遺伝子ドーピング

muscle baby強力な筋肉ができる遺伝的変異を持って生まれた子供と、その変異遺伝子がThe New England Journal of Medicineで発表された。写真は7ヶ月当時。CNNニュースによれば、4歳の今は、普通の子供の二倍の筋肉を持ち、腕を伸ばしたままで3.5キロのバーベルをらくらくと持ち上げられるとのこと。筋肉の発達には、その発育を促進するinsulinlike growth factor I(IGF-I)と、発育阻害因子のMyostatinの二種類がかかわっている。変異を起こした子供の母親はMyostatinを作る遺伝子ペアのうち一つが変異していた。子供はペアの両方が変異しており、まったくMyostatinを作ることができない。よって、筋肉がどんどん育つ。

Scientific American7月号のGene Dopingでは、人為的に遺伝子を改変して筋肉を増強する方法について解説されている。写真は、上の写真の赤ちゃんと同様の遺伝子変異を持つBelgian Blue Bull。筋肉モリモリである。Myostatinが欠落した動物は筋肉が発達することはわかっていたが、今回のドイツの子供が発見され、Myostatin欠落が人間でも動物同様の筋肉発達を起こすことがわかった。

これにどんな意味があるか?

一つには、老人の筋力低下を防ぐ遺伝子薬の開発への活用。Myostatinを作り出す遺伝子を抑制するか、IGF-Iを作る遺伝子を促進できれば、筋力を向上できる。

遺伝子を他人の体に植えつけるには、ウィルスを使う。ウィルスはそもそも遺伝子だけでできた殻のようなもので、自分たちだけでは増殖することができず、寄生する相手細胞にもぐりこんで自分の遺伝子を広める不気味な物体。このウィルスの特性を利用し、ウィルスに改変遺伝子を仕込んで、生体内にもぐりこませて相手の遺伝子を改造できる。改変遺伝子を運び込むウィルスはベクターと呼ばれる。

筋肉の生成をコントロールする実験のため、上記のScientific Americanでは、特に筋肉に「寄生」しやすく、しかもあまり害がないadeno-associated virus(AAV)というウィルスを活用する例が載っている。(そんなウィルスがいるのか、とちょっと不気味)

老人の筋力低下以外にも、筋ジストロフィーの治療も期待できる。

しかし、こうした医療目的以外に、スポーツ選手のドーピングでも使われてしまう危険が高い。現状のドーピングと違って、遺伝子そのものを改変してしまったら、それを発見するのは難しい。「生まれついての変異だ」と言われたら元も子もない。

実際、スポーツ選手で生まれつき遺伝子変異がある人は結構いるようだ。記事でも、1964年にオリンピックのクロスカントリースキーで金メダルを二つ取ったフィンランドの選手の例が載っている。彼は赤血球量が普通の人より多いため、有酸素運動に非常に有利だった。ただ、あまり注目を集めたくないということで、遺伝子変異がわかってもそれを公表する人は少なく、今回の子供のように発表されるケースは稀。

ツールドフランス6連覇を狙うLance Armstrongも、休息時の心拍数32-40(普通の人の平均が72)、肺活量83ml/kg/min (かなり運動している人で40台、50で相当高い)という、常人とはかけ離れた能力だが、この辺りもアヤシイ。

***

遺伝子改変といえば、吉田秋生のマンガ、YASHA。人為的な遺伝子改変で神経増殖因子を仕込まれて生まれた天才の双子が戦う話。

双子は、受精卵の段階で神経増殖因子を仕込んだベクターによって「天才」に改造される。しかしその実験の途中で、ベクターの一部が突然変異。非常に高い致死率のインフルエンザに似た病気を引き起こす猛毒ウィルスとなり、近隣の町Cats Killに広まり、その住民の多くが死亡。このウィルスは、被害が起こった地名を取ってCats Kill Fever, CKVと呼ばれる。

やがて双子の一人は、CKVを利用し、特定のターゲット人口を「間引き」するジェノサイド計画に加担。一方の双子はそれを阻止するために死力を尽くす・・・・という全12巻。

何がすばらしいって、出てくる男子がすべて美形なことです。主人公の双子は、もちろんのことながら見る人が呆然とする見目麗しさ(で運動神経万能で、ちょっと超能力があって、天才。進化した人類だから)。いいほうの双子の忠実なボディガードの日系アメリカ人も、超渋い。少女漫画はいいですねぇ。


cover

遺伝子ドーピング」への6件のフィードバック

  1. ホントだとしたら、この赤ちゃんのカオも・・・コワイのでは。顔って筋肉多そうだし。
    吉田秋生さんはやっぱり・・・アッシュ!(banana fish)。男からしても惚れておりました。図書館でひっそりと・・・という願望もあるのかもしれませんが。

    いいね

  2. 筋力系の病気に役立ちそうな、凄い研究ですね。
    筋力発達遺伝子があるなら能力発達遺伝子もある・・・ということで、それこそ漫画・YASYAみたいな人工的天才種族などでてきそうですよね。
    オリンピックで、遺伝子操作がドーピングに当たるか当たらないかの議論が行われるのは意外と近いのかもしれないな・・なんて思ってしまいました。

    いいね

  3. 「YASHA」は「Banana Fish」の焼き直しとか言われたこともあったようですが、続編ということでよいですねー。で、「YASHA」の続編もよいですねー、ムスメが主人公の。
    吉田秋生は「河よりも長くゆるやかに」も「Lovers’ Kiss」も「櫻の園」も、、、どれもこれもあるだけ買って読んでたなー。:p

    いいね

  4. おぐらじお-san
    UCBerkeleyでメカニカルに筋力を増強するマシン(コンセプト的にはマジンガーZ、インプリメンテーション的には巨人の星の強制ギブス)がありました。肉弾相打つ戦いの時代がまた来るのでしょうか。。。
    yoshi-san
    えー、図書館で失血死したいんですか?うーん、なんだかすごい願望ですね・・・・。顔面筋肉増強、では、なんだか筒井康孝の「怪奇顔面畳男」(だったでしょうか?顔が畳になってしまうのですが、畳屋の娘と結婚してハッピーエンド、という話)を思い出しました。
    読者-san
    本文中のScientific Americanでは、今度のオリンピックが「遺伝子ドーピング」がない最後のオリンピックになるのでは、という専門家のコメントが載っています。
    zoffy-san
    YASHA続編、イヴの眠りの1巻も持ってますぜ。YASHAなんて、昔日本を出るときに一回捨てたのに、もう一回買っちゃいました。次回はBANANA FISH(およびその周辺の話)も再度買う予定。(もちろん、昔は一度所有しておりました)。
    「焼き直し」いいじゃないですか!作家って大抵そうだし、個人的に水戸黄門好きだし:-)私としては、Banana Fishのコンセプトをより昇華させたのがYASHAだと思っております。・・ということでアッシュより静が好き♪

    いいね

  5. 遺伝子ドーピング

     遺伝子ドーピングについておもしろい記事を見つけたので紹介します。(2004年6月と古いのですが・・・)
     筋肉が付き過ぎるのを抑える遺伝子、Myostatinに異常が起こるとマッチョになるのは、牛で知られていたんですが、人間でも同じ遺伝子に異常があるとマッチョに……

    いいね

chika にコメントする コメントをキャンセル

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中