5月17日は、「人種別学校は違法」という最高裁判決が出てからちょうど50周年記念日だった。National Publilc Radioでもたくさんの50周年記念特集番組が放送された。たまたま車を運転していたときに放送されたほんの一部しか聞いていないが、中々心に迫るものがあった。例えば判決直後に白人の学校に通うことにした黒人の女の子のボディガードを勤めた警察官のインタビュー。
「人種統合反対のデモの中を登校、一種触発で暴動になる危険な状態。絶対に誰の目も見ず、まっすぐ前を見て、小さな女の子の手をしっかり握って歩いた」
といった、生々しい話だった。
しかし、サンノゼの日系アメリカ人議員Mike Hondaは、San Jose Mercuryに寄せたAfter 50 years, still separateで「残念ながら、今でも完全に統合し切れていない (Five decades after this landmark decision, we still do not have truly integrated public schools.)」と。
そしてベイエリアの公立学校の「不公平」を追った今朝の朝刊の記事。毎日朝6時に起き、バスで90分かけて、貧しいEast Palo Altoから、超リッチなWoodsideの小学校に通う子供の話。
「学歴さえあれば、一発逆転社会階層を登ることができる」というアメリカンドリーム(本当は、階層を上がれる可能性が増すだけだが)の厳しい現実。
East Palo Altoは90年代前半は人口当たり殺人件数が全米最大ともなった街。一方Woodsideは、数億円から数十億円という瀟洒な豪邸が森の中にひっそりとたたずむ、ベイエリアでも有数の高級住宅地。
地元のEast Palo Altoの小学校では、親の半分以上が高校も卒業していない。Woodsideの学校のほうは、半分以上の親が大学院以上の学歴。Woodsideの子供たちの住む家には、庭にテニスコート、バスケットコート、パッティンググリーンがある。East Palo Altoから通う子供は、二段ベッドを兄弟でシェアしなければならない狭いアパート住まい。
こうした、貧しい地域から裕福な地域へと子供たちをバスで送り届けるプログラムというのがアメリカにはあちこちで存在している。
しかし、East Palo Altoから通う子供は、Woodsideの学校では数少ないヒスパニックなのに加え、学校が終わるや否や送迎バスが出てしまうのでクラブ活動もできず、何年も友達が一人もできない。
泣き言を言う息子に、East Palo Altoに住む母親は
`Play by yourself, my son. And study hard,’
`I send you to school to study,・・・not to make friends.”
と叱咤激励。(アメリカの義務教育は幼稚園の年長から始まる。幼稚園の子供に「Play by yourself」というのは、心を鬼にしないとできません。)
やっと去年友達ができたのだが、母親の命で、来年には別の私立学校に転校しなければならない。新しい学校は、Eastside College Preparatory Schoolという、East Palo Altoの子供たちをトップの大学に入れるための進学校で、小学校6年生から大学に向けた勉強が始まる。(恐らく、相当の資金サポートがあるのだろう。East Palo Altoの親が私立の学費を払えるとは到底思えない)
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貧富の差の激しいアメリカでの、教育にかける執念のお話でした。
エントリーと直接関係はないのですが、5月17日と人権に付いて:
最近NPRを渡辺さんのブロックで知り、車の中で聞き始めました。昨日のメイントピックは、同姓結婚に付いてでした。理由は、5月17日からマサチューセッツ州で、同姓結婚が認められるようなったからです。マサチューセッツ州ってリベラルだなーと感心してしまいました。
http://www.npr.org/display_pages/features/feature_1899518.html
5月17日は、歴史上重要な日になるような気がします。
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身につまされる話ですね。
どんどん厳しくなる世の中、他人事とは思えません。
人種の壁を想像すると、90分と言う道のりが永遠の様に感じます。
でも学校を出れば、アメリカですから成功できる人も居るんじゃないかと思いました。
例えばCNBCのマリア・バルチロモさんの様に‥。
(彼女はヒスパニック系???)
親の夢を一身に背負う子供も大変ですが、頑張って欲しいですね。
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Hideaki-san,
ゲイの結婚は、新しいSan Franciscoの市長が許可して、あちこちから結婚を求めるゲイがSan Franciscoに集結、騒然となりましたね。(しばらくして、カリフォルニアの州法に反する、と差し止め判決が出たので、現在はストップしていますが)。
今回のマサチューセッツも、州内居住者または近いうちに転居する人だけが対象ということですが、どこかの市が一つだけ「州外からの人の婚姻届もOK」と決定、NPRで論陣を張っていましたが聞かれました?「州外から集まってくるゲイや、それ目当てに集まる報道関係者の落とすお金も目的じゃないの」という意地悪い質問にも、「もちろんそれもある!」と言い切った市役所の人は小気味良かったです。
別に「お前がゲイと結婚しろ」と言われているわけではなし、どんどん認めればいいと個人的には思うんですが。
nakano-san,
アメリカは、今では人種の壁より収入の壁の方が大きいと思います。ちゃんとした学校を出さえすれば、その先のスタートはかなり好条件となるのではないでしょうか。(スタートだけですが)良い会社ほどminorityを何とか採用したいと思っているので、白人男性より有利ともいわれていますし・・・。
人種の壁<収入の壁、ということでは、例えばアジア系は狭義ではminorityとは言われませんよね。白人より収入レベルが高いので、被差別グループじゃないので・・・・。
貧しい親の、教育(と階級ステップアップ)にかける執念を託される子供も大変ですけど、でも、人生はどこでも誰でも大変なものなので、同じでしょうか。
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ちかさんが書いておられる警察官のことば。有名画家Norman Rockwellの絵に表れたあの場面ですよね。
http://www.nrm.org/exhibits/current/stockbridge.html
あのときの一人の女の子が象徴した立場を今や(も)何万という子ども達が経験しているのでしょうか。上昇志向があればこその苦しみ。
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イギリスやアメリカは階級社会だから、全てが収入によって区別されてるんですね。
それで親は、お金が無い代わりに、少しでも我が子に良い教育をと言う事でしょうか。
親心ですね。
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当然授業中もディスカッションがあるわけでクラブ活動が出来ないからといって一人も友達ができない・・・貧乏人を受け入れてやっているけど事実上受け入れない状態なのでは?それはともかくとして、スラムの子達と違う人生を歩みたいならチャンスなんでしょうね・・・。無料でブルジョア進学校に通わせてもらう感覚なのかな?マンガなら凄く面白い展開になりそうだけど。
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yuka san
おお、その絵ですね。アメリカの絵、ってこういう乾いた衝撃のものが多いように思います。
nakano san
そうですねー。アメリカは階級社会ではあるんですが、生まれ育ちは殆ど関係ないですから。イギリスや日本と違って、成金でも全然OK、というのが特殊なところでしょうか。
Matsu san
記事によると、ボランティアを募って、親向けの学校からの配布物をスペイン語に翻訳したり、貧乏な子供が買えないようなものをみんなで揃えるときは先生が買ってあげたりと、いろいろと苦心してるみたいです。でも、子供って万国共通で残酷だから、やっぱり浮いちゃうと浮いちゃうんだろうなぁ、と思います。
「無料でブルジョア進学校に通わせてもらう感覚」は言い得て妙。自家用ジェット機でバケーションに行くクラスメートも居るという学校ですから。この辺の超リッチってとてつもなくお金持ちなので。少女漫画の「有閑倶楽部」みたいな感じでしょうねぇ。
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こっちの教育の実情を少し知るとすごく理解できる話ですね。
僕は現在東海岸に住んでいるのですが(東部の人間は引っ込めというご意見は勘弁してください)、こちらで生活すると人種よりもまずは経済力と社会的ステータスで、それによって人生の選択肢も交友範囲も決まってくるというのが実感できます。
バスで90分かけて子供を通わせる親の気持ちも大変理解できるのですが、果たしてこれで子供が将来親が望むような生活を送れるのかはかなり疑問ですね。
ブログを見る限りではクラブ活動もせず友達付き合いも限られている子供が社会性やコミュニケーション技術など社会的地位を得るのに必要なスキルを身につけられることは難しいのではと思ったからです。これらの部分は大人になってから思い立ってもすぐに改善できるものじゃないですからね。
僕もひしひしと実感していますが、こっちでマイノリティーの人間がアッパーミドルの仲間入りするのって本当に厳しい。学歴はもとよりお金、ほとんど訛りのない英語、軽快で気の利いた会話力、ネットワーク力、からかわれても平然と対処できる度胸などが揃っていないと仲間入りできないですから。
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