「成功」は「失敗」の逆ではない

幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある

トルストイのアンナ・カレーニナの出だしである。トルストイ、いいこと言った。

さて、何が言いたいかというと、失敗の逆は成功ではない、ということなのであった。ダメなところを片っ端からつぶしたからといってすごくうまくいくわけではない。

なんでこんなことを思ったかというと、「若者はこういうことをしてはいけない」的ブログを読んで、「ああ、こういうアドバイスって本当に役に立たなかったなぁ」と思ったので。「何かをしてはいけない」ことがわかっても、だからといって「なにをしたらいいか」がわかる訳ではないのである。

冒頭のアンナ・カレーニナの一文は、家族のみならず「うまくいくこと」と「失敗」にも当てはまるのではなかろうか。つまり

「成功の形は似ているが、失敗の形はいろいろ」

なのだ。

失敗のパターンは無限にあるが、成功パターンは限られる。失敗は一つの平面上にあるいろいろな向きのベクトルだが、成功は別の平面上にある、みたいな。

なので、無数の失敗と逆のことをしても成功に至らない。問題点を直しても成功に至らないのである。

シリコンバレー的成功した人には、むちゃくちゃな人が結構いる。その場限りの適当な思いつきを次から次に言って周囲を疲弊させるとかありがち。「人間としての問題点」を直したりしてない彼らを見てしみじみ、「問題改善より、突出した『何か』による一点突破が大事」と思うのでありました。(もちろん、人間的にすごく出来た人もいます。)

少し違う観点で、37signalsのJason FriedのReworkより引用:

Failure is not a prerequisite for success.  A Harvard Business School study found already-successful entrepreneurs are far more likely to succeed again (the success rate for their future companies is 34 percent). But entrepreneurs whose companies failed the first time had almost the same follow-on success rate as people starting a company for the first time: just 23 percent.  People who failed before have the same amount of success as people who have never tried at all.  Success is the experience that actually counts.

和訳するとこんな感じ:

失敗は成功の必要条件ではない。ハーバードビジネススクールの調査でも、既に成功したアントレプレナーは、もう一度成功する確率がずっと高いという結果が出ている。(そういう人が将来もう一度成功する確率は34%)。しかし、最初の会社で失敗したアントレプレナーが次の会社で成功する確率は、はじめて会社を立ち上げる人と同じで23%しかない。一度失敗した人の二回目の成功確率は、一度もトライしたことが無い人と同じなのだ。意味があるのは成功体験なのである。

一度失敗したからといって、将来の成功確率が上がる訳ではないと。失敗の形はいろいろだから、その一つの「してはいけないこと」を学んだからといって、成功できる訳ではないのです。

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一応、付け足しておくと、「失敗したら駄目」という話ではないです。Jason Friedの例も、比較対象は

A) トライして成功した人

B) トライして失敗した人

C) これからトライする人

の3種類で、A > B = C ということだが、これ以外に、

D) 全くトライなどしない人

というマジョリティーがいるわけで、それに比べれば、「失敗した人」の方がまだ挑戦できるだけグッド。つまり、

A > B = C > D

トライしなかったら成功確率ゼロだから。

また、データは「失敗しからといって、成功確率が下がるわけではない」とも読める。

失敗が失敗を呼ぶ訳ではなく、一度もトライしていない人と同じスタートラインに立っただけ。

結構心温まるデータでは無いでしょうか。

 

   

ちなみに、「アンナ・カレーニナ」面白いです。「エデンの東」の最初半分に匹敵する面白さ。主人公が延々と登場しないのを我慢すればあとはめくるめく展開。

 

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もうすぐ子音編も登場します↓

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「成功」は「失敗」の逆ではない」への9件のフィードバック

  1. 「失敗の逆は成功ではない」というのは早まった結論ではないでしょうか
    恐らく私含めた”むちゃくちゃな人”は、複数の失敗から複数の原因を推定し、それらを解決する仮説を打ちたて、それを試してみて成功に近いと感じれば調整を遠いと感じれば推定からやり直し、というプロセスを取っていることかと思います
    とすれば、一度の失敗では原因を推定しきれないので初回とさほど変わらず、Reworkの例の通りになるでしょう
    しかし、回数を重ねるにつれて確立は伸びるはずです
    また、最初に成功した人は”将来”34%なのに対し、失敗した人は”次の”23%なので比べ方も悪いかと思います
    ただし、「初回から成功する人が居ること」によって「成功したならば必ず失敗していると限らない」という事が導かれるので「失敗は成功の必要条件ではない」は論理的に正しいでしょう

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  2. 言い忘れましたが
    その場限りの適当な思いつきを次から次に言う事を「人間としての問題点」とするのは「無条件に直すべき間違っている事柄」というレッテル張りであり、
    ましてやそれを根拠に「成功に至るかどうか」を語るのは対人論証になっているのではないかと
    そう受け取れてしまうため、できればもう少し説明を加えるべきだと私は思います

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  3. 成功の体験は、人を積極的にするのでしょうね。
    人間にとって成功したと言うイメージは大きいのかもしれません。
    ただ・・・一度成功して次の段階で失敗してしまった人などについても詳しく調べると面白い結果が分かるかもしれません。
    成功した事による資金的余裕、環境の変化(コネクション)などが
    次の事業の成功にどう影響してくるのか?
    面白そうですね。
    アメリカは日本と言う国と違って一度失敗した債務の返済を免除される様ですが、そういった企業を促す環境も必要なのかもしれません。

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  4. chikaです
    >決着
    リンク先見ました。普通ビザとれねーよ、は正しいんですが、私は、「だからお前はあきらめろ」とは言わないです。やってみたい人は全員トライしてみればいいと思います。ビザ難関国のアメリカでも、「アメリカ国籍の人と結婚する」という裏技でどんなニートでも就労ビザとれるしw 時々、日本で生活してるごく普通の人なのに、実はアメリカ生まれでアメリカ国籍持っているという珍しい人もいますので、そういう人と結婚すれば英語一言も出来なくてもビザとれる!取ってどうするかまでは責任もてないけど。
    ちなみに、タイはお寺の檀家になると国籍とれるって聞いたことがあるんですけどさすがに嘘?
    >回数を重ねるにつれて確立は伸びるはずです
    データプリーズ!
    >一度失敗した債務の返済を免除される
    アメリカでも返すべき借金は免除されませんです。出資だと返さなくてよいのは日米一緒のはず・・・。

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  5. 成功と失敗の関係。ま、ハーバードの先生が言ってることが何でも正しいということは、ないだろうけど、面白いテーマですね。
    私は、成功した人の強みは、成功しているときの身体感覚を知っていることだと思います。成功しているときのの「ノリ」のようなものを知っていて、自分がそのノリに乗っているかどうか、プロジェクトの早いうちに判断できる。そうすると時間・エネルギーを成功しそうなプロジェクトに集中することになり、成功率が上がる。
    でも「失敗は成功の母」というのも、真実だと思います。たとえば法律問題。起業するときに関係ある法律について、大きな勘違いをしていて、その他の条件的には成功したのに、そこで足をすくわれてしまう。そういう人が次の起業をするときは、同じ問題でまた失敗しないよう、気をつける必要はありますよね。
    たぶん本当に大きな成功をする人というのは、自分の過去の成功と失敗と両方から学んでいる人なのでは、と思います。

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  6. ドラッカーの『傍観者の時代』にあった次の一節を思いだしました。
    「私はその時突然、正しい方式は、少なくとも自分にとって正しい方式は、効果のあるもの、業績をあげている人たちを探し求めることだということに気づいた。少なくとも自分に関する限り、失敗から学ぶことはやめようと思った-成功から学ばなければならないのだ、と。・・・ 「神は、誰とても考え得る限りのあやまちを犯す可能性があるものとして人間を創られた。他人のあやまちから学ぼうとしてはならない。他人の良き行いから学べ。」(訳書 117-8頁)

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  7. マジレスありがとうございます。
    May氏は「もともと無理な人を煽って海外行かすのは無責任」という立場のようですが、証拠という意味では、ムリ目の人がうまくいった例もあるだろうし、安易に行ってヒドイ目を見たひともいるだろうし、難しいところですね。数値化もできるかもしれないけど、どう解釈するかもいろいろですし。
    ちぢこまって様子見の人が多い時代だから、死なない程度に煽るくらいでちょうどいいのかなとは思いますが。

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  8. chikaです
    さらにマジレスすると、
    >無理な人を煽って海外行かす
    ビザが取れなければその国で合法的に滞在することは出来ませんので、どんなに煽られても行けない人は行けません。先進国はどこもそうだと思いますが、特にアメリカの就労ビザを取るのはとても大変です。なので、ビザが取れる時点ですでに「無理な人」ではないのでは。

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