自動的専業分業アリ社会

今朝は"Ants at Work: Organization Without Management"という7時半からの朝食セミナーに行ってきた。スタンフォードのFaculty Clubで毎月行われてセミナーシリーズの一つ。今回は同大学の生物の教授、Deborah M. Gordonの20年のアリ研究の成果の発表。誰でも参加できる(有料だが)。

かなり前からすごい楽しみにしていた。昨日など
「はっ、もしかしてあのセミナーは今日だったのでは」
といつもより早く目が覚めてしまったくらい。Biographyにも書いたとおり、動物生態が好きなので。(今日のは昆虫ですが。)

思ったとおり面白くて、嬉しくなってしまい、ずっとニヤニヤしながら聞いていた。でも、周りの人も大笑いしながら聞いてたからOKか。

「働きアリは、どうやってタスク分担をするか」というテーマである。

1.アリのキャリアパス
■働きアリには、食べ物を探したり外部の異常を感知する偵察アリ、食べ物を運んでくるアリ、巣の修復を行うアリ、ゴミ掃除をするアリ、の4種類がいる
■それぞれのアリは専業で、修復アリが食べ物を探しに行ったりしない
■特定業務に特化したアリが生まれるわけではなく、約1年の生涯を通じ、一定のキャリアパスに従って仕事を移っていく
■巣の表にいる時間が増えると、その風に当たることで体の表面が乾き、体表面の化学組成が変化する。で、その化学組成によって、違う「匂い」が生じる
■体の匂いによって、どの仕事をするか決まる。例えば、巣の中にいることの多い修復アリが、外に土を運び出したりしながら表にいる時間が増えることで、食べ物アリ、偵察アリへと「昇進」していく。

まず、ここまでで「なるほど!」という感じだが、ここからがポイント。

2.アリのタスク分担
■偵察アリが帰ってこないと、食物アリは行動しない。巣の周りに障害物があって修復アリがそれをどけている間は、偵察アリは巣の中にこもっている。つまり、「異業種間での仕事量連携」が行われている
■しかし、「さぁ、修復だ」とか「偵察部隊出動!」などと指示を出す指令アリはいない
■アリは業務ごとに違う匂いだが、特定のアリが自分の仕事をするかどうかは、「どの匂いのアリに」「どれくらいの頻度で出会うか」という二つだけで決まっている
■試しに、偵察アリの匂いのビーズを巣にポコポコと落としたら、食べ物アリがぞろぞろ出動してきた

(こうした生態学を、人間向けのマーケティングに適用したアイデアが出てくるのはBuzz: Harness the Power of Influence and Create Demand

ちなみに、「全然何もしていないアリ」というのも莫大に巣の中でゴロゴロしているんだそうだ。どうもずっと何もしていないらしい。(ここで聴衆一同
大笑い。)理由は今のところ不明で、「匂いによる出動情報伝達メカニズム」において、何らかのバッファーとなっているのでは、ということだった。

(そういえば、指揮者のいないオーケストラの組織マネジメントに関する本っていうのも話題になりましたね。)

なんでこれが、ずっとニコニコするくらい嬉しかったかというと、話し手が本当にアリ社会研究を愛し、しかもその道の真の専門家であることがしんしん
と伝わってきたから。アリ専門家ではない人間が心から楽しめるように話せるということは、本当に理解の底が深いということだ。平易な言葉で話すというのは
ものすごい難しいことなのである。

20年間営々とアリの研究をしてきた人が、そのエッセンスを拾い出して話してくれたのだから、面白くて当たり前かもしれないが、世の中長いこと何かをやってきて、何一つ面白い話が出てこない人というのもたくさんいるわけで。

セミナー終了後は、会場の入り口でウキウキと、セミナーの元ネタ本のAnts at Workも買ってしまった。

「私も感動を与えられるような話ができるよう精進しよう」という、前向きな気持ちになった朝でした。(「なれるのか」という暗い気持ちも湧いたが、それよりウキウキ度が上回った。)

なお、Deborah M. Gordon教授の研究室はこちら

自動的専業分業アリ社会」への15件のフィードバック

  1. こんにちは。いつも楽しく(感動しながら)読ませていただいてます。
    日本国ではこんなの流行っている様です。イタリア産だとか。。ご存知でしたらすみません。
    ANTQUARIUM:
    http://www.mdn.co.jp/style/s30/g01.htm
    http://www.cdf-online.jp/items/06819.html
    http://www.iwantoneofthose.com/ProductDetails.aspx?language=en-GB&product=ANTQUA
    匂いと出会う頻度。。(感動)。。勉強になりますね。
    “ants at work”是非買ってみまっす。

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  2. ありがとうございます。二度も「感動」という言葉を使っていただいて・・・・
    でも、私の研究じゃないのが悲しいところです。
    ありハウス、すばらしいですね!こんなハイテクなモノに進化していたとは・・・・。いきなり興奮して、日本の親戚の子どもたちに、押し付けプレゼントとして代金着払いで送りつけてしまいました。イギリスのサイトからは、アメリカにも売ってくれるようですが、送料の方が本体より高いので諦めました。。NASAで開発したならアメリカでも買えないのかな・・・・ちょっと探してみます。

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  3. あ、これアメリカぽいです。brookstone..??
    http://www.brookstone.com/shop/product.asp?product_code=426288&search_type=search&search_words=ant
    私の周りにこれ観察しているヒトがいるのですが、年3回程行われる害虫点検・駆除作業が先日行われた時も捕らえたアリさん達は生き延びたそうです。
    すばらしいですよねー。地味な(小さな)観察ですがハイテク。まさにカンドウ。私にもだれか押し付けてくれないかな。。 ・。・

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  4. かなり旧聞に属するのですが、
    この秋に札幌で行われた日本動物行動学会で、発表された研究に、
    秀才ばかりの集団では、組織の生産性が低下する、というものがありました。
    この結果は大阪府立大の西森拓助教授らの研究結果で、アリの行動特性を基にしたものでありました。その結果は以下の通りです。
    ================================================
    アリは餌を見つけると、目印にフェロモンを塗りつけ他のアリを誘導する。
    その目印に敏感なアリと感度が悪いアリの行動を観察してみたところ、
    感度の悪い方が餌を効率よく集めるという結果が出た。
    優秀なアリは、目印を忠実に追い餌を集めるものの、目印に固執するあまり、
    新たな餌を発見しにくいのだそうだ。一方、鈍いアリはうろうろすることで、
    餌を発見するチャンスが高まるのだという。
    西森助教授は「状況の変化が著しいときには、人間でも手堅い秀才ばかりではダメなのかもしれない。」と語る。
    ================================================
    ということだそうです。
    アリ繋がりで、書き込んでみました。

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  5. 面白い話ですね。情報ありがとうございます。
    「目印に固執するあまり新たなエサを発見しにくい」
    含蓄ありますねぇ・・・。生物学的には、innovationはランダムなトライを重ねることで起こるようですが、いろいろ無駄なこともするのがいいのでしょうね。
    ちょっと思ったのは、日本では「手堅い秀才」がだめ、となると、「好奇心旺盛なバカ」がいい、という極端な意見に流れがちですが、「好奇心旺盛な秀才」「手堅いバカ」というほかの二つの種類もいるということを考えた方がいいのかなぁ、ということ。politically incorrectかもしれませんが:-)

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  6. いつも新鮮な刺激をいただいております。感謝感謝。
    アリ…うちのもおととい、宅配にて容器&DVDと共に5匹到着。クロオオアリが適しているらしい…が、小さい。
    本当は、しばらくの間出張に来日していた知人へのギフトのつもりでしたが、納品遅れで間に合わず。
    帰国の日に届きました(とほほ)。
    やむなく、昨日我が家でお引越し。
    「早いチームで30分、遅いと1週間ほどミーティングをしてから掘り始めます」と説明書きがあったのですが、
    2日目の今日も隅に一塊になっているだけで一向に活動しません…。
    時折1匹だけ動き回って(偵察?)、他の4匹はきちんと縦列になっていたり、ちょっと興味が盛り上ってきたところで
    でもやはりまた隅にジー。
    Simizuさんのところは変化ありまして?
    DVDはギフト用だからと付けたのですが、不本意ながら見てみたら実は面白かったです。アリがキノコの栽培までするのも知りませんでした(!)
    Akiさんの蟻んこはかなり個性発揮ですね。楽しそうでうらやましいです。
    Chikaさんも書かれていますが、くだんの説明書きにも「女王ありのいないアリは通常6ヶ月から2年ぐらいの寿命です。」
    (省略)「もしお望みであれば別のアリを入れることができますが、アリの中には、別のアリが作った巣に住みつかないものもいます。」と。
    コロニーに戻れれば良いですが、そうでない場合は5匹だけで放すのは、却って気の毒な気がします。。。

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  7. [アリ]脱走

    Antquarium 泳ぐアリに対して渡辺千賀さんよりコメントをいただいた。いつも悩むのだが、はてなでコメントをもらったときには、そのコメントに自分の返事をコメントしても、元のコメン…

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  8. ANTQUARIUM

    アリの観察キット。 銀座をふらふらしていて博品館で発見。 イタリアの会社の製品らしい。イタリア語読めない!…

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  9. 明日は予約したのにいけなくなってしまい残念ですが、offの方もこんなに面白いというのは大発見でした。当方本業野次馬業といったところでしょうか。両方刺激するところが大成功です。

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  10. 働きアリについて

    「気晴らし」を考えたBLOGで働きありは不釣合いかもしれませんが、面白い記事なので参考に。R25という雑誌に面白い記事がありました。要するに「働き者、普通の人、怠け者が、2:6��…

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  11. アリから学ぶもの

    渡辺千賀氏のBlogのアリに関するエントリーはかなり興味深かったが、さらに興味深い話がある。
    軽く抜粋
    動いているだけ、“働いているフリ”をしているだけというアリが全体の2��…

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