地球上で最もホットなベンチャーキャピタル

Technology ReviewのThe Hottest VC on the Planet。(タイトルは直訳。個人的には「最もホットな」というような大げさな表現はちょっと恥ずかしいですが。針小棒大、池を湖と呼ぶ、みたいな。)

GoogleとYahooという超大当たり2社に投資したベンチャーキャピタル、Sequoia CapitalMichael Moritzのインタビュー。

Googleが上場したら、Sequoiaのリターンは数千億円とも言われ、Michael Morits個人にもものすごい見返りがある。

Misson Impossibleとかその手の大掛かりな映画で、3ー40億円程度の金を強奪するために、信じられないような危険な橋を渡り、超人的プランを実行する犯罪者グループが出てくる。ホンモノそっくりの仮面をくっつけて他人に変装したり、飛行機から飛び降りたり、雪山の絶壁で綱渡りしたり、高層ビルを丸ごと占拠したり。

シリコンバレーにいると、その辺の金銭感覚が狂う。バブル期にな、な、なんと2億ドル、200億円以上を調達したBrienceというベンチャーがあったが、全然ダメで去年TSIという会社に買われてしまった。(内情を知る人の話によると、実際には、2億ドルのコミットはあったものの、1億ドルほど払い込まれたところで、投資家がそれ以上の資金投入をストップしたそうだが)。200億円ですよ。200億円。こういう話があちこちであるので、巨大犯罪映画を見ると、
「うーむ、こんな大変なことをするくらいだったら、真剣に嘘っぱちのビジネスプランを書いて、嘘っぱちのベストチームを構築して、VCから金を奪って逃げる方が簡単そうだ」
といつも思う。

もとい、Michael Moritsのインタビュー。

TR(インタビュアー): One happy man who has done Google and Yahoo!: it’s almost as if someone did Coke and Pepsi. Is it just dumb luck?

MM(Michael Morits): Yes.

TR: Jack Nicklaus used to say, “The more I practice, the luckier I get.”

MM: I don’t think so. A few years back I was bemoaning the fact that the venture business never seemed to get any easier, and I remember our founding partner here, Don Valentine, saying to me, “Well, why would you expect it to?”

TR: No learning curve?

MM: You’d think by now we would have figured out a way to avoid making mistakes, and we haven’t. The venture business is the ultimate humbling experience.

長年やってもいいベンチャーを見分ける術はないのである、ということ。いつまでたっても失敗をし続けるからベンチャーキャピタルは「ultimate humbling experience」だよ、と。

ちなみに文内に出てくるDon ValentineはSequoiaの創設者だが、Silicon Valleyベンチャーキャピタルの最も古株といわれる2人のうち一人。Apple, Oracle, EAなどのごく初期に投資している。もう一人はIntelに投資したArthur Rock。どちらも大学院時代に授業に来て話してくれた。Don Valentineの方は元気なオッサンであったが、Arthur Rockはかなり足元がふらついていた。

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ベンチャーとは、出だしからずば抜けていい会社があるのか?その輝きは最初から見える人には見えるのか?いい会社だったら失敗しないのか?

Michael MoritzはNoと言っている。どれだけ研鑽を重ねても見分けられるようにならないから「ultimate humbling experience」と。とはいうものの、人間極みに上れば上るほど、どんどん問題が見えてくるのは世の常で、Michael Moritzはプロ中のプロで、見る目はきちんとある。しかしやっぱり失敗するときは失敗する。彼はインタビューの中で
「今でも(自分が投資して、見事な大失敗に終わった)Webvanのことを思うと、偏頭痛がする」
と言っている。

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まだスタンフォードに通っていた頃、よく朝一で大学のコースでゴルフをした。(朝6時からハーフだけ回ると半額、というのがあって、8時過ぎには終わって、2時間目の授業からだったら楽勝で行ける)そのとき一度、ビジネススクールの80年代初頭の卒業生という人とたまたま一緒に回ったことがある。彼は事業を売ったので、しばらくバケーションを取っているのだそうだ。

彼のやっていたのはごくごく地味な地元の「コインランドリー屋」さん。だから
「こんな事業で大成功して大金持ちになるなんて、到底想像も付かなかった」
と。彼のクラスメートの中では、メキシコで大々的に通信事業者を始めた人が一番大成功するだろう、と誰もが思っていた、そうだ。しかし、たまたま全国規模のコインランドリー会社が上場することになり、上場前に規模を拡大するため、彼のローカルなコインランドリーチェーンを買収したい、と申し出てきて、相手企業の株を受け取る形で彼の会社を売却した。売却先のコインランドリーは無事上場、彼の受け取った株はめでたくホンモノのお金になった。一方、クラスメートのメキシコ通信事業は大失敗に終わった、と。

「まさか、ボクがこんなに成功するなんて、ほんとうに世の中はわからない」
と彼は、ちょっと途方にくれたように語っていた。

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シリコンバレーはメジャーリーグの野球にたとえられることもあるけれど、ちょっと違う。野球だったら能力さえあればまずは相当の成功が収められるはずだ。「不遇のピッチャー」みたいな人が話題になることもあるけれど、それはつまり
「これだけの能力があれば成功するはずなのに、だめだったのは、稀に見る不運な出来事」
とみんなが思うから話題になるわけで。

しかし、シリコンバレーは能力があって優秀なだけではどうにもならない。そんな人はゴロゴロいる。しかも、そういう人がさらに努力するのも当たり前。後は時の運。たまたまシスコで秘書をやっていて大成功する人もいれば、秀でた頭脳とアイデアを持っていてもモノにならない人もいる。

そういう意味では、野球よりむしろハリウッドの俳優稼業に似ている。しかし、ハリウッドとも違うのは、映画だったらどんなに大当たりしても端役には対してメリットは無いが、シリコンバレーは大成功した企業の正社員にはその隅々まで恩恵があること、でしょうか。

なおベンチャーキャピタルの最近の動向の総括としてはEconomist4月1日号のAfter the droughtはよくまとまっています。

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