アメリカのセーフティーネット

クリスマスと言えばalms for the poor(慈善活動)・・・ってことで、今日はアメリカのセーフティーネットについて。さて、次の数字はなんでしょう?

  • 7人にひとり(もうすぐ5人にひとり)
  • 8人にひとり
  • 4人にひとり

答え:

  • 7人にひとり(もうすぐ5人にひとり):低所得者向けに政府が提供する健康保険、Medicaidでカバーされている人。

こちらの政府資料(pdf)の23ページにある通り、国民の14.1%。さらに、通ったばかりの新ヘルスケア法案で、新たに1500万人(5%)がカバーされることになる。

これ以外に、65歳以上の人は全員Medicareという政府の健康保険が全員にある。これでカバーされる人が全体の14.3%。さらに軍人・元軍人向けの健康保険があり、これが3.8%カバー。トータルでは29%が政府の保険でカバーされる。(新法案前で)。足し算があわないのは、ひとりで複数の保険の対象になる人がいるから。

というわけで、別にアメリカも「貧乏人は死ね」といっている訳ではない。というか、かなり盛大に弱者はカバーされている。無保険で困っているのはこの上の、7人中下から2−3人目くらいの、いわゆるワーキングプア層。今回の法案で救済されるのはその辺の人たちとなる。

  • 8人にひとり

政府の食費補助を受ける人の割合

  • 4人にひとり

政府の食費補助を受ける子供の割合。

どちらもとんでもなく多いが、これは今が不景気だから。

食費補助は、これを持っていくと食料品が買える、というもの。元はFood Stampという名称だったが、Bush(息子)政権下で、Supplemental Nutrition Assistance(栄養補助、ですな)と名前を変えた。(でも、一般ではまだFood Stampという呼称が普通)。90年代には「こんな福祉はやめにしろ」という動きもあったのだが、それを覆し、「福祉ではない。栄養補助だ」として、広く必要な人が使えるように整備された。Bushも少しはいいことするじゃん。

今はクレジットカード風で、周りの人に「Food Stamp」を使っているとはわからないらしい。生活補助とは別。食費補助が必要な人の3人に二人はこのプログラムを使っているそうだ。最近では、さらに一歩進めて、

「せっかくの栄養補助なのだから、ジャンクフードではなく、栄養価の高い野菜や果物をプッシュすべきではないか」

という動きもある。(こんな記事とか、こんなラジオ番組とか。)

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これ以外に、民間の慈善活動が異常にさかん。

こちらにある通り、アメリカの家庭の7−8割が寄付をし、その寄付金額は家計平均1000ドル超。3分の1は宗教関係だが、残りはそれ以外であります。「税金控除があるから」という理由だけではないようで、実際、寄付の税金控除を申告するのは3分の1しかいない、と。

お金以外に自分の時間を提供するボランティアも、これまた異常にさかん。「お金+時間」で、たとえば無償で炊き出し、というのが毎日あちこちで行われている。だからホームレスでも食べ物にはあまり困らない。

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というわけで、アメリカ型の競争社会を国家として継続させていくためには、セーフティーネットもこれくらい盛大にないといけないのでありました。

アメリカのセーフティーネット」への18件のフィードバック

  1. 私はStanfordのPh.D.の学生です。RAをもらっていますが、妻子もちには不十分。なので、Low incomeの子供用健康保険、Second Harvestでの食糧配給などをいただいています。食糧配給は月1回でかなりの量を受け取ることができます。ミルクに缶詰、野菜にトルティーアにシリアル。大体ダンボール箱で4箱くらいなぁ。もらうようになってから、根菜、ミルク、シリアルはほとんど買わなくてもOK。また、このシーズンは丸鳥をもらえたりとか。旨く食べないと、次の配給までに食べきれないほどもらえます。
    こちらに来てLow Income Familyに対する補助がいろいろあって、非常に驚いて、いやいや助かっています。
    ただ、景気の悪化もあってか、時間とともに食糧配給に並ぶ人が増えている感じはします。が、うまくやれば、食料品はほとんどこれでまかなえる。すごい補助だと思います。日本の生活保護って、どんな感じでしたっけ?

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  2. アメリカって国民に優しいんだが、厳しいんだかよくわかりませんね。
    ボランティアは日本より充実してるような気がしますが。
    今回のエントリー面白かったです。
    ブッシュがフードスタンプという名称を変更したのも知りませんでした。

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  3. >Medicaid
    medicaid の経営状態ってどんな感じなんでしょうか?
    経営状態が悪いために、費用の支払い率が悪くて、medicaidの加入者だとわかると病院から診療を拒否されることがあるという話を、以前に聞いたことがあります。
    病院が公立か私立かによっても違うのかもしれませんが。

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  4. >日本の生活保護って、どんな感じでしたっけ?
    リーマンショックで派遣切りくらってから失業生活が長いですが、何ももらっていませんよ。地方税が安くなったくらいかなー。4半期で千円。全然嬉しくねえ。
    昨日今日も、ブログとかで
    「会社からのクリスマスプレゼントは解雇通知でした」
    みたいなのを見てますけど、日本は本当にお先真っ暗ですねえ。
    だからこそ少子化も進むわけです。
    私は結婚できなかった口だけど、最低限、子供の食費くらいは全く心配しないで子作りくらいできるようになるべきだとは思います。

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  5. BLOGOSから来ました。
    解答を見ずに予想してみました。
    7人にひとり(もうすぐ5人にひとり)が年金受給者、8人にひとりが生活保護受給者、4人にひとりがMedicaid+Medicareと予想しました。
    自信があったのは4人に一人だったのですが(結果的にこれだけは合ってたが)ややピントが外れた模様。
    いずれにしてもアメリカの福祉は充実していますね。
    ちなみに国民一人あたりに換算した医療費の政府支出は、日本の一人あたりの医療費支出(保険+本人負担)と殆ど同じ。
    国民皆保険のはずの日本で、保険から支出する額が完全に負けているのが面白いところです。

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  6. >アメリカって国民に優しいんだが、厳しいんだかよくわかりませんね。
    「金の卵を産むガチョウを殺すな」ってことでは?
    国民にはせいぜい働いて、子供を産んで、育ててもらわないと、国が滅びますから。
    日本の場合は、今日の夕食のためにガチョウを殺すようなものです。
    それで、後になって「少子高齢化だ」「年金破綻だ」「医療崩壊だ」と叫ぶんだけど、それってもう20年以上前から分かってたことだよねと。鞭と鞭では頑張ったら負け。

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  7. chikaです。
    >Second Harvest
    (ご存知のない方のため、これは民間の食料補助NPOです。)数年前に、Thanksgivingで「海外から来てる人は、七面鳥よりチキンをほしがるので、皆さんチキンを寄付してください」というのが新聞記事になってました。Second Harvestに限らず、外国人でもちゃんとサポートしてくれるのには、移民国家アメリカという国の成り立ちというか、どうやって国富を目指すかという覚悟みたいなのを感じます。
    >medicaid の経営状態
    Medicareが基本国家財政なのに、Medicaidは州財政・・なので、州によってはかなり悲惨です。カリフォルニアはかなりやばい。(が、このやばい理由は、個別の医療費を、民間以上にジャブジャブに払っているからの模様なのですが)。Medicaidでは見てもらえない病院があるのは本当です。ただし、大学病院のクリニックとか、公立病院は必ず見てもらえるはず。ただ、民間保険でも、例えばHMOという種類の保険に入っていると、私の家の周りでは見てもらえる所はとても限られますのでMedicaidの人たちだけが割を食っているわけでもなかったりします。
    >全然嬉しくねえ。
    アメリカは、食べ物だけは困ることはないです。やせ細ったホームレス見たことないし。。。。
    >保険から支出する額が完全に負けている
    いや、それはアメリカ的には、「アメリカが完全に負けている」という判断になってます。「元気でいきられる寿命」を成果指標として、あまりにアメリカの医療はコストがかかりすぎると。アメリカの医療はまじで間違っています。過去になんどか書いたことがあるので、ご興味があれば私のブログを「医療」で検索してみてください。
    >20年以上前から分かってた
    そういう意味では、20年先もわかってるので、今はどうやって優秀な移民を大量に受け入れるかを真剣に推進するしかないんと思うんですけどねぇ・・・・。
    >米国のがよほど友愛
    ビジネスでは、変な補助・おせっかいな統制をせずに猛烈にしのぎを削らせて、それ以外のところではなるべく助けあおうぜ、っていうのがアメリカという国のバランスです。

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  8. まさに「市民宗教」ですね。
    逆説的にいうと、NPOによる支援を含むこういった社会的なセーフティネットが、戦後日本においては「企業」によって担われていた(企業が中間集団としての機能を果たしていた)ところに日本の難しさがあるのでしょう。
    「企業城下町」としてのデトロイトやGMではないですが、グローバル化の進展によって、米国であってもそういった類の中間集団は維持できなくなっているということだと思います。
    ということは、日本社会において「アメリカ的なるもの」を進めてしまうと、社会の底が抜けてしまうということになるのかな、と。社会的なセーフティネットをどのように張るかというのも、日本においては必要なのかもしれません。
    ちなみに、Second Harvestは日本にもありますよね。
    http://www.secondharvestjapan.org/index.php/jpn_home

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  9. 連投ごめんなさい。一応バランスのために下記リンク先を紹介させてください。まあ「シッコ」はマイケル・ムーアなのでそのあたりは斟酌して受け取る必要があると思いますけど、一面の事実を表していることは確かだと思います。
    ・社会実情データ図録「OECD諸国の医療費対GDP費(2007年)」
    http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1890.html
    ・Wikipedia「シッコ」
    http://twurl.nl/2t8p27

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  10. chikaです
    >「企業」によって担われていた
    でも、バブルの絶頂の日本でも、終身雇用の人って確か就業人口の四割もいなかったと記憶してるんですが。
    あと、「医療の崩壊」と、「弱者の救済」は違う話しです。
    Sicko、見てないんですが(マイケル・ムーアだからw)、私の理解する限り主に無保険の人がどう扱われてるか、という話が多いんじゃないかと思うのですがどうでしょう。
    「無保険の人がひどい扱いを受けている」
    と聞くと、
    「社会の最下層の人がひどい扱いを受けている」
    と取りがちですが、そうじゃなくて、
    「これだけ医療費がバカ高いアメリカでも、社会の最下層14%は、無料で医療が受けられる」
    というところがポイントです。
    今辛い思いをしてる無保険は、その上の層。(もうすぐ救済されるようですが)。
    もちろん、Medicaidは万能ではありませんが、それでも無保険よりずーっとましです。Medicaidや無保険の患者が主に行く公立病院も仕事でなんどか行ったことがありますが、かなりキレイで設備も整ってましたです。はい。特に年をとると、Medicareは必ずもらえ、さらにアセットがなければMedicaidもついてくるので、「月60万円」なんていう医療までトータルケアしてくれる老人ホームに入れたりします。
    ちなみにアメリカの医療崩壊に関しては、どっちかというと、下記のエントリーへのコメントでいただけると嬉しいです。
    「健康保険を民営化してはいけない」
    http://www.chikawatanabe.com/blog/2006/02/post_7.html

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  11. レスありがとうございます。
    「医療」の問題と「セーフティネット」の問題は分けて考えるべき、というのは仰るとおりだと思います。
    あと、「社会的セーフティネット」というのは、(たぶん)最近自民党がいっている「共助」という概念に近いもので、例えばSecond HarvestのようなNPOによる(経済的にまわる)社会的支援のネットワークや地縁・血縁・宗教などによる共同体性のことです。
    ご指摘の「終身雇用」というシステムだけでなく、企業や学校という共同体が上記のようなある種の包摂性を担っていた、ということは間違いないと(個人的には)思います。これに代替できるものができていない、というのが個人的な問題意識です。答えはありませんが。

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  12. chikaです。
    Second HarvestはNPOですが、Food Stampは政府支援です。確かにアメリカのNPOは盛んですが、政府の弱者支援も非常に厚いです。
    私の考える限り「答え」は簡単で、政府が、税金を使って、弱者を思いっきり救済するしかないと思うのですが。そもそも、慈善の概念の薄い日本国においては、「市民宗教」「共同体性」といった抽象概念を育成してる暇はないと思うのですが。(それこそ20年かかるでしょう)。

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  13. 社会学を専攻している友人が昔言っていた名言。「普通、家族制度がしっかりしている国は、国家の社会福祉政策がダメ。家族制度が弱い国は、国家の社会福祉政策が進んでいる。アメリカは家族制度も、社会福祉も弱くて、セーフティ・ネットが無い。何であれで社会が成立するの?って思う。」でも、千賀さんの文章を見て、そうだ、確かにMedicaidはあるなーと思いました。あと、確かに教会とかのチャリティーとか、家族でも国家でもない第三ファクターが力を発揮している感じはしますね。
    ちなみに、あまり社会福祉論のときは普通話しに出てこないけど、アメリカの場合、貧困層と軍隊の関係って、重要だと思います。少なくとも、中西部の大学教師していると、「ウチは貧乏だから、軍隊に登録して、軍隊から学費払ってもらってる。」とか、「先生、もうダメ。お金も全然どうにもならないし、いったん学校やめて、軍隊は入って、そっち経由で学歴も何とかする。」っていう話、男の子だけじゃなくて、女の子からも時々聞く。「えー、だって、軍隊入ったら、死んじゃうかもしれないんだよ。」とか言っても、まず効果は無い。こうやって軍隊に入った若者は、統計上、貧困層扱いとかされないだろうけど、何かこういう形で軍隊に入るしかないように追い込まれていく社会って、変な気が私はします。
    それにしても今回上院を通ったhealth care案は、早速反対運動とか起きてるみたい。下院を通った案と、上院を通ったのとがあまりに違うから、これからその調整をするんだって聞いたけど、どうなるんでしょうねー

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  14. セーフティネットではなく貧困層が出ない社会を、
    構築しなければならないと思います。
    完全にガス抜きされていますね。

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  15. >そういう意味では、20年先もわかってるので、今はどうやって優秀な移民を大量に受け入れるかを真剣に推進するしかないんと思うんですけどねぇ・・・・。
    そのためには、まずは優秀であれば若い外国人でも昇進できるように、能力ベースの給与や評価制度を用意しなければならないでしょう。外国人と転職者は昇進できないような差別(こういう昇進時の見えない障壁を”glass ceiling”って言うんでしたっけ?)が公然とあるような、人種差別主義国家に一体誰が来てくれるというのやら。
    ホワイトカラーエグゼンプションの時もそうでしたが、経団連が年収400万円の人の残業手当カットに使おうとしたためにWEの理念をねじ曲げた偽装WEでした。ちょっと前にト○タとかが騒いでいた移民にしても、同様にいわゆる「社畜」目当ての「名ばかり移民」でした。
    私は、優秀な移民を受け入れるのであれば賛成しますが、現状ではトヨタにしてもJALにしても(その他のほとんどの日本の大企業も含め)、下請け苛めでなんとか逃げ切ろうとする老害の巣窟ですからねえ。今の段階で”glass ceiling”を撤廃して、優秀な移民の人達をスカウトするなんて方針転換は彼らには『絶対に』無理でしょう。
    本当は米国が不景気で人材がだぶついていて、しかもドルが弱いおかげで円がけっこう強い今こそ、スカウトするチャンスでしょうにね。まったく馬鹿な話です。

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  16. >私の考える限り「答え」は簡単で、政府が、税金を使って、弱者を思いっきり救済するしかないと思うのですが。
    それを実現したのが戦後からカーター政権までのアメリカ。
    結果はセーフティーネットにぶらさがる人間が増えて、政府支出が増大。それを補うために増税。増税に対応するために企業は海外移転やリストラを断行。そのおかげでセーフティーネットにぶらさがる人間がさらに増えて、雇用を守るために企業への補助金を大判ぶるいまいしたら政府支出が増大、それを補うためにさらに増税・・・という悪循環が始まり、アメリカの製造業は崩壊しました。
    それを改革したのがレーガン政権。
    社会福祉・企業補助金の削減、大減税でようやく経済が復活できました。
    オバマ政権も鳩山政権もカーター政権と同じ道を歩んでいるようですね。

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  17. chikaです
    >戦後からカーター政権までのアメリカ。
    政策というのは、「絶対の正解」というものはなくて、その時々で、状況に応じてできる最大のことをやっていかないといけないのだ、と思います。妥協、triage、トライアンドエラーなどなども含め。
    ここ2年間のアメリカは、世界を巻き込んだ大恐慌の淵にあったわけで、その状況と、レーガンが直面した状況は違う。だから、今レーガンがやったことをやっても上手くいかないと思います。
    そういえば、前こんなエントリーも書きました。そもそもほるさん的な方にはクルーグマンは相容れなさそうですが・・・http://www.chikawatanabe.com/blog/2008/02/the-conscience.html

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