Matrix的Google上場

Googleが上場するという速報を聞いた私は、非常に、非常に、月並みなのだが
「やったぜベイビー!」
と思った。Googleが上場しても私には直接的に何の得もない。しかし、心から気分爽快になった。まるでMisson Impossibleとか、007の映画を見るような。とてつもない(ちょっと冗談のような)離れ業を見て、胸がすーっとする、という感じか。「やっぱり景気のいい話というのは、聞くとすっきり元気になるな」と改めて思った。

Googleは、投票権のない株を発行して上場する。これに関しては、梅田さんが異論を唱えているが、私は別にいいんじゃないの、と思っている。梅田さんの論点は「タダでさえ目立つんだから、余計な無理をするな」というのがポイントのようだが、私は逆に「タダでさえ目立つんだから、地味な上場などありえない。この際ウルトラCで打って出ろ」
と思う。

Googleの「検索」は、Microsoftに叩き潰される可能性が非常に大きい市場だ。以前あった雑誌の表現を使えば「Microsoft smells blood」だ。検索が儲かる、という血の匂いをかぎつけたMicrosoftザメは、猛烈アタックをかけるべくGoogleの周囲をぐるぐる回っている状態だ。上場したら、事業内容が大幅に開示され、敵に手の内を明かすことになる。そんな中で、Microsoftという強敵に打ち勝ち、Netscapeの二の舞にならないためには、相当な裏ワザが必要だ。
(ちなみに、鮫は、アタックする前に獲物の周囲をグルグル回る。ダイビング中に鮫が周りをグルグルしだしたら、さっさと岩陰に隠れるべし。)

しかもGoogleは、操業5年で売上が1000億円を超えるというバケモノベンチャーである。
1000億円。「VCが投資するのは、5年で売上が50億円を越すような大きな成長の可能性を秘めたベンチャー」なんていうセリフが激しくみみっちく感じられてしまう。

これはもう、「身長2メートルの1年生が公立中学のバスケ部に入部」するようなものだ。どうしたってめだってしまう。しかも、その新入生を叩き潰そうと、てぐすねを引く先輩がいる。石橋を叩いて渡るような進み方など到底できるものではない。

「投票権のない株を発行するのは、ガバナンス上問題ではないか。一般投資家を二級株主扱いし、ファウンダーたちが唯我独尊の会社経営をすることにならないか」という懸念は、前述の梅田さんだけではなく、Financial Timesも確か同じようなことを書いていたが、一概にそうとも言えまい、と思う。

そもそも、2人のファウンダーはそれぞれ16-7%しか株を持っていない。この間までCEOだったEric Schmidt(訂正:今でもCEOでした。Chairman of the Boardから外れたのでした)の持分は6%だから、それをあわせても40%で過半数には達しない。シリコンバレーのベンチャーでは、上場時のファウンダーの持分はヒトケタ%の、それも下のほう、ということも多々あるので、これでもかなり多いほうだが、それでも過半数には達さない。

さらに言えば、現状一般的な、株主の権限の強いガバナンス体制が正しいのかどうか、という問題もある。Economistの5月4日号にThe lunatic you work forという記事があった。大企業の社長、エコノミスト、知識人などのインタビューをまとめたドキュメンタリー映画The Corporationについてのもの。映画のテーマは、

The main message of the film is that, through their psychopathic pursuit of profit, firms make good people do bad things.

「企業のトップの多くは人間的にはいい人だが、利益最大化という目的のために、倫理観のない行動を取ってしまう」と。公開企業になるということは、常に株主からの、利益増プレッシャーにさらされるということだ。多くの企業が「lunatic(キチガイ)」のような行動を取ってしまうということは、現状のガバナンスでは、株主の力が強すぎるからではないのか。そこからGoogleという企業が一歩距離を置いて、企業として正しい行動(四半期利益の数字合わせで無理をしたり嘘をついたりせず正しい会計処理を行う、一旦利益が下がってもよいので長期的事業拡大のために大幅なR&D投資を行う、といったこと)を取るために、株主レベルを二つに分けるという方策を採るのは、決してお門違いのトライではないと思う。

(投票権などなくても、株主には「株価を左右する」という大きな力が残っている)

***

ガバナンスの問題を除いても、Googleは上場に際して、大きな責任を抱えている。それは、いわばPL責任とでも言うべきもの。Product Liability。

アメリカは、「マクドナルドのコーヒーが熱くてやけどした」と訴えた消費者が勝訴して億円単位の賠償金を受け取る国だ。スーパーマンの寝巻きを着てベランダから飛び降りた子供の親は「これを着てもスーパーマンのように飛べるわけではない」と書いていなかった寝巻き会社を訴える。マスカラには「乗り物の中でつけないで下さい」、車のサイドミラーには「この鏡に映っている物体は、本当はもっと大きいです」(誰か、アメリカ人に遠近法を教えてあげて!)と但し書きがある。こんな国では、Google株が暴落したら、それはGoogleの責任ではないのか??

National Public Radioの一般投資家向け投資番組で、電話してきたリスナーがこんな質問をしていた
「私は障害者で仕事もなく、収入はとても限られている。これまで株はリスキーだから手を出したことはなかった。しかし、今回のGoogle上場はどうもとてもよい話のようだ。是非買ってみたいと思うが、どうやって買ったらいいか教えて」

回答者が
「買い方の前に聞いておきたいことが。Googleの上場株はあっという間に30%下がる可能性があるけれど、それに耐えられる?」
と聞くと、いやそれはとてもとても耐えられない、と。
「だったら絶対にGoogle株を買ってはいけない。Googleのファウンダーだって同じことを言うはずだ」

このリスナーはGoogle上場株を買うのを思い直したかもしれないが、しかし、こうした、株式市場の知識がなく、経験も浅い人たちが「IPO株は儲かる」と信じ込んで買ってしまう可能性は十分あるだろう。そして、それが暴落したら、大々的な株主訴訟のリスクは高い。そのとき「年金生活で体の不自由なお年寄りのへそくりが雲散霧消」などという涙ぐましい話が続々と出てくれば、Googleは全く悪くなくても苦戦するだろう。

ということで、Googleは上場する以上、株価の維持だけでも相当な責任とリスクを負っており、背水の陣で挑まなければならない。

***

かように、上場に際し、前例のないリスクを多々抱えるGoogle。

映画Matrixで、主人公のNeoとTrinityが著しく困難な救出に向かうシーンがある。Trinityが
「No one has ever done this before」
というと、Neoは
「That’s why it may work」
という(記憶に頼って書いているので、wordingはあやふやですが)シーンがあるが、まさにそういう感じでしょうか。

Matrix的Google上場」への11件のフィードバック

  1. 蛇足で申し訳ないですが、手元にある screenplay によると
    TRINITY
    「No one has ever done anything like this.」
    NEO
    「Yeah?」
    NEO
    「That’s why it’s going to work.」
    だそうです。かっこいいーですね!

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  2. モラルとサバイバル、どっちが思いかって感じですかねえ。
    ところでEric SchdmitってCEOじゃなくなったんですねー。
    会長から委員長に替わったってニュースは読みましたが。
     -グーグルで会長ポストが空席に
      http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000050156,20065819,00.htm

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  3. AC san
    mayよりgoing toの方が絶対的にかっこいいですね。ありがとうございました。
    Zoffy san
    お久しぶりです。ゴメンナサイ間違えました。その通りです。chairman of the boardから降りたんでした。
    モラルとサバイバル、ですが、Google的governanceが必ずしもインモラルということはいえないと思います。果たしてこのgovernanceがどういうモラルと規律をもたらすのかは今後のGoogle次第、またはそれに続いてさらに数多くの企業が同じトライをして初めて判明することでしょう。
    Googleのgovernanceがインモラル、ということだと、一般株主の投票が効いて来るのは普通はM&A、トップの首、トップの報酬くらいですが、そのいずれも一般株主の意見が反映されることなどまず殆どない日本の上場企業は全てインモラルということになってしまわないでしょうか。(だったりして・・・・;-p)

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  4. はじめまして、こんにちは。
    話の論点からはズレますが、米国のPL法に伴う表示には、
    時に大げさにすぎて、いささか想像力をかきたてられます。
    「こんな使い方もあったのか!」と。楽しいですよね。
    もっとも、近頃は米国に限った話ではないようですが。

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  5. Google上場の方法では、我が社でも梅田派と渡辺派に分かれております。梅田派の同僚は、彼の言い分の方が筋が通っていると言っております。私は渡辺さん派です。Googleの株に知識の無い個人が購入できる範囲の株式数では、1株主が総会でどれだけの影響力を発揮できるでしょうか。せいぜいが総会に参加して怒声を上げるか、挙手して質問するくらいでしょう。現実的には無に近いと思います。だから個人の株主にとっては、総会で投票する権利なんて、気持ちの問題だけで、実質的な損得には成り得ません。一方で、投票権を左右できるような株数を買える投資家といえば、プロの投資家、投資会社、年金基金ぐらいしかありません。そういうプロが、Googleの特殊性を理解しないはずはありません。ですので、この特殊性がゆえに、Googleのやり方を非難するのは的を得ていないと思います。
    一方で、IPO後に十分な短期利益を継続して出せないファウンダーが会社を追い出されて、益々凋落した会社も多いのではないでしょうか。いま米国でも一部に反省が起こっているように、これまでの上場会社はあまりに四半期毎の利益予測とその実現に振り回されすぎていました。
    そんなとき、Googleのファウンダーによる、IPO後も四半期利益レポートに振り回されない、より長期的な経営を可能にするこの方法は大変興味深い現象です。もしGoogleがこれで成功するようであれば、あたらしいトレンドとなるかもしれませんね。
    投票権があろうがなかろうが、Googleに将来性があると思えば株を買えば良いし、ファウンダーによる戦略が気に食わなくなれば売れば良いのです。みんなが売れば株価は下がり、それがファウンダーへの大きな「意思」になるでしょ。

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  6. はい。:)
    >モラルとサバイバル、どっちが思いかって感じですかねえ。
    ×思い○重い、でした、どうもすみません。
    で、梅田さんはモラルをchikaさんはサバイバルできるかどうかをより重視してるように感じたのを一行で端折って書いてしまいました。100:0ではなく60:40くらいのバランスかな。Googleのやり方がインモラルとは思ってないです。
    ところで、土曜日(5/29)、梅田さんオフ@恵比寿に行って来ました。総じておもしろかったでしたが、冒頭座右の銘として”Only Paranoia can survive (by Andy Globe)”を挙げられ、「人生はサバイバルゲーム」と思うのがよのではないかと仰ったんですよねえ。そんな梅田さんが、よりモラリスト的な見方をされてるわけで。Googleに対して“哲学的”な会社でサイトやドキュメントを読んでも他の会社と違って哲学的とか仰ってましたが、だからこそ強く突っ込みたいと思われてるのかなー、、、なーんて。
    そもそものお二人のGoogleという会社に対する思い入れの強さや、Googleをどれだけ特別な会社とみなしてるかというスタンスに違いがあるのかなー、、、とも思いました。:)
    P.S.
    あーぁ、タイトル復活してしまいましたねえ、プロフィールも。:D

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  7. ずっと前に渡辺様がFriendsterのようなネットワーク・サイトについてお書きになったときに、ユーザのRatingで決まるスターというかInfluencerが出るのではないか、というような事をお書きになってましたよね。(いつのコメントだったか思い出せないので、一番最近のインターネット関連の所に書き込んでいます。すみません。)今日のNYタイムズの記事にまさにその事が書かれています。
    http://www.nytimes.com/2004/05/30/magazine/30NONDATING.html

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  8. 梅田さんと違って、個人投資家としては、私はGoogleの Class A と Class B 株間の議決権の差異は、社外取締役と監査役が余程無能でない限り、ガバナンス上別段問題になるとは思いません。
    金融商品の価値を決める要因は発行元の将来性、競争力、収益性、または商品固有の利回り等の特徴であり、ガバナンスは通常マイナーな要因でしか有りません。商品の明示された特性を無視し、例えば「劣後債が優先債より返済順位が低いのはケシカラン」等と言っても無意味ですし。それに、ガバナンスに重点を置いたら、そもそも社内取締役に牛耳られ、年次総会も同一日に集中する日本の企業なんて異常で、投資対象として検討する価値も無い事になりますね (^^;)
    しかし、Google株は投資に値するか、と問われるとちょっと考え込んでしまいます。
    劣後債の優先債に対する返済順位上の不利は、劣後債の高利回りで補われています。しかし、Google株の場合は、S-1にはこう記されています:
    DIVIDEND POLICY
    We have never declared or paid any cash dividend on our capital stock. We currently intend to retain any future earnings and do not expect to pay any dividends in the foreseeable future.
    [..]
    DESCRIPTION OF CAPITAL STOCK
    [..]
    Dividends
    Subject to preferences that may apply to any shares of preferred stock outstanding at the time, the holders of Class A common stock and Class B common stock shall be entitled to share equally in any dividends that our board of directors may determine to issue from time to time.
    で、配当は当分望めそうもありませんし、一株当たりの配当も class A、class B で同額にする方針みたいです。通常、優先株は議決権では不利な面、優先的に配当を分配される筈なのですが… ちょっとおかしいぞ > Google
    Calpersみたいな機関投資家の場合、自らの巨大ポートフォリオの相場に与える影響を考慮すると、経営陣に対しての不信任状として保有株式を売却するのは非常に困難です。故に、大型機関投資家は投資対象の選定にあたり、議決権を有効に行使できるかも選考基準にします。Googleみたいなdual-classの株式はその面では不利ですね。
    私はこのGoogle株の特徴は株価の悪循環を生むリスクを含んでいると見ます。議決権と配当面では不利なGoogle株は魅力に乏しい→機関投資家の大口需要の減少→Google株の需要と供給の市場バランスに不利→株価下落→投資対象としての魅力減少。
    また、(私的には嫌いな)Microsoftはもうじき展開するであろう検索サービスで、Googleの収入源をぶっ潰す為に自らの豊かな財力を活かし広告掲載料を徹底的に低く設定するでしょう。ちなみに、幾つかのウェブサイトの最近のアクセスログを解析してみますと、”msnbot/0.11″に因るアクセス件数が”Googlebot/2.1″のアクセス件数を上回っていたりします。
    配当も無いし、機関投資家の堅実な需要が生む株価の下支えが弱まった場合、キャピタルゲインも覚束ない。広告に頼る収益性もMicrosoftの俎上に載ると非常に危うくなる。通常の引き受けではなく、オークション形式のbook-buildingなので投資銀行の発行額に対してのコミットメントは薄れ、上場後通常数カ月は期待できる投資銀行に因るPKO(Price Keeping Operation)も望めない。
    検索サービスとしては秀逸ですが、ビジネスと株価へのリスクは山積していますね。(汗
    少々バブリーな感も有る今回のGoogle株の上場で、小口の投資家が如何に儲けられるかと云うと、予測不能で少々危険な株のオークションに入札するよりは、取り引き開始後高値でGoogle株を空売りし、Microsoft社の検索サービスが(年内に?)公開されてGoogle株が急落した直後買い戻すのが宜しいかもしれません…

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  9. GoogleはWall Streetがあまり好きではないらしい。

    元記事(FT: Merrill Lynch drops out of Google IPO)
    久しぶりのGoogle IPO話。今度はメリルリンチをシンジケートからはずす、とのこと。同記事によると、Googleの今回のIPOはWall Streetの伝統的な株�…

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  10. 最近また下がってきてはいますが、グーグル株は上場以来すごい勢いで上昇し続けましたね・・・

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  11. 昨日かおととい、初めて過去300日(だったかな?)の平均株価を下回った、ということで話題になってましたが、上場したときが80ドルだったことを思えば、350ドルでも十分すごいですよねぇ・・・・。

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