夢と錯乱2

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先週末、近くの大学の医学部で先生をしている男性から、子供が生まれたというお知らせのメールが来ました。デジタル写真アルバムへのリンクつきだったので、クリックしたら、いきなり一枚目は「血みどろの胎盤の前にへその緒つきで横たわる血まみれの赤ちゃんの写真」でした。これだからお医者さんはあなどれません。これで、わたしの悪夢に出てくる映像レパートリーが一つ増えました。

というわけで、夢と錯乱の後編です。

Dreaming as Delirium: How the Brain Goes Out of Its Mindは、Harvard Medical School教授のAllan Hobsonが、夢がどういう脳のメカニズムで起こるかについての自説を展開した本です。

■脳内には、覚醒を支配するノルエピネフリンとセラトニンという二つのアミンと、夢を支配するアセチルコリンがある。
■アミンとアセチルコリンのバランスによって、「夢」と「覚醒」どちらの状態になるかが決まる。
■アミンが増えれば集中力が増し記憶力も増す。アセチルコリンが優勢になると、あまり関係ない記憶の間にバリバリとリンクが張られ、さまざまな連想が頭を走りめぐる状態になり、思いがけない発想が生まれる。
■午前中はアミンが多い。だから集中できる。が、アセチルコリン的自由連想に基づく思いがけない発想は生まれてこない。もっとも夢を多く見るREM睡眠の間はアセチルコリンが優勢で、アミンは最低レベル。なので、奇想天外な夢を見ることになる。しかし、夢のほとんどは忘れてしまう。なぜなら記憶のために必要なアミンがないから。

以上が、ごく簡単に言った夢のメカニズム。ただし、こうした化学物質がどうやって分泌されるかはまだ完璧には解明されていない。また、これ以外にも関係している物質がある。メジャーどころではドーパミンとか。)

Allan Hobsonはさらに進んで、「夢と精神錯乱がいかに似ているのか」を説明する。外部からの情報ではなく、自分の内部で作り出された情報(妄想)に基づいて反応しているのが精神錯乱。しかし、その妄想は、多くの人が夢で見るようなものとほとんど一緒。(恐ろしい人に追いかけられる、とか)夢を見ているときは、体が本当には動かないように抑制がかかっているからいいものの、そうでないと精神錯乱者同様、走り回って逃げ惑ったり、人に危害を加えたり、ことになる。(で、タイトルが「夢と錯乱」)

これ以外にも、「夢を抑制すると鬱が直る」とか、「電気ショックがそれとどう関係するか」とか、「病的に落ち着きが無いADHDの子供にはアンフェタミンが処方されるが、アンフェタミンはノルエピネフリンと似た物質」とか、いろいろ面白いことが書いてある。

夢と睡眠に関しては、前回のエントリーのコメントにnhさんが書いてくださったNewsweek8月9月号の記事、What Dreams Are Made Ofはコンパクトにまとまっています。

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さて、このアセチルコリンとアミンの関係から見ると
「クリエィティブな発想と、集中力・記憶力を合体させるのはとっても大変」
という暗黙の了解が脳内化学物質的に証明されたということか。

「クリエイティビティ=新しいアイデアを生み出す力」
と定義すると、たいていの場合アイデアというのは「0から突然誕生」するのではなく、「記憶の倉庫の中に格納されている複数のモノゴトの間に思いがけないリンクを張る」ことで生まれてくる。ということは、アセチルコリンが優勢だとよさそう。しかし、それだと注意散漫、記憶力皆無だ。

一方「集中力」「記憶力」という「良い子要素」満点だと、「思いがけないリンクを張る」というクリエイティビティがないわけで。しかし、はっと思いつくだけではやっぱりだめで、そのアイデアをものにするには「集中」と「記憶」が必要になる。このあたりを克服するために「夢を活用してアイデアだし」という話がでてくるのであろう。つまり、生理的にアセチルコリンレベルが高いREM睡眠時に、覚醒時に役立つアイデアをたたき出そう、というわけだ。最近のエントリーで書いたMir Imran氏など良い例か。

そのためにはもちろん「見た夢を覚えている」というのが大切。起きる前に、ほんの一瞬でいいので、目をつぶったまま夢を思い出してみるだけでかなり覚えていられるものだが、世の中には「夢なんてほとんど見ない」という人もいる。そういうハードコアな人向けの方法もちゃんとDreaming as Deliriumに書いてある。

次の3つを守るんである。

-夢日記をつける(枕元に紙と鉛筆を置いておいて、起き抜けに書く。最初は「つけよう」と努力するだけでもOK)
-寝る時間をばらばらにする
-慢性寝不足状態にする

夢日記の有効性はあちこちで証明されている。これは前回のエントリーのコメントで小鳥さんも書いていただいてますが。

で、夢が覚えていられるようになったら、寝る前に解決したい問題をジーっト考える。これだけでOK。

本では、「夢の中で自分の意思で何かを考える(もしくは行う)」というLucid Dreamを見る方法も書かれている。

a) 夢の中で「これは夢だ」と認識し
b) 意識して何かをしてみる

という2ステップ。a)では「こんなはずはない」という、夢独特の「変なこと」に着目。本当か、と思う方もいるかもしれないが、練習するとできるようになる。わたしは時々やってます。あまりb)で集中力を高めると目が覚めてしまうので、ほどほどのところで止めるのがコツです。

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「見たい夢が見られるおもちゃ」タカラ 夢見工房なんていうものもある。前回のBlogのコメントでGoさんから紹介いただいたもの。(こうしていろいろ面白いことが教えてもらえるblogって偉大だなぁ。)

夢見工房は、夢を見やすいREM睡眠時を見計らって、あらかじめ録音しておいた「見たい夢に関するキーワード」を枕もとのキカイがささやいてくれる、というものらしい。確かにこれなら見たい夢が見られそう。

しかし、きっとわたしは夢見工房でも変な思いがけない夢を見ちゃうんだろうなぁ・・・たとえば、「最初はいい感じなのに、途中から非常に情けない展開になる夢」というのを前見たのですが、「Tom Cruise」「デート」みたいなキーワードで見そうな夢でございました。

こんな感じ。

『昔の小学校の教室のようなところで、床にごろごろしながら、やはり床にごろごろしているTom Cruiseにインタビューしている。20センチくらい前にTom Cruiseの顔が。(実はTom Cruiseが割と好きである)
「おぉ、アップに耐えうる顔だ」と思いつつ、「ここは一発何か知的なこといわなきゃ!」と頭をひねり
「Did you try to coincide the release of Eyes Wide Shut with XXX?」
(XXXは忘れた)と聞く。するとTom Cruiseがおなじみのkiller smileを浮かべつつ
「You know, I don’t really care.」
と言う。で、わたしは「気の利いたことを言おうとした小ざかしさが見透かされた」と、どぎまぎ。と、その時、知り合いが後ろを通り、
「歯の間に海苔がはさまってるよ。」
とわたしに耳打ちして立ち去る。
わたしは
「う、こんなにTom Cruiseと至近距離なのに、歯にノリ!」
と、ぴょんと飛び上がって、ダッシュで廊下に走って出て行く。そこには、コンクリートでできた横長の水のみ場があって、その上の壁にやはり横長の鏡がある。(小学校のときにそういうのがあった)。そこで、一生懸命ノリを取ろうとしたがなかなか取れない。そのうち、はっと、ものすごく長い時間がたったことに気づく。
「あ、Tom Cruiseを放置したままだ!」
と思った瞬間、あせって目が覚める。』

あー情けない。

「『歯の間にノリがはさまってる』と言ったのはお前だ」と、後日会った友人を責めたところ、「濡れ衣だ」と言っていました。それはそうです。

夢と錯乱2」への14件のフィードバック

  1. そんなはっきりとストーリーを思い出せるなんて、すごいですね。私も相当に荒唐無稽な夢を見ている感じがありますが、あまりの筋書きのなさに目覚めても覚えていられません。ハッと起きてトイレに行ったらもう忘れています。
    今度メモってみようかな。

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  2. 千賀さん、面白そうな本「Dreaming as Delirium」の照会ありがとうございました。さっそく購入しました。
     しかし、なんというタイミングなんでしょう。実は、ここ最近(3年)いつも同じ2つの家が夢に繰り返し出てくるのです。ちょうど2週間前にもまた、その家の夢を見たのです。しかも、それぞれの家の間取りはもちろん、チーターの置物の位置、本棚の色、ベッドカバーの柄、台所にある道具など内装の細部に至るまで、しっかり覚えていて、自分でも「これは何かヘンだ」と不思議に思いノートに間取りや内装の詳細を記したところでした。
     
    「夢見工房」で思い出しましたが、中学時代に購入した「睡眠学習器」も同じような機能でしたね。寝る直前と覚醒する直前のLEM睡眠時に枕の内部に仕込まれたカセットテープから音声を流し、その内容を記憶に刻み込む装置でした。かなり夢中になってアレコレやってみましたが、、、効果は???

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  3. 村上春樹氏と河合隼雄氏の対談集(新潮文庫)によりますと
    現実世界で創作活動を行っている人はあまり夢を見ないそうです
    夢についてはこの対談集も結構面白いこと書いてあります

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  4. akiさん
    どもども。夢に出てくる2つの家ですが、夢診断の方法を一つ。覚醒時に、その家のことを思い出してください。そして、夢の中に出てこないところまで入っていってみて下さいませ。あけたことの無い扉があったら開ける。足を踏み入れたことの無い廊下があったら、歩いていってみる。
    もしかしたら隠れたところに意外な人がいたり、意外なものがあるかもしれません。で、それが、その家の夢がどういう意味なのかを意味する大きなヒントになるかも。ちょっと怖いけど、心を落ち着けてやってみると、あちこち入りこめて面白いですよ。
    csunさん
    その対談集、昔どこかで立ち読みしたような思い出が。でも、夢の話は忘れてしまったなぁ。どうしてでしょうね。
    ちなみに、スティーブンキングは夢を元にお話を書くことがあるそうです。On Writingに書いてありました。ミザリーは飛行機の中で見た夢だそうです。忘れないように、紙ナプキンに殴り書きしたとか。
    あと、書き手を忘れてしまったのですが、誰かが面白いことを書いていました。その人は、もの書き兼絵描きなのですが、絵を描き始めると夢を見ないけど、ものを書いている間は疲弊する夢を見る、というような話でした。(絵を描いている間の夢は安穏としていて、ものを書いているときは怖い、だったかも。詳細は忘れてしまったのですが・・・)
    田口ランディも、めくるめくような夢を見るとエッセーに書いていたように思います。書いている小説の筋が夢の中で展開する、というようなことだったと思ったのですが・・。
    あ、そういえば「夢と創作」というテーマの物書き教科書、「Dreams and Inward Journeys」という本もあります。
    ちなみに、「あーこの人の夢の描写はうまいなぁ」
    と思うのは、田口ランディとDavid Lynch。LynchのTwin Peaksの最後のほうで、「赤いベルベットのカーテンで仕切られたいくつもの部屋をぐるぐる回っていると、突然自分がもう一人いる」というのがありますが、あまりに本当の悪夢っぽくて慄然としました。Mullholand Driveなんかも、朝起きた時ぐったり疲れるような長い夢をそのまま映画にしたようです。

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  5. ゆうさん
    メモ、効きますよ。タイトルだけでもOK.「ロバの耳の猫」とか「パジャマで出社」とか。 ;-)

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  6. 小学生の頃、私も夢を夢だと認識できたんですけど、それって「Lucid Dream」だったんですね。「夢ならやっちゃえ」ってノリで普段、現実にはしないような事を、実験的に夢の中でやってみたものでした。空を飛ぶとか、自殺とか。(別に自殺願望があったのではなく、どうなるのかなってカンジで)
    それも飛び降りとか薬剤とか色々試してました。でも、いつも死んだ!と思ったらこめかみの辺りがズワンズワンして真っ暗になって目が覚めていたのですが...
    ある晩、またLucid Dream 中に、走っている車に飛び込むという方法を試みたのですが、そこにお巡りさんがやって来て曰く「こんな風に、夢世界で実験的に自殺をやってみる人が増えて困ってるんだ。君が目を覚ましたら、みんなに夢の中で自殺をしないように言ってくれないか?」と言われてしまうオチつきでした!それを朝になって真剣に母に話したら、超ウケてました。
    でも、もう久しくLucid Dream を見てませんね...練習で見られるようになるなんてすごいですね。今度はもっと夢世界に迷惑かけないような実験をしようかな。

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  7. Mutinta-san
    すごい夢ですねー。笑える。
    夢でもあんまり破壊的なことをし続けると、精神的に悪い影響がある、という説があります。それをうすうす感じていて、その自分ががお巡りさん役で登場して、自分自身を律した、のかも。
    今度はもっと楽しいことを試してみてください。で、面白い夢が見られたら教えてください!

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  8. 夢日記の付け方

    「会社を辞めたら・・・」について
    これは私の場合ですがね。
    ひつじさんの
    『PS: 私も最近よく夢をみるんだけど、
       起きるとすっかり忘れてる・・・。
       どうやって憶え�…

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  9. 連想力と集中力

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  10. 連想力と集中力

    彼はむかし、夢見る少年だった。身の回りの様々な物から、奇想天外な世界を連想し、空想を膨らませて楽しむ事ができた。学校も彼を、教室に閉じ込めておく事はできなかった。先生の…

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  11. はじめましてこんにちは。
    私は小学校6年生の頃に夢の中で「これは夢だな」と気がつくことが何度かありました。
    夢なので怒られないだろうと思って悪戯をしたり、恐い夢を見たときは手でまぶたを広げると夢からさめて助かったりました。
    夢の中で石を握って現実世界へ持っていけるかどうか実験を試みたこともありましたが、目がさめたときには何も持っていなくて手のひらに汗をかいていたことを憶えています。
    夢は面白いですね。

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  12. エルム街の悪夢、みたいですね。
    夢世界から現実世界に「もの」はもって帰れないけれど、「アイデア」は持って帰れる、ということでしょうか。

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  13. はじめまして通りすがりです。
    最近アセチルコリンという言葉をテレビで聴て、興味を持っていたのでここにたどり着きました。
    一年以上昔の記事ですがコメントさせて下さい。
    あくまでも仮説です。
    アセチルコリン優勢かアミン優勢と考えるのではなく、アセチルコリン優勢とアミン優勢間の幅が大きい人と、幅が小さい人がいると考える。
    幅が小さい人はアセチルコリン優勢とアミン優勢の間を行ったりきたりしている。
    現実の出来事を勝手な妄想に取り入れていってリンクを貼っていく。
    悪く言えば思い込みが激しい。よく言えば論理的。
    実際、学者の様な人に宗教や哲学を信じ込んでいる人はいっぱいる。
    また幅が小さいために強靭な集中力を発揮できない。または突飛な発想が浮かばないといった短所がある。
    また逆に幅が大きい人は、集中力・記憶力にたけている。突飛な発想をするのも得意。また斬新な趣味をしているかもしれない。
    しかし自発的に論理的な思考をするのは得意ではない。
    以上は私の妄想です!かなり毒が含まれているのでお気になさらずに。

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  14. yosuke-san,
    人間の体の中はどうなっているかよくわからず、Allan Hobsonの説も、まだ一つの仮説に過ぎません。なので、いろんな可能性があると思います。でも、脳って不思議・・。
    最近、「悪者に後ろからがばりと羽交い絞めにされる」という悪夢を見て、「これは夢だ!目よ覚めろ!!」と何度も念じてやっと起きたら、背中にびったりとおなかをくっつけて猫が寝ていたのでした。その呼吸に伴うおなかの動きが夢の原因・・・。猫ー。

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