ベンチャーと中小企業の違い

日本人の知人から「シリコンバレーの高成長の中小企業で働いてみたい」というメールをもらって、「何かおかしい!」と私の「変なこと感知髪の毛アンテナ」が3本ほど逆立った(「ゲゲゲの鬼太郎」の妖怪アンテナ風)。

なんだなんだ。文法は間違ってないぞ、言ってることも間違ってないぞ、この違和感はなんだ、と思って気が付いたのは「中小企業」という言葉。「シリコンバレーの高成長の小さい会社」はhigh growth venture。日本で言うところの「中小企業」とは随分違うのだ。

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「優れたシリコンバレーのベンチャーと上手く付き合うことが重要」

と大企業の方に言うと、

「それならこういう設計を発注したい」

という類のことを言われることがある。つまり「下請け」。

「とりあえず数百万円くらいで、簡単な共同コンセプト作りをしたい」

ということもある。
いずれも「相手の会社の作業を時給で買う」という発想に近い。相手が「中小企業」だったら問題ないかもしれないけれど、high growth ventureは時給仕事はしない。

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「high growth venture」と「中小企業」の違いは何なのか。

「high growth venture」は、核となるコンセプトや技術があって、それを市場にもたらすことを目的とした若い会社。5年間程度で50億円規模の売上げを達成するような、急激な成長カーブを想定する。最短距離で自社の技術を世に出せるよう、それ以外の仕事を受注して時間を無駄遣いしたりしない。だから最初は赤字。赤字の間の資金は、「我々の技術が完成して、市場に出た暁にはこれくらい儲かる。」という「風が吹けば桶屋が儲かる論(またの名をビジネスプラン)」を、出資者たるベンチャーキャピタルに説いて回って、資金調達する。

「high growth venture」は基本的には人材もトップ級が揃う。その業界の上位を占める大企業以上の水準を持つ人材がぞろぞろいるのも普通。バイオ系のベンチャーなんて、社員の半分以上がトップスクールのPh.D.なんてこともざら。

「中小企業」は、核となるコンセプトや技術はあることはあるが、「それで世の中を制覇しよう」という野望は薄い。仕事を受注しながら、利益がでたらだんだん業容を拡大して成長していく。
「中小企業は駄目で、high growth ventureがいい」というのではない。この二つは違うタイプなのだ、というだけだ。

しかし「中小企業」に対するような要求を「high growth venture」にしても受け入れられない。

なお、シリコンバレーに住所がある技術系の会社だからといって、どれもがhigh growth ventureなわけではない。経営の箸の上げ下ろしまでこまごまと口を出してくる外部資本(ベンチャーキャピタル)などいれずに、自分の好きなペースで仕事をしたい、という「中小企業」型会社だってある。そういうのは、「small business」。またの名を「life style venture」という。「世界制覇」の野望より、「小さくても一国一城の主となって働きたい」という「ライフスタイル欲求」を実現するための会社、という意味。

もちろん、「ベンチャー認定」なんていうものがあるわけでもないので、「high growth venture」と「small business」の中間的な会社だってあるし、small businessでじわじわと成長してきた会社が、突如気が変わってVCから資金調達、high growth ventureに鞍替えすることもある。
でも、やっぱりhigh growth ventureは「中小企業」ではないのだ。

ベンチャーと中小企業の違い」への7件のフィードバック

  1. 「ベンチャーと中小企業の違い」、興味深く読ませて頂きました。
    日本とアメリカの間で「ベンチャー」や「中小企業」という用語に関する認識が随分違うな、ということをChikaさんのpostを読んで感じました。ベンチャーの概念化が比較的にしっかりなされているアメリカに比べ、日本では(少なくとも、近年においては)新規事業であればベンチャーと呼んでいるのが現状ではないかと思います。
    ただ、両概念を同じ基準(例えばgrowth potentiality)で比較するのは、必ずしも適切ではない気もします。つまり、中小企業という時は、「ある特定時点における企業の規模」のことを指すのが一般的で、chikaさんが挙げられたその企業がどのくらいのgrowth potentialityを持っているかという点とは、直接関係ないと思います。例えば、中小企業の中でも‘世界制覇の野望‘があるものとないものと、両方存在しますね。その点、如何でしょうか。
    John
    PS:初めての投稿なので、簡略に自己紹介します。私は現在、アメリカの大学で講師しています。主に、「情報社会論」や「情報通信政策論」などを担当しています。日本には以前、留学したことがあります。ここは新参なのでよろしくお願いします ;-)

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  2. コメント&自己紹介ありがとうございます。
    「中小企業」という言葉のニュアンスの問題なので、一概に何が正しくて何が間違っているとは言えないのですが、私のこれまでの実感としては、日本語で「中小企業」と言ったとき、それは「high growthなSilicon Valley型venture」とは随分違うもののだった気がします。
    「high growth potential」で分けたのは、growthシナリオによって、どこから資金調達をするかが変わるからです。(high growthなシナリオでなければ、メジャーなVCからの資金調達はできないので、family & friendなどになりますよね)確かに「世界制覇の野望」は「中小企業」でも持っている事はあると思いますが、「それを達成しなければならない時間軸」「達成の必要性」が違う。大株主の意向が違うから、です。
    ただ、本文でも書いたように、必ずしも全ての未公開企業がきっちり分類できるわけではありません。「純粋なhigh growth venture」から「純粋な中小企業」までのcontinuumがあって、その両極端を説明するとこうなる、ということではあります。
    ちなみに、私自身はsmall businessをやっていますので、small businessが好きです。。。

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  3. 早速の説明、有難うございます。「growthシナリオの内容」と「資金調達」という観点からのご説明、多くの部分,同感します。
    もう一つ、ご意見(又は感想)を伺いしたいですが、Chikaさんは日米でベンチャーの投資事業にかかわり、またNPOを設立いたりして日本とシリコンバレーの橋渡し役という重要な役割を果たしていますね。そこで日本からアメリカに活動拠点を移したというのは、自分の中で何らかの「問題意識」を持っていたからだと想定しますが、その辺を聞かせて頂けますか。
    日本で「high growth venture」がなかなか生まれないのはベンチャーやベンチャーキャピタル、両側に問題(又は力不足)があったからだと思ってみます。例えば、ベンチャー側はChikaさんが指摘したような、きちんとした「growthシナリオ」や「達成のための時間軸」、そして「達成の必要性」などを持っていなかったり、ベンチャーキャピタル側は「純粋なhigh growth venture」から「純粋な中小企業」までのcontinuumの認識が甘かったり、ベンチャーをそのContinuumの中に位置づける能力の欠如などが、少なくとも今までは、あったのではなかったかと。
    もしこれが現状であるならば、改善策としてはどういったものが考えられるのか、ということも聞かせて頂ければ有難いです。
    John
    PS:
    Chika wrote:
    >ちなみに、私自身はsmall businessをやっていますので>、small businessが好きです。。。
    いや多くの人々は、ChikaさんはContinuumの反対の極にあると思ってるはずですよ ;-)

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  4. この題名を見て、読み始めました。
    ちょうど今、Museの梅田さんの書かれた、”シリコンバレーは私をどう変えたか”を読んでいるのですが、梅田さんも、その中の、”日本のベンチャーには、なぜ限界があったか”との題で
    ご意見を述べられています。
    日本でいうベンチャーと、シリコンバレーのベンチャーでは、内容が大きく異なっているという議論です。
    そちらを読んですぐ、渡辺さんのご意見を読みましたので、お二人の議論が重なって、胸の中に残りました。
    私の頭の中では、梅田さんのように、日米のベンチャーがきれいに四分割されているわけではなく、お二人のノートにより、かなり整理されました。
    ありがとうございました。
    明日、サンフランシスコ行きのフライトで、そちらに行き、何人かの方々と、お会いし、そちらのベンチャー、ベンチャー・キャピタルについても、いろいろ教えていただこうと思っております。

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  5. VCの機能不全−−−使い切れないほどのカネを持ち、シード・マネーを提供せず、投資に値する起業家がいないと嘆く−−−

    ベンチャー・キャピタルの資金はダブついているのに、投資機会が少ない。つまり、起業…

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Akira への返信 コメントをキャンセル