ゴーストキッチン:モビリティ変革による土地利用の変化とレストラン事業の再構築

Photo by Jesús Terrés on Unsplash

トラビス・カラニックはUberに悪の帝国的カルチャーを作り出した人として有名である。

彼がまだUberのCEOだった頃、「いい人」で有名なAirbnb創業者のブライアン・チェスキーと定期的に会い、「世界中でかなり違法だが急成長しているシェアリングサービス」の創業仲間として情報交換、毎回会った後にカラニックは「もう少しうちの事業もマイルドにした方がいいかな」、チェスキーは「もう少しうちの事業も攻撃的にした方がいいかな」と周囲に漏らしていたという逸話をカラ・スウィッシャーが語っていたが、さもありなん。

そんなダースベーダー的カラニックが、これこれでUberから追放されたのが2017年。そしてソフトバンクにUber株の一部を$1.4B (14億ドル) で売却した後、現在に至るまで注力しているのがCloudKitchensという「ゴーストキッチン事業」のベンチャーである。バーチャルキッチン、ダークキッチンなどいろいろな名前で呼ばれるこの事業は、キッチンの施設・設備を提供、その場所を借りたレストランはオンラインでのみマーケティング、デリバリだけで営業するというもの。

CloudKitchensはカラニック本人が3億ドルを投下、さらに2019年の1月にはサウジのソブリンファンドから4億ドルを調達している。

サウジといえば、10兆円のビジョンファンドの半分近くを出したことでも知られ「孫正義はオイルマネーを吸い取るためのCIAのエージェント」と揶揄されたりするわけだが、現在同国の実質上の支配者と言われる34歳のムハンマド・ビン・サルマン(MbS)皇太子の強権ぶりは有名で、特にジャーナリストのジャマル・カショーギの殺害を指示したとして悪名高い。このサウジマネーを直接受け取る勇気があるアメリカのアントレプレナーはカラニックくらいでしょう。

さて、かように莫大な資金を持つCloudKitchensのゴーストキッチン事業は、「ライドシェアや自動運転などモビリティの変化による土地利用の変化」という時代背景のもとで「レストラン事業の分解と再構築」とを行うものでもある。

  • ライドシェアや自動運転などモビリティの変化による土地利用の変化

サンフランシスコ市内のホテルの駐車場はここ数年空車率が増えてダンピング的値付けが始まっていた。Covid-19でホテル需要が激減する以前からの話である。去年のブログで書いたように、普通に停めたら1日65ドルするホテルの駐車場が18ドルで使えたり。

一方、全米の空港の駐車場収入も減っていた。上述のブログより:

空港の駐車場を利用する人も減っている。2016年に全米の空港が徴収した駐車場代はなんとトータル40億ドル(4500億円)もあり、加えてレンタカー屋からも18億ドルを受け取っている。しかしこれがどんどん減って空港は困っている

アメリカ人の旅行は「自宅から空港まで自分の車で行って空港の駐車場に停め、到着地の空港でレンタカーを借りる」というのが従来の一般的な形態だった、しかし、UberやLyftなどライドシェアの急増で、駐車場が以前ほど必要なくなってきてしまったのである。

(もちろんレンタカー需要も減ってきており、Covid-19のあおりで倒産したレンタカー大手のHertzやAdvantageも、経営はそれ以前から苦しくなっていた)。

もちろんホテル以外の駐車場需要も減ってきている。

そして自動運転は「駐車場需要の不要化」を今後さらに推し進める。完全な自動運転の登場にはまだ時間がかかるが、配達用に特化したロボットはすでに稼働し始めている。

車社会のアメリカは、大人はほぼ1人1台の車所有、ただしそれぞれの車が稼働しているのは5%の時間だけ、という車も駐車場も無駄にたくさんあるモデルだったわけだが、ついにその壮大な無駄の時代の終わりが見え始めたのである。

  • レストラン事業の解体と再構築

一方それとは別に、レストランデリバリー事業は雨後の筍のようにベンチャーが誕生し激しい競争が繰り広げられたのち淘汰が進んだ。2014年にペイメントのSquareはCaviarというベンチャーを買収しレストランデリバリに進出しようとしたが、2019年にDoorDashに売却して撤退、AmazonもAmazon Restaurantsという名称のサービスを2015年に開始したが2019年に撤退した。

4月時点での全米のレストランデリバリ市場シェアはDoorDashが45%、GrubHubが23%、Uber Eatsが22%という3強時代となった。(LAだけは例外的にPostmatesが強いらしい。)

↑クレジットカード購買履歴を統合・分析する恐ろしいデータベンチャーSecond Measureより。デリバリ事業は3−4月に米国のあちこちでロックダウンが始まってからのものすごく売り上げが伸びている。

GrubHubは2014年にIPO、DoorDashは今年3月にIPO申請したところで、それぞれ去年の売り上げは13億ドル、9億ドル。昨年の途中でDoorDashのシェアがGrubHubを追い抜いたとされているが、このあたりはDoorDashが上場して情報開示されれば明らかになるはず。いずれにせよPostmatesを含めた4社で全米のレストランデリバリ市場のほぼ全てを占めており、さらに現在UberがGrubHub買収を画策中で、それが実現すれば一層の寡占化が進む「成熟市場」となりつつある。(ただしこの買収は独禁法で不成功に終わる可能性もある)。

さて、こうしてデリバリが増えたことで登場しているのが、店舗のないレストランであるところの「ゴーストキッチン」なのである。レストラン経営には不動産、インテリア、什器、厨房機器など高額な投資が必要だし、無駄のない食材の調達も小口で行うのは難しい。そうした「レストラン経営の大変なところ」を切り出して集約、一拠点で複数の「レストラン」が営業できるようにするもので、数年前からロンドン、ニューヨーク、さらにインドなどで登場しはじめている。

そして、従来駐車場として使われていた土地をゴーストキッチンにすれば、価値が薄れる不動産を高価値化することができて一石二鳥、という目論見の元、巨額の資金が投下された。

冒頭で書いたカラニックのCloudKitchensは、7億ドルの資金を元手に、米国だけでなくインド、中国、イギリスなど世界各国で都市圏の安い土地を100箇所以上買い集め、さらにロンドンのFoodStarsなど10社以上のゴーストキッチンベンチャーを買収している。

ゴーストキッチン事業の競合には、(またも)ソフトバンクが出資しているREEF Technologyもある。こちらも借入を含め10億ドルを調達して鋭意事業拡大中。元はParkJockeyというパーキングアプリのベンチャーだったが、REEF Technologyに名称変更、ソフトバンクや(またも中東の)アラブ首長国連邦のソブリンファンド(のVC部門)からの資金で駐車場管理会社を複数買収し、全米に4500箇所の駐車場を所有、そこにキッチンカーを置いてゴーストキッチン事業を始めた。

もう一社小ぶりながらKitchen Unitedというベンチャーもあり、CloudKitchensやREEFに比べれば小規模ながら4000万ドルを2019年に調達している。(アルファベットのGVも投資)。

さらにCovid-19の影響でレストランは席数を減らさなければならない国も多く、そうすると来店客だけで営業利益を保つのは難しそう。とするとさらにデリバリの重要性が増す。

ちなみにただいまベイエリアではレストランは店内での接客は禁止でデリバリオンリー。味で知られるレストランは高額注文もかなりあるようだが、立地や便利さだけが利点の凡庸なレストランはデリバリ注文はほとんどなく相当苦しいのではないかと噂されている。

マジですか、のサンマテオよしずみのテイクアウトプラ容器入り高額チラシ丼

以前Economist誌にこんな記事があった。

In hindsight two innovations have proved essential. The first was to separate the property business from the business of looking after guests. ….
Getting local owners to build and pay for hotels has let big hotel groups expand much faster. In the emerging world they can also outsource the murky work of developing land and dealing with officials and mafias.

”A short history of hotels” The Economist; Dec 21, 2013

「ホテル事業が世界的に現在の形に発展したのは、不動産をホテル運営から切り離したから」と。

同様に、ゴーストキッチンによって不動産から切り離されることで、レストランのあり方が今とは違う形に変貌していくのではないか、その一つとして、「空飛ぶフリーランス寿司屋」というモデルもあるのではないか、というのが前回のショートストーリー「スシ・レオン」の発想のもとになっているのでありました。

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