Estonia Genome Project

以前仕事で知り合った人から、転職の案内が来た。

エストニア人のゲノム情報データベースの独占利用権を持つEGeen Internationalという会社に移ったのだそうだ。といっても、Egeenの本社はシリコンバレーにあって、エストニアには支社があるだけ。知り合いはそのEgeenのBusiness DevelopmentのVPになったという。

エストニアは人口140万人の小国だが、歴史的に移民や侵攻が多いため、遺伝子が交じり合っていて、この国で得られた結果はヨーロッパ・北米に広く通用するのだそうだ。

エストニアでは、2000年12月に議会で正式に法律を制定、遺伝子情報を広く国民から集められる仕組みを整えたとのこと。Estonia Genome Projectのサイトを見ると、いったん集めたデータはコード化して個人とはリンクできないようにするとか、本人が希望したらゲノムデータバンクから永久にゲノムデータを消去するとか、いろいろなルールが書いてある。

このゲノム情報と、医師が診断した個々人の疾病情報をデータベース化、NPOであるEstonian Genome Project Foundationに集積する。ここまでは個人のプライバシーという問題こそあれ、まぁありかな、という感じだが、ここからがすごい。

このNPOとは別にEgeenという会社をシリコンバレーに設立、データのライセンスビジネスで儲けようというのである。ゲノムゲノムといわているが、ゲノムビジネスの肝は「コンテンツ」。遺伝子診断を高速で行うDNAチップは、半導体製造に似た技術でできるため、日本の総合電機企業なども手がけている。短期的には早い安い小さい、といった、「どうやって解析するか」も大事ではあるが、長期的な利益の源泉は「何を解析するのか」、つまりどの遺伝子がどの病気と関連あるのか、という方にあると考えられている。PCで言えば、ハードとOSみたいなものだ。ハードはどんどんコモディティー化するが、優れたソフトは長期にわたってマージンを確保できる。

一方、どの遺伝子がどの病気と関連するのかを割り出しただけでよいというものでもない。単に病気との関連だけではなく、その遺伝子を利用した診断・治療ができて初めて広く利用されるようになるからだ。

例えばハンチントン舞踏病という恐ろしい遺伝病がある。症状の一つが痙攣して踊るように見えることで「舞踏病」と呼ばれているが治療法はない。最後は痴呆状態になり死んでいく。病的遺伝子を持っていればほぼ100%発病するが、それが予めわかっても手の施しようはない。そんなの知りたくないではないか。

というわけで、
1)病気と遺伝子の関係がわかって
2)さらにその遺伝子を用いた治療が編み出される
という二つが必要なわけで、気が長い話ではあるが、実際2)で世に出る薬が出ればそのリターンは大きい。たとえでなくても、各種の製薬会社にリサーチユースで1)のデータベースをライセンスできる。しかも、エストニアでは国民は自分のデータが解析された結果に関しての所有権は持たない、と前述のホームページに書いてある。以前ある疾病者のグループが、自分たちの疾病に関する遺伝子情報の権利を主張したことがあったのだが、そういう事態を避けるためだろう。

・・・というようなことは頭ではわかっても、法律を制定してまで国民データを商用利用しようなんていうことはそうそうできるものではない。しかもその上、そのライセンス営業会社をシリコンバレーに作っちゃうセンス。。。

私は、エストニアと聞いても、Dilbertに出てくる、国家が全て沼に覆われたElboniaしか思い浮かばないという情けない状態にあるのだが、やるなぁエストニア。

DilbertのElbonia人

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