アメリカで事業を始めるシリーズ。昨日「アメリカで優秀なexecutiveを雇うためにはゴール設定が大事」と書いたが、ここで設定した「ゴール」を、アメリカ人は本当に文字通り受け取るので要注意という話し。
昨日のエントリーにこのようなコメントを頂いた。
米国と日本ではゴールの重みが違いますよね。米国では、一旦コミットしたらもうそれに向かって一直線というか。ゴールの達成のためなら、組織やマーケティ
ング戦略などの変更も大胆に打っていく。下手にチャレンジングな目標を与えると、大きなリスクを抱えた運営になりがちです。また、逆にゴールに含まれてい
ない指標は悪くなってしまってもあまりケアされない。おそらく、多くの日本人のマネジメント層は、このゴール設定の重要さに気付いていないのではないかと
思います。
これ、日米間のビジネスで随所に出てくるんですよねぇ。
つまり
「日本側はあくまで『イメージ』として語ったことを、アメリカ側は額面通り受け取ってしまう」
という問題です。
例えば、
「2015年に売上150憶円を目指す」
とか。日本では「・・・という位の気概で挑む」というのが実は言外にあることが多い。つまり、本当に言いたいのは
「2015年に売上150憶円を目指す(という位の気概で挑む)」
ってことだったりするのですね。(すべての会社でそうだ、とは言わないが。)
しかし、これを聞いたアメリカのexecutiveは
「そうか、150憶円か。我々が2010年目に自社で売れるのはマックス3億。2015年に150憶円ということは、自社だけでやるなら毎年220%成長か。では、そのペースでセールス部隊を作らないとならないから、今年だけで40人雇って、3年後には300人のセールス部隊を構築だ。」
とか
「自社だけでオーガニックに成長できるのは毎年50%が限界。すると2015年の売上は20憶円にしかならない。よし、残りの130億円は買収するぞ。」
などと真面目に考えてしまうのです。
で、それを実行に移そうとすると日本側は
「えっ、いや、別にそんなつもりでは。その辺はまぁ適当にもうちょっと穏当に」
とかなってしまったり。
それ以外でも、例えば会議で、ドラスティックな案をアメリカ側から提示され、日本側はそんなのありえないと思っても、まぁどうせそんなドラスティックなこと起こるはずもないし、とたかをくくり、むげに断るのも大人気ないし、と
「そういうのもあるかもしれないね」
とか「空気を読んで」流したつもりが、相手は「自分の提案が聞き入れられた」と誤解してしまったり。
で、しばらくたって誤解だったことが判明すると、アメリカ側は
「どうしてこの人たちは、こんな大事なビジネスの決断の場で嘘をつくのだろう?」
と驚愕し、落胆するのでした。
+++
この辺は、本当に文化的なもので、「日本人はいつでも嘘つき」というわけではない。もちろん。
ビジネス関連であっても、例えば製品のリリース予定などでは、アメリカの会社の言うことは、日本人から見ると嘘ばっかり。アメリカの開発元は、できもしない機能を、できもしない期日でリリースするという予定を発表、それを信じて日本の代理店が顧客に売り込んでトラブルになって・・・・・みたいなことは、そういう仕事をされている方は皆さんご経験があると思います。
アメリカの会社からすれば、
「そんなぁ、予定は未定。ただの努力目標。真面目に信じたの?」
とびっくり、日本側は
「だってできるって言ったじゃない?嘘つき!」
と不信感で一杯になる。
というわけで、このあたりの判断は、本当に文化的な背景を知らないと難しい。
+++
・・・のではありますが、こと「社内の戦略実行」に関しては、アメリカ人は「軍人」だと思った方がいい。上層部からの命令は問答無用で遂行するのが軍人なわけですが、もう本当になりふり構わずゴールに突っ走るのがアメリカのexecutive。
なので、ゴール設定は
- 本当に実現出来ること
にして、かつ
- ゴール達成の過程において、すべきこと、してはいけないこと
も明確にしておかないとなりませぬ。とにかく「当たり前だ」と思うことに関してもきちんと話しあって言語化して共有するのが大事だと思います。途中でコースがずれてきた、と思ったら、即座に話しあって、軌道修正し、新たなゴール設定をすること。
そして、どうしてもゴール(と、それに至るパス)の共有ができない相手であることがわかったら、その人には辞めてもらって新しい人に来てもらいましょう。しかるべき報酬を惜しまなければ、代わりのexecutiveは必ず見つかります。
外交では戦争になりますね。
ハルノートはまさにそうですね。
いいねいいね
コメントを取り上げて下さってありがとうございます。
売上目標の話は正にその通りだと思いました。
米国では、新規事業を起こすときには、ボトムアップアプローチでしっかりとした事業プランを大抵作りますよね。営業をいつ・何人雇うか、各営業員のプロダクティビティを時間と共にどう変えていくか、値段をどう設定していくか、、、というような前提条件を全て定量的に仮置きして、そこからボトムアップで売上・利益目標が導き出される、みたいな。
ゴールとして大きな数字を与えると、それを満たすような前提条件がパチパチと弾き出されて、それをベースに事業立上げスタート、となります。日本人マネジメントが深く考えずに与えた目標でも、それを盛り込んだ形で事業計画が練られてしまうわけです。
個人的に思うこととしては、当たり前ですが、単に高い数字を与えて煽るだけではなく、戦略面の議論をきちんと行い、そのリスクとリターンを相互に理解した上で、現実的な数字と戦略面を合わせて合意するのがよいのかなと思います。
いいねいいね
※ボトムアップアプローチという言葉が誤解を招くかもしれないと思ったので追伸です
数値目標はトップダウンで与えられるわけですが、その数値を達成するための打ち手を検証するために、ボトムアップでしっかりとしたビジネスプランを作っていくという意味で使いました。トップダウンで作ると、営業は一人1億だから目標40億を達成するためには40人必要みたいな粗い議論になりますが、実際には営業は年何人までしかトレーニングできないとか、雇って半年は売上が上がらないというような細かい条件が色々とあります。そういった細かい条件の多くを考慮したうえで数値目標を達成できるシナリオを考えていく、そんな意味で使いました。
いいねいいね
大変興味深く読んでいます。
これまで読んできて、なんとなく、「とにかく話し合うことが大切」なんだな、と感じています。
でも、アメリカ側から見て不可解な日本側の習慣の多くは、「話し合うことはしんどいから、なるべく避けたい」という逃避願望から来ているのではないか、と常日頃思っています。(逆に日本から見て不可解なアメリカの習慣の多くは、「話し合わなければ何も進まないじゃないか」という態度から来ているような気がします)
なので、「話し合いが大切」という教訓は、自信が持てない方に対して「自身を持ちましょう」と言うのと同じようなことなのでは、と感じた次第です。
ぜひ、どうやったら「話し合い(あるいは対話、相互理解)」ができるのか、それはそもそもなんなのか、という日本の方々向けのコミュニケーション101のような内容があれば読みたいな、と要望です。
いいねいいね
アメリカ人にとって”Commitment”とは何かという
のを日本人はいまいち肌で理解していない、
というのが、ちかさんのおっしゃる文化的背景の
溝としてありますよね。
アメリカの出世の評価軸は”commit
したことを達成したか”ですが、
日本企業で出世するコツは、”明確な
commitmentをうまく避けて失敗した時に
×をつけられない”ことだったりします。
同様なことは男女関係にも言えますよね。
結婚はアメリカ人にとって”commitment”なので、
浮気は(ばれたら)即離婚につながりますが、
日本人はそのへん曖昧なので、なんのかんの離婚はない
だろうという曖昧な覚悟で外で遊ぶという傾向が
ある気が。
“just dating”と”committed relationship”の境界が
明快にあるのがアメリカ男女交際シーンですが、
日本ではそのへんすべて曖昧に”つきあってる”
と括られる、というのもありますね。
いいねいいね
>製品のリリース予定などでは、
このあたりは、アメリカ人はどういう感覚でものを言ってるんですかね?
日本だとそれこそ、軍隊のように精密に行動するのに。
いいねいいね
chikaさん、はじめまして。
全然関係ありませんが、パソコンの辞書にいたずらされてませんか?
以下のコピペを思い出しました・・・
(憶円の箇所)
~~~以下コピペ
休み時間ヒマだったので、上司のパソコンに
「うんゆ」→「運輪」
「こくどこうつうしょう」→「国土文通省」
「せんじつは」→「先曰は」
「けっさん」→「抉算」
「ねんどまつ」→「年度未」
「しゃちょう」→「杜長」
「おくえん」→「憶円」
などを辞書登録しておいた。
どうやらまだバレていないようだ。
無知な方が辛せってこともあるなぁ
いいねいいね
chikaです
>数値目標を達成できるシナリオ
ひとつあるのは、日本では人間は固定資産、ということがあります。工場みたいに、取得(建設?)するのに長い時間がかかり、手に入ったらなかなか処分できない。だから、細かいシナリオなど立ててもどうせ実行できない。なので、そういう発想にならない、ということがあるかと。
>どうやったら「話し合い(あるいは対話、相互理解)」ができるのか
1)話し合わなければ理解できない、と言う事を理解する
2)といっても、相手と自分がどれくらい違うか、話しあわなければ理解出来ないので、何時まで経っても理解できない。自らが海外生活を送り、「常識」がどれくらい違うか骨身にしみて理解する。(日本人とインターフェースするだけでは海外行っても意味ないですが)。
3)あと、コミュニケーションの基本は、相手に説明できる理論的な考え方が自分の中にあること。これを持つのが必須。
というわけで、簡単な101みたいなのはないです。
>”Commitment”とは何か
そうそう。多分日本で最も大事なことは「丸く収める」。アメリカは「約束を守る」(神様・配偶者等々との関係においても、ですが)、って事じゃないでしょうか。
>このあたりは、アメリカ人はどういう感覚で
んー、あれは「単なる予定」なんですよ。そして予定は覆されるもの。「できないものはできないじゃん」って感じじゃないでしょうか。あと、ものづくりをしているのは「普通の人」で、一旦約束したら必ず実現するぜっというハイレベルのexecutiveとはレベルが違う。日本と違って、普通の人はいい加減、executiveはスーパーマン級、てのがアメリカだからじゃないでしょうか。(日本は逆。普通の人は極めて優秀だが、executiveは(ry )
>パソコンの辞書にいたずらされてませんか?
うーん、と考えてやっと分かりました。憶は山上憶良のおくですね。Google 日本語入力にしたので、インターネット上のおふざけ表現が優位にたってしまっているのであった・・・w
いいねいいね
ピンバック: 戦略は文字通りに理解するアメリカ | On Off and Beyond | 起業・独立