サーチ・独立・株式市場ー2

サーチ・独立・株式市場ー1は、

「独立し」、「分散して」、「それぞれが勝手な理解の仕方をする」という三つの要素を満たす個人がたくさん集まると、その全体は構成する個人各々より優れた知恵を生み出す。GoogleのPage Rankが優れた結果をもたらすのは、ここのウェブサイトが(おおむね)この3つの条件を満たしているから

という話であった。

その続きで、資本主義と株式市場について。いずれも、量子力学みたいなもの。「位置を知ろうとすると、速度がわかならい。速度をはかろうとすると位置がわからない」というわけのわからないのが量子力学なわけだが、株式市場もそういう感じなのだよ、と。

Google IPO:未公開企業の価値の計算というエントリーで、企業価値の算定方法を書いたのだが、そこでこんなコメントを頂いた

「簡単で公平」に見えるComparable(類似企業比較法)についてもどうも、生理的に受け付けないというか、
うさんくささを感じるというか、要するに納得できないものがあります。

株価は所詮、需給関係で決まり、時にはovershootしたり博打の対象になるものという考えからすると、Comparableの対象の価値も「砂上の楼閣」に感じてしまうというか。

株価の妥当性を測る指標は色々あれど、後付けで正当化しようと色んな理屈が出てきますし。

まあ「市場のお約束事」に乗れないなら、投資しなければいいだけですが。

これは、多分アメリカ的資本主義的株式市場を見た日本人の多くが思うことではないか。(っていうか、多分、日本人じゃなくてもアメリカ人以外はこう思うんじゃないか。)

確かに、個々の企業の価値については「砂上の楼閣」的感じがすることは多々ある。基本的なビジネスの内容が何も変っていないのに、流行り廃りだけでその会社の株価が上下したり。

しかし、株式市場はたくさんの会社が上場し、非常にたくさんの「独立」「分散」「勝手」な人たちが投資している。この「たくさん」というところがミソ。たくさんの人がそれぞれ「きっとこの会社の価値はこれくらいだろう」と推定して、「この値段だったら買う」という株価を算出する。そうすると、その時点で「独立」「分散」「勝手」な大勢の人々が入手できる情報に基づけば、確率統計的にはかなり正しい企業価値が算定できるはず。

(おまけ1:なので、大勢の人に同時に情報が出る、というのは大事。一部の人が「この会社の値段はAです」と言って、周りがそれにどっとフォローするのでは意味がない。なので「不特定多数の大勢の株主に対し、同時に情報開示をしろ」というルールがある。インターネットで投資家説明会をストリーミングするときも、世界中に同時配信できないと駄目で、90年代半ばは結構インフラ整備が大変だったと聞きました。)

(おまけ2:McKinsey QuarterlyのThe right role for multiples in valuationでも「世の会社の株価が正しいとして、じゃぁ自分の会社(や部門)の株価はいくらが妥当?と逆算していく方法が延々と書いてありますが、これも、「世の有象無象の投資家が勝手に至った結論であるところの株価の方がより正しいであろう」という大前提に基づいて、逆算が行われている。)

(おまけ3:この「大勢で勝手に考えればより正しい結果」という原理で、中東情勢先物市場を国防省が設立、首相暗殺やテロ勃発などをネタに実際に金銭をかけて取引してもらい、その市場の動きから実際の中東情勢を占おうとしたということもあった。)

とはいっても、ここでいう正しさは、「大勢の人がそれぞれ考えた結果は、それ以外の方法で導いたものより正しいだろう」といういい加減なものでもある。間違いだって多々ある。しかし、個々の企業価値や個々の株取引が時として間違っているということと、総体としての株式市場が上手く機能するかどうかはまた別の話。っていうか、投資家が「独立」「分散」「勝手」である限り、個々がいい加減でも、全体はそれよりましになるはず。

量子力学で言えば、電子や陽子、中性子のように、モノの構成単位のごくごく小さい方までいくと、「位置と速度を同時に観測できない」「どこにあるかは確率でしか示せない」という、わけのわからない状態になる。しかし、粒子レベルではそんな風に不思議な振る舞いをしても、それがたくさん集まって私たちの眼に見えるような物体になれば、その動きはわかりやすいニュートン力学の世界となる。速さも位置も同時に測定できる。(だからスピード違反でお巡りにも捕まる。)

粒子レベルが不確かでも、それが集まった物体レベルは確かなものになるわけで。そういう意味で「量子力学=株式市場」(ちょっと比較がApples to Orangesであるが)。

(あー・・・上手く説明できてない。が、夜もふけたので、またいつかトライします)

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ちなみに、最初のエントリーへのトラックバックいただいたこちらのサイトでは

『構成員が「独立し」、「分散して」、「それぞれが勝手な理解の仕方をする」』ていう状態だとシナジーとかコラボレーションが全く生まれなさそう

ということなのですが、集団でことをなすには、「状況を正しく理解する」「その状況に基づき正しい解を導く」と「その解の方向に進むべく、多くの人の力を結集する」というのは三つの段階があると思うのですが、まずその最初のプロセス、「状況を正しく理解する」では、大勢で意見を出し合って誤解がないようにする必要が。また、最後の「多くの人の力を結集する」でも、一致団結の必要あり、みんなが共通認識を持ってることも大事。この二つのプロセスでは、コラボレーションが大事。プラス、大勢で話し合うのは「帰属意識を高める」という「儀式」という側面もあるかと。

でも、真ん中の「解をだす」ところは、大勢でわいわいやってもしょーがないことが多く、ここは「独立」「分散」「勝手」の方がよいってことでしょうか。

サーチ・独立・株式市場ー2」への5件のフィードバック

  1. 「独立」「分散」「勝手」というキーワード、納得です。「株式市場は猫である」というのが私の持論ですが、なるほど量子力学で説明すると、ぐっと高尚になりますね。。。

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  2. そういえば昔生物の授業で世の中にはindividual predictability は無いけれで、沢山回数を重ねる全体を見れば、ある現象の「確率」は分かる事が多いみたいな話を習ったのを思い出しました。
    遺伝子の配列とその結果もそうですよね。何かを決定的に決める「確実」は存在しないけど、サンプル数が無限にあれば、なんとなくパターンは存在するみたいな。カオス理論とかもそういう話ありませんでしたっけ?(←あやふや)。
    でもその授業の教訓は確かその確率が分かる事ではなく、個々の現象はゆらぎの範囲内では予測不可能なので、下手に医療政策やらにこういう結果を使わない方がいいみたいな事だったような気がします。例えば「遺伝子A」があると「殺人者になることが多い」みたいな結果。
    あまり具体例なくてすいません。
    しかしビジネススクールとかに行っていると、チマチマした数字のmechanicsばかりにフォーカスして、こういう面白い話は忘れがちになりますね。。。余裕を持たねば。。。

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  3. やぶ猫-san
    「独立」「分散」「勝手」はそのまま猫の性質でもありますね。あ、だからシュレディンガーの猫っていうのか?
    Ken-san
    遺伝子は特定のものに限っては「これがあったら、かならずこうなる」というのはありますけど、どんな風に出現するかは全体的には確立統計的ですよね。
    ビジネススクールは忙しいですが、時々グランデラッテでも飲みながらゆっくり考え事でもしてみてくださいませ。

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  4. [net][org]コモンセンスの時間軸

    集団でことをなすには、「状況を正しく理解する」「その状況に基づき正しい解を導く」と「その解の方向に進むべく、多くの人の力を結集する」というのは三つの段階があると思うのですが、 〜中略〜 でも、真ん中の「解をだす」ところは、大勢でわいわいやってもしょーがないことが多く、ここは「独立」「分散」「勝手」の方がよいってことでしょうか。 chikaさんにコメントいただいた話の続きですが、このように時間軸を分けて「独立」「分散」「勝手」の必要性を考えるとしっくりくるような気がします。この場合は集団で事を成す(つ…

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