キャリア構築における自分のMVP化の重要性

ここでのMVPとはminimum viable product。「市場のフィードバックを受けるために必要な最低限の機能を持った製品」のこと。「最近のウェブ系のスタートアップではMVPを市場に出すのが大事」、というような文脈で使われる。

「MVP」は、スーパーなスポーツ選手のためのmost valuable playerという方が一般的。でも、そうじゃなくて、「最低限取り敢えずバージョン製品」のこと。

で、人間もキャリア形成においてMVPで世に出ることが大事だよなぁ、とそういう話。

さて、minimum viable productとはなにか。

Venture Hacksというサイトがある。アントレプレナーであり、投資家であり、ベンチャー企業のアドバイザーでもある二人がやっている。起業に関する対談ビデオ(音声のみもある)と、その全文テキストが連載されているので英語の勉強にもなります。で、そのひとつが起業シーンで著名なEric Riesのインタビューで、彼がMVPについて語っている

製品を市場に出す時にやってしまいがちなこととして「フルフィーチャーの製品を作りこんでから市場に出す」というのがある、とまず語る。

One approach to solving that problem would be, let’s build a product
with the maximum number of features that will maximize our chance of
success in the end. But the problem with that is you won’t get any
feedback until you’ve already built all those different products.

All those different features, so you ship this product with a ton of
features, and generally, by the time it’s done, it’s too late to make
sure that you are on the right track.

しかし、そうすると、市場のニーズの読みが間違っていたときに、修正が効かないくらい遠いところに来てしまっている、という問題があると。そしてその代わりになるのがMVP。MVPの利点は

The minimum viable product is that product which has just those
features and no more that allows you to ship a product that early
adopters see and, at least some of whom resonate with, pay you money
for, and start to give you feedback on.

想定される問題を解決する機能の最低限の骨格だけをもった製品を出すことで、限られた数でいいからアーリーアダプターに受け入れられ、彼らからフィードバックを受けることで、正しい方向に製品を作っていくことができる、と。

で、実はMVPに似て非なるもの、もあって、それは「一般受けする製品を出し、それに対するお客様のフィードバックを全て受け入れて、改善版を次々にリリースし続けること」。「カイゼン」で手一杯になって、自分のビジョンを見失ってしまう。

これとMVPの違いは微妙ではあるのだが、私が解釈するに、MVPは、「革新的なビジョンに基づき、コア機能だけを持った製品」のこと。だから、細かいフィーチャーにうるさい「一般ピープル顧客」ではなく、先鋭的な「アーリーアダプター顧客」が寄ってくる。そして、その人達はアントレプレナー同様のビジョンがあるので、瑣末なことではなく、鍵となる方向性を示唆してくれる。

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この考え方って、キャリアにも適用できるよねー、と思ったのであった。

つまり、えてしてやってしまいがちな過ちとして

  • 準備万端整ってから次のステップに行こうとする

「英語が身についてから留学」とか、「資格を身につけてから転職」とか。準備が結局整わなくて終わってしまうことも多い。

時は金なり。若ければ若いほど挑戦は楽。

たとえば、留学だったら、「留学先に受け入れてもらえる最低限の英語力」さえ身につければそれでよろしいのです。行ってから泣きながら何とかするので全然問題なし。なお、TOEICは意味なし。(別にTOEICが難しいわけではなく、あれは、日本人が日本国内向けに企画したテストなので。こちらとかこちら参照)。

「資格」も、あっても転職に役に立たないものが多い。

つまり、やったこともない「次のステップ」に必要なことなど、なかなかわからないことも多い。わからないことを万端にすると、誰にも必要とされないあさっての方向に行ってしまっているリスクが大きいのでした。

  • 周囲のアドバイスを何もかも真摯に受け止める

周りの人は、その人のわかる範囲でしか世界を見ていない。当たり前ですが。あなたの考える「次なるステップ」では、その手前である「今」の周囲の人のアドバイスは無駄になるものも多い。いちいち聞いてたらそれだけで疲弊して終わる。

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そして、あるべき姿であるところの、「キャリア構築における自分のMVP化」とは

  • とりあえず最低限なんとかなればいいや、で新たなステップに進む

もちろん、実際には難しいです。「最低限できる人」より「すごくできる人」の方がニーズが高いのは当然。しかし、何かの理由でたまたまチャンスがやってくることはある。(知り合いがたまたま求人してた、とか、旅行先で「じゃ働いてみたら」と言われたり、とかいろいろ)。そういう時に「私にはまだ早いから」とかワケ分からんことを言わずにさくっとつかむ。

海外で働いてみたいのだったら、(必要ない)TOEICの勉強をするより、まずは実際に転職先を探してみて、情報収集して応募してみるとか。国を選ばなければ、どこかしらはあると思う。個人的には「留学してから就職」をお勧めしますが、いきなり就職だって可能でしょう。そしてその新たな場で「あれー、くるくるくる」などと翻弄されながら身につけられるものは、今のまま身につけられるものの何倍もあるはず。

MVPで次のステップに自分を強引に押し出せば、意外に何とかなるだけでなく成長曲線のカーブも急になる。そしてそれがとっても大事なことなのです。

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おっと、昔キャリアチェンジにおいて一般的に信じられているが、実はしてはいけない3つのこと、などという似たようなエントリーも書いたな。同じことを手を変え品を変え書いてるだけではないか、自分・・・・。笑

キャリア構築における自分のMVP化の重要性」への8件のフィードバック

  1. >行ってから泣きながら何とかするので全然問題なし。
    ハハハ、そうですね。私も沢山泣きました。応募書類をそろえるのって、時間かかるけど、その過程で学ぶことって沢山ありますね。とにかく出してみて、ダメだったら、「あ、やっぱりこの弱点を補強しなくちゃダメなんだな。」とか考える方が効率よいでしょう。あと、同じノーでも(あるいは完全ではないイエスでも)、そういってくる担当者・担当教官の言い方の違いで、ウェッブサイト等からは分からない相手方の事情が分かったりして、勉強になると思います。
    > 周囲のアドヴァイス
    私は周囲のアドヴァイス、聞くことは良いと思います。ただ聞くんだったら、相手のタイプを見分けながら、聞くというかんじでしょうか。そういう意味では悲観的過ぎる人も、楽観的過ぎる人もダメで、バランス感覚のある人に現状と未来の可能性を分析してもらう感じ? ま、そういう人、沢山いないから、結局、千賀さんの言うとおり、周囲のアドヴァイス、真摯に受けてもしょうがない、っていうことになるのでしょうが。
    >何かの理由でたまたまチャンスがやってくることはある。
    というか、たまたまチャンスをくれた人を、信じるかどうかでしょう。つまり「こんな人が、私を雇いたい、って言ってくれるんだから、私には何か自分でも気がつかない価値があるのかもしれない。」と思うか、「全く準備のない今の私を雇いたい、ってこの人、人を見る目が無いか、よっぽど割の合わない仕事なんだろう」と思うか。この辺の判断は最終的には個人の勘と責任で決めるしかないですねー。

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  2. いつも楽しく拝見しております。
    TOEICの事情も併せつつ知らないって怖いなぁと思いましたよ。
    MVPについても、自分のキャリア形成がまさにその通りにやっていたなと感じています。そのお陰で独立後4年間不満も無く徐々にお客さんが増えているんだな~と認識できました。
    コミュニケーションやリーダーシップの研修を生業としております。コミュニケーションやリーダーシップで悩む人や伸びにくい人はこのMVP的な考えがあまり無い人かもなと思う節もありますね~。

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  3. リンク先とかも併せて読んで、かなり心配になったんですけど、独身で全くのパートナー候補なしで渡米(あるいはどこか海外脱出)した場合、それなりにちゃんとした(何がちゃんとか不明ですが)結婚てできるものでしょうか?
    日本人との出会いはほぼムリ?
    親密になれるほど英語を使いこなせるようになるかなあ…。
    いやむしろ、その後、心安らげるほどコミュニケーションとれるようになるでしょうか…。
    プライベートな部分でもminimum viableなレベルってあるんでしょうかね。

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  4. Chikaさん、遅まきながら明けましておめでとうございます。
    今回の内容が自分の現状とかぶっていてフフフと忍び笑いしてしまいました。
    昨年派遣切りに遭遇し、就職先が見つからずもがいていた所にふと湧いて出たチャンスを、最低限の装備で「私にはやれる自信がある」とがっとつかんだ所なのです(国内の企業ですが)。
    それからTOEIC!漢検と変わらないじゃないか・・・申し込んじゃったから受けるけども。
    なせばなる、なさねば成らぬ何事も。ですよね?
    くるくる揉まれてきまーす笑。

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  5. 平易で本質をつかんだ文章で説明してくださるので、いつもいい刺激をもらっています。今回のmvpの話は「慎重」の名の下にぐずぐずしがちな自分にとってカツが入りました。結局出し手と受け手双方に利益が多そうなところに、それで行ってみようかな、と背中を押される思いです!

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  6. 千賀さん、明けましておめでとうございます。
    MVPという言葉、自分は知らなかったのですが、本当にキャリアにも当てはまりますね!
    (Nxxxs Oxxと、GXを手にとりつつ、感慨深く読ませていただきました。)

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