明。
「この英語の説明がなければ1時間で終わるな。ということは、本式の5時間は何をしているのか」
と思ったが、まぁしかし、インド人というのは饒舌なものです。インド人が多い会社では、会議の議論が延々続いて非インド人は疲弊、という噂もよく聞く。

このミニスター氏も例外ではなく、式の半ばで火をともし、その周りでグルグル新郎と新婦が回る時の説明にも、こんな余計な説明が。
「本当は、この何倍も大きな火をたくんだよ。しかもインドは暑いからね。しかも新郎新婦はその前で5時間ずっと座ってるんだからね。大変だよ。あ、そうそう、アメリカだとスプリンクラーがあるかどうか確認しないとね。これまで何度かスプリンクラーが作動して、参列者全員ずぶぬれ、なんてことがあったから、はっはっは。」

しきたりがたくさんあってそれを厳格に守るから式が長いのだろうが、厳粛な感じはない。あんまり。式の途中では、「あ、新郎のケープがない」とかいって、親戚が控え室まで取りに行き、その間約10分中断し、その間ミニスター氏の雑談オンステージとなったりとか、かなりいい加減な感じ。本物のインドの結婚式では、いい加減さがさらにパワーアップ、会場の外に食べ物の屋台とか、サーカスとかが出て、参加者はザワザワと出たり入ったりするそうな。しみじみ、「日本人的常識」が世界に通用しないことを思います。

wedding2新婦が登場するところでは新郎と新婦の間に布がたらされ、互いの顔が見えないようになっている。そして、あるところでバッとその布が取り払われるのだが、ミニスター氏は
「ゴタイメーン!どう、気に入った?ここで始めて新郎と新婦が顔をあわせる、というのが伝統だからね。わっはっは。」
と。いや、新郎・新婦は既に5年付き合ってるんですけど。。。。まぁ日本の角隠しみたいなもんでしょうか。

dance披露宴の最後はアメリカの結婚式ではお定まりのダンス、で、一応普通のチークダンスみたいなのを新郎と新婦が踊った後、参列者も出て普通にゆらゆら踊っているところで、突如親戚らしいインド人が大きなドラムを肩から提げて登場、いきなり乱打しだした。一気に音楽もアップテンポなインドの民族音楽にかわり、親戚・友人一同で、グルグル踊る踊る。両手を挙げてぶらぶら振りながらグルグル。阿波踊りを早まわしにした感じ。開始から既に6-7時間が経過しているのに、みんな元気でした。

ターバンを巻いているのはシーク教徒。ターバンの中には小刀が入っていて、これをターバンから取り出すのは、名誉が汚されたときのみ。その時は、血を流すことなく刀をターバンに戻してはいけない、と聞いたんですが、本当でしょうか。

cakecutちなみに、「二人の初デート感想」、というのを友人代表がスピーチで話していた。新郎・新婦それぞれが、初デートの後、相手についてどう思ったかを友人に告白したセリフ、である。新郎は
「She was stunningly beautiful!」というもの。そりゃそうでしょう。(写真参照)
新婦は
「He was……normal」。
ま、シリコンバレーですから。みんなオタクですから。Normalは褒めことば、ということで。

この二人を紹介したのはインドのお見合いババァ、、、ではなく、私のビジネススクール時代のクラスメートVivianである。Vivianはコロンビア生まれ。日本人であるところの私と、中国系のダンナが座った披露宴のテーブルには、コートジボアール出身でフランス経由シリコンバレー在住という女性、そのダンナのドイツ人、中国系カップル、キューバ系、およびインド系、という、いつもながらのシリコンバレーの多ルーツさ加減がいかんなく発揮された。

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日本に住んでいた頃、
「外国に移住するとその国の様式に同化するものだ」
と何の疑いもなく思っていた。「異人さん」の歌よろしく、「青い目になっちゃう」みたいな。しかし、実態はそうでもない。

Bend it Like Beckamという映画はイギリスに移民したインド人の家族の話。サッカーがしたい、という娘と、女の子がサッカーなんてとんでもない、という親との間の軋轢。インド人家族の家には、やたらとでかいヒンズー教の聖人の絵が掛かっていて、何かというと娘は、その像に向かって誓いを立てさせられる。彼女のお姉さんは、ぴちぴちのミニスカートにブランド物のバッグでうろうろする遊び人なのだが、結婚相手はヒンズー教徒のインド人、と固く信じている。(しかし、この映画、邦題の「ベッカムに恋して」はひどい)

My Big Fat Greek Weddingという映画もあった。白人アメリカ人(何系か忘れた。長いことアメリカにいる人たち)の男と、アメリカ在住ギリシャ移民の娘が結婚する話である。ギリシャ生まれの新婦の父親は、娘の選んだ相手がギリシャ人ではないことで病気寸前。ついに結婚を許可するが、結婚式から新居まで全て父親が手配。(結婚式の招待状は、なんとギリシャ国旗柄)。ギリシャ人側は、「またまたいとこ」まで仲良しの大家族で、みんな陽気で人情もろくて、騒がしくて、ちょっと図々しい。彼らは、「結婚する以上は相手の家族も自分の家族」ということで、ひんやりと他人行儀な新郎の両親を歓待しようとするが、何をやってもちぐはぐ・・・という話。

いずれも、移民たちは、自国のカルチャーをそっくり持ってきて、移民先の国に根付こうとしている。

最たるものはユダヤ人。国を追われてウン千年、今だにユダヤの風習を守っている。戒律に厳格でないユダヤ人でも、クリスマスを祝ったりはしない。(クリスマスはキリスト教徒のお祭りですので)。

かように、「どこの国に住むか」、と「どんな文化を守るか」は別もんなんである。しかし、他の民族の血が入ると自分の文化が薄まってしまう可能性があるので、みななるべく子供は自民族と結婚して欲しい、と思うわけです。知人のアイルランド系アメリカ人(既に3世代目)も、非アイルランド人と結婚したら、アイルランド系コミュニティから「裏切り者」扱いされた、と言ってました。前述の、新郎・新婦を引き合わせたコロンビア人の友人もユダヤ系で、「ステキなユダヤ系の男性がいたら紹介してね」と言っていたし。

***

ちなみに、日本の文化においては、「周囲に溶け込む」というのが重要なしきたり。なので、日本の文化を厳格に守ると、海外に行くとあっという間に移民した国の文化に溶け込んじゃう、という危険を感じる人もいるのでは・・・。

この間も、JTPAでパーソナルファイナンスのセミナーをしたのだが、その中で
「日本では引退したら地味に暮らすものだが、アメリカ人は引退してからクルーズに行ったり元気一杯。どういう風に引退生活を送るべきなのか」
という質問をした日本人の参加者がいた。講師で来ていたフィナンシャルアドバイザーのアメリカ人は、
「・・・どういう風に引退生活を送りたいか言ってくれ。そうしたら、それにあったファイナンス設計をするから」
ということで、全然質問と答えがかみ合っていなかった。
『「自分のしたいこと」が先にあって、それを実現するためにプランを立てる、「したいこと」が少々常識はずれでも気にしない』
というアメリカ人と、
『回りに期待される役割を果たす』
ことに慣れている日本人の間の理解が難しいことの典型、か。

でも、海外に移住したって、別に相手の国に完全に同化する必要は全然ないし、実際ちゃんと日本のしきたりを守ってる人もいる。ハワイ在住の私の義理の兄(ダンナのオネエサンのダンナ)は半分日系3世なのだが、結婚式でははるばるブラジルから日系移民のおじさんがやってきて、万歳三唱をしてくれた。乾杯のポーズをしながらの万歳、というなんだか変なものだったが、万歳三唱は万歳三唱だ。結婚式の記念に、花嫁である義理の姉は、千羽鶴を折っていた。「日本では結婚するとき花嫁が千羽鶴折る」とハワイでは固く信じられているらしい。

ちょっと間違ってるが、まぁ大筋において日本の文化ではある。

ということで、どこにいっても、日本人らしく生きていくことはできるものなのです(・・かね)。

移民と結婚」への7件のフィードバック

  1. インド人の結婚式といえば、パリのオペラ座界隈にある
    豪華ホテルでのお話。
    なにやらターバンを巻いた人がいっぱいおり、楽器隊も待機。
    ロールスロイスや、ベンツのリムジンなど次々にやってきて
    赤絨毯を歩いていく。
    そのうち、ドンドコ楽器演奏が始まり馬車にて
    新郎新婦らしき人がやって来た....
    後日談にて、なんとインドの王族がそのホテルを一週間
    借り切って、親族一同を招き結婚式を行ったとのこと。
    いまだに、どこかの国に王家が結婚式を挙げる、という
    一つ前の世紀の社交界の風習を目の当たりにした
    瞬間でありました。

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  2. 私はその昔初めてイスラエルとの取引を始めたころ
    交渉がうまく進んだのが嬉しくて有頂天になり、
    ”Merry X’mas”とアホなメールを送ってしまいました。
    それから暫く誰からも返信も電話もこなくなり、
    気づいたのは年が明けてから。
    思えば契約が壊れなくてよかったなぁ~~

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  3. Hellsing-san,
    馬車、もしくは象は登場しないのか、とせっついたんですが、友人一同が踊りながら新郎と共に会場入りする、というだけでした。。
    パリの一流ホテルを一ヶ月借り切ったらいくらかかるんでしょうね。そういえば、ビルゲイツはラナイ島(ホテルが二つしかない。しかも経営母体は一緒)を借り切って結婚式をしたのですが、その後ラナイのホテルのバーテンダーと話していたら、「ビルゲイツは友達が少なくて参列者が少ない」とぶつぶつ言ってました。参列者が少ないのに貸切にされると、チップ収入が少なくて、従業員的にはいやな感じらしいです。「ハリウッドスターなんかは、どかーんと1000人近く呼んでくれるからいいんだよね」だそうです。
    emans-san
    ユダヤ人にクリスマスカード、まずいですねー。笑いました。かなり。
    昔日本のメジャーな神社の絵馬に英語で「娘が素敵なクリスチャンの男性と結婚しますように」とアメリカ人(かイギリス人かオーストラリア人か知りませんが、まぁこういうこと書くのはきっとアメリカ人)のお祈りが書いて奉納されていました。いいんですけどね。この手のミスって私も多々やりますし。

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  4. Chika さん始めまして。いつも読ませていただいています。
    当方ウエディング関係の仕事をしているのですが、日本では和服を結婚式で着る人が減り続ける一方なのですが、2年ほど前日本に帰国(?になるのでしょうか)していた、日本人と結婚して、ペルーに住んでいる日系3世の女性にこちらで不要になった花嫁衣裳の着物をプレゼントしたら、あちらでは、着たくても、なかなか着れないと、大変喜んで大事に持ち帰ってくれました。日本でだんだん薄れていく伝統が、遠く離れた日本の裏側で受け継がれていくこともあるのかなあと、複雑なキモチになったことを思い出しました。

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  5. Chasari-san
    和服は着るのが大変、というのはありますね。でも、丸一日(または丸1ヶ月)結婚式をするのももっと大変ですが・・・・。
    それにしても、近代において文化とは、「遠くにありて思うもの」なのでしょうか。それとも、最近、日本国内でも日本文化リバイバルの流れもあるし、また和服で純和風の結婚式、というのも復活するのでしょうか?
    関係ありませんが、アメリカ人に「人前結婚」というコンセプトを話すと驚かれます。「宗教」が絡まない結婚式って想像するのが難しいようです。。。

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  6. そういえば、最近フランスで娘の為に超豪華な結婚式を挙げたロンドン在住のインド人がいましたね…
    インドで挙式したら、一万人位の客を招待する筈の結婚だったらしいんですが、いろいろ面倒なのでフランスで一千人位の招待客の「内輪」の式にしたとか。国内で大人数の客を招待し、豪華な披露宴をするよりは、外国の教会でこじんまりした結婚式を挙げる日本人カップルと同じ発想かも。んな訳けないだろ(汗
    http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/3830009.stm
    さて、この花嫁の父親は、この様な豪邸に住むために、これまで何をしてきたのでしょう (^^)
    http://www.msnbc.msn.com/id/4722789/

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  7. スケール感が違いますね。さすがインド。
    私もインドに行ったことがありますが
    「インド人もびっくり」
    という昔のキャッチコピーは言いえて妙だったのだなぁと感動。インド人は物に動じません。とんでもないことを見慣れているせい?彼らが驚く対象は相当なものなんでしょう。。。

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