Microventuresという2日間のconferenceに行ってきた。半導体、ナノテク、MEMSなどが対象で、参加者の半数はVC関係。プレゼンテーションをする側はベンチャー企業で、1社当たり20分だけ時間を与えられて投資家向けに説明をするというもの。
主催者であるTechnologic Partnersの人とランチで隣になったので話を聞いたところ、今回の出席者は約290名。「去年の同様のconferenceでは500-600名が参加したのに比べると、寂しいものがあるけど、経済の悪さを考えたらまぁいい方だね」とのこと。
このconferenceではベンチャー企業は事業対象ごとに別の部屋を与えられ、同時に5-8社程度がプレゼンをする。コンスタントに人が集まっていたのは、センサー・イメージング関係。CMOSイメージセンサー、モーションセンサー、など。セキュリティーやコンテンツプロセッシングなど、従来ソフトウェアで行ってきたネットワーク関係の処理をチップ化する類のものはプレゼンする企業数も多く、コンスタントな集客だった。逆にデザイン・オートメーションツールやMEMSなどは4-5人しか観客がいないことも多いという状況だった。
ちょっと話がずれるけれど、1997年の後半から98年にかけて、私は三菱商事でXMLを追いかけていた。当時注目していた3社のうち、1社は買収されて大成功、もう一社はIPOをして、これも大成功。でも、当時XMLが実現するとされていたことは、いまだにほとんど実現されていない。去年の後半あたりからweb servicesというコンセプトが騒がれているけれど、そこで言われていることは97年ごろXML関係の会社が言っていたこととあまり変わっていないのである。良い見方をすれば、変わっていないというのは、そのコンセプトが王道である、ということの証である。まずビジョンがあって、それを10年以上かけて切々と作り上げる、というのが王道の技術の進む道だ。
ちなみに、その後、99年にマッキンゼーでとある電機会社のプロジェクトをした時、「E-commerceに参加するtrading partnerや金融機関・輸送会社などのservice providerのディレクトリ、およびXMLの処理などを専門に行うハードウェアがネットワークのノードに出現する。だからそれにむけて、チップやルーターのハード開発を行うべきだ」と力説した。。。のだが、「なにそれ」っていう反応だったなぁ。まぁ、「全社インターネット戦略」というテーマのプロジェクトだったから、あまりにディテールに入り過ぎていたともいえる。しかし、今回のconferenceで、IntelからスピンオフしたTarariなどがcontents processorを発表しているのをみて、「私は間違ってなかった」と一人静かに満足したのだった。
さて、Micorventuresの話に戻ると、Keynote Speechでシンクタンク、Institute for the FutureのDirectorのPaul Saffoが面白いことを言っていた。
「20世紀の最初の三分の一は化学が新たな産業を牽引した。次の三分の一は物理だった。そして最後の三分の一はITだ。化学の時代も、物理の時代も、その最後には戦争があった。そして、その戦争は前の時代の技術を最大限に駆使した者が勝った。第一次世界大戦は化学兵器、第二次世界大戦は原子力兵器だ。ITの時代の終わりを告げる戦争はまだないが。」
前半の化学、物理、ITという流れ自体はそれほど目新しいものではないが、「戦争で終わる」というところは面白い見方だ。そういう意味では、今のテロとの戦いはかなりの部分IT戦争である。どれほど爆撃をしても、テロのネットワークを壊滅することはできない。それより、網の目状に広がるアメーバのような情報網の中から意味のある情報を探り出していくことが必要になっている。ということは、このテロとの戦争が終焉したときがITの時代の終わりなのだろうか。(Saffo自身は、「戦争なしでもITの時代が終わる可能性はある」としていたが)
それから、中国の半導体産業の動向、というパネルディスカッションがあった。一人のパネリストが「2年前、中国でVCであることはファッショナブルだった」というコメントをすると、聴衆からはクスクスと笑い声。「アメリカでも二年前VCであることはファッショナブルだったよねぇ」という自嘲的笑いである。同じパネリストいわく、「2年前中国には250のVCがあって、そのうち30%はアメリカドルベースのファンドだったが、それ以外は人民元ベースだった」。一応建前上共産主義の国でVCが250もあるってどういうことなんだ。中国人と話すと、知り合いの事業に投資をするのが当たり前のように語られて驚くが、その延長線上でさくさくとVCが作られたのだろうか。
それにしても。こうしたベンチャー企業が集まってプレゼンするイベントで特に感じるのは、大企業の内部でほとんどのイノベーションが起こる日本と、ベンチャーでイノベーションが起こるシリコンバレーとの違いである。後者に関しては「起業のエコシステム」とか体系的なことがよく語られるが、それよりも「まだ開発途中の多くの技術情報が開示されるため競合が激しくなり、その結果としてよりよりものが早く開発される」というプロセスのメリットが大きいのではないか。今回のconferenceでも、競合企業のCEOや投資家がプレゼンを聞いて、既にどこまで技術が実現しているのか、どんな顧客を獲得したのか、重要ターゲットセグメントは何か、それはなぜか、今後のロードマップは何か、といった質問をしてメモを取っている。今回のconferenceと同様のフォーマットで行われた別のイベントでは、あるベンチャーのプレゼンが終わるや否や廊下に出て電話をしている人がいた。漏れ聞く会話は「They are coming with 1 chip solution, and samples are coming out next month! Shit!! We are screwed! Oh, shit!!」という切実な「負けつつある競合の悲鳴」だった。(excuse the language..)
もちろん、日本でも企業間の熾烈な競合はある。しかし、開発の早い段階でその状況が明らかになることはあまりない。ところが、シリコンバレーではビジネスアイデアの段階から投資家や雇用したい人材などに、どんどんアイデアを説明しなければならない。
今回のSaffo氏のスピーチでも、「最初にインターネットが作られたのはヨーロッパだった。しかしそれを事業として大きくしたのはシリコンバレーだった。」と。
R&Dのごく初期から外部と切磋琢磨することが、シリコンバレーの「アイデアを事業として発展させる力」に貢献していることは間違いない。
XMLが王道を歩んでいるというのはやっぱり間違ってなかったでしょう。私とりあえず勝手に「blogはpersonal web serviceだ」という定義をしてるのですけど、こうしてblogして毎日のようにXMLを使ってる状態になってきたというのがジワジワと拡がってることを示しているかも。
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