前回のポストでは、多くの方に海外勤務経験をコメントして頂いたので、それのまとめを書きたいんですが、なかなか時間が取れないので、今回はサクッと、うちのガーデナーさんが今日話してくれたこと。
(ちなみに、ガーデナーを日本語にすると「庭師」で、広大な庭園を持った人が、優雅な職人に植木を刈り込ませてバンビの形にしたり、バラの世話をさせているイメージがあるが、当地においてガーデナーとは「庭掃除の人」であります。伸びた枝・草をざくざくと切り、ブローワーと呼ばれる空気噴射機(?)で、枯葉を集めて捨ててくれる人。)
さて、ガーデナー氏だが、3ヶ月ほど前に、自分の家の前に止めてあったピックアップトラックを盗まれてしまったそうな。庭師仕事に必要な用具一式乗ったまま全て持って行かれてしまったと。
買い換えるお金もなく、もはや廃業かと考え、20年来のとある顧客に
「車ごと全て盗まれてしまったので、もう庭師はできない」
と告げたところ、その人が
「そんなこといわずに」
と、その場で7000ドル(70万円弱)くれたのだそうだ。その人はもう80代で、大きな心臓の手術を間近に控えており、
「自分はこの手術を生きて乗り越えられないかもしれないし」
と言って小切手を切ってくれたとのこと。
ガーデナー氏は私に
「Do you believe in God? I do. I think it was God's will to help me」
とのことで、神様の思し召し、と。
(Do you believe in God? のところで、ガーデナー氏に、大きなくりくりした目でじっと見られて、オタオタした私でした。「ま、なんとなく・・・・」などとごまかした曖昧な日本の私。)
なお、その顧客の人は手術もサバイブしたそうですが。
後日談としては、7000ドルの小切手を入金しようと銀行に持っていったら、窓口の人が怪しんで、小切手を書いた顧客の人に電話で確認。さらに、もらったお金でトラックを買おうとして何台か候補を見たが、その多くが走行距離をごまかしていてトンでもなかったとか。(オドメーターを巻き戻すんですな。これがアメリカンクオリティ w)。
車の走行距離が妥当かどうかは、過去に売買された際のデータベースがインターネットでアクセスできて、車両番号を入れるとチェックできる。(有料。Carfaxとか)。で、ガーデナー氏の息子が「お父さん、僕が調べてあげる」と手伝ってくれたのだそうだ。息子殿は、サンノゼ大学の工学部の学生で、今はアルメニアで研修中だそう。お父さんは英語もつたないメキシコ移民一世ゆえ、絵に描いたようにupwardly mobileな家族像でもあります。
* upwardly mobile=Advancing or likely to advance in economic and social standing
私がLAにたどり着いた1980年代初めの頃のカリフォルニアのガーデナーは、皆日系人一世だったんですよ。いたるところに日系人ガーデナー協会があり、芝刈り機の販売・メインテナンスなどを担当するサプライヤーも全て日系人でした。でも1980年代の終わりころには、彼らも皆70近くなり、彼らの子供達の日系二世達は大学を出て医者や弁護士などプロフェッショナルになり家業は継がなかった。もちろん親の方も継いでは欲しくなかったでしょう。私の家のガーデナーは、ちょうど1990年に日系の方が引退されメキシコ人に代わりました。1990年代中頃には日系人のガーデナーは全て消えてしましました。懐かしいトピックだったんでコメントしました。
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私は、1990年代の初頭にニュージャージーで仕事をしていましたが、一軒家に住むと庭の手入れもさることながら、(秋口は)落ち葉の掃除だけでも大変なので、アパートに住む人が多かった様な気がします。
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> これがアメリカンクオリティ w
ロンドンクオリティも負けてませんよw
デンタルプランを申し込んだのにヘルスプランが申し込み済みになって返って来たり、プリペイドで予約した4星ホテルが二重に請求をかけてきたり…w
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いつも楽しく読ませていただいています。
今回の
「息子殿は、サンノゼ大学の工学部の学生で、今はアルメニアで研修中だそう。お父さんは英語もつたないメキシコ移民一世ゆえ、絵に描いたようにupwardly mobileな家族像でもあります。」
のところにとても興味を感じました。
今の日本ですと、小学校の時分から、塾、予備校、私立中高といったプラスアルファのコストをかけずに難関大学(特に、東大京大)に受かる(または卒業する)のは、ほとんど無理だと思うのですが、アメリカはどうなのでしょうか?
アメリカは大学やコミュニティーカレッジ間のトランスファーが頻繁なので、日本よりはチャンスが多いとは思いますが、上記のupwardly mobileなケースはレアなのでしょうか。
もしその辺の印象を取り上げていただいたら幸いです。
最近の日本の閉塞感もこの辺からきているような気もしてます。
私の子供は、もうすぐキンダーを卒業するところですが、公共教育であるキンダーや小学校は、夏休みが長すぎることを除けば日本より手間暇をかけているように感じてます。日本の義務教育は6歳からと始まりが遅いのとクラス当たりの人数が多すぎるのが、教育の機会という意味では意外と致命的なのかなとは思っていますが。
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私は、昔シリコンバレーにあるスタンフォードの大学院に通い、今は中西部の大学で教員をやってます。
ぶらぶらさんの質問について考えたのですが、確かにアメリカは下克上の「夢」を売るのは上手な国で、というかそういう夢を多くの人が共有したがる社会だとは思いますが、それがどのくらいの人々にとって現実的なものか?っていうと賛否両論あるのではないでしょうか?何せ、たった1世紀半前までは合法的に多くの州で奴隷が使えたし、奴隷制が廃止された後も、1960年代の市民権運動までは、有色人種に対する様々な差別があった国ですから。アジア経済を専門としてる同僚によると、個人所得の分布の仕方からみると、アメリカと今の中国はすごく似ているそうです。つまり数少ない高所得者と数多くの低所得者がいる国。それに比べて、日本はちょっと少し前までは、中間所得者が沢山いる国で、今でもまだアメリカや中国よりは金持ちとそうでない人の差がマシなんじゃなかったかな。そしてもちろん、アメリカの低所得者層に占める少数民族者の割合は、高所得者のそれより高い。
もちろん千賀さんのガードナーさんのような人も沢山いると思うのです。それからオバマ大統領、またはそれを支援した数多くの有色人種に象徴されるように、高い教育を受けたミドル・クラスの有色人種というのは、1970年以降、一つの層として確実に出現している。でも、カリフォルニアの州立大学には University of California SystemとCalifornia State University Systemの二つがあって、サンノゼ大学っていうのは確か後者の、どちらかと言えばレベルが低いとされている方のsystemだったと思います。だから彼がこの後どこまで行かれるか、果たして所謂「ガラスの天井」があるかどうかは、後になってみないと分からない。
でも、千賀さんのガードナーさんの話、良い話ですよね。8000ドル(80万円位?)って、ガードナーを雇える人だったら、全然払えない額じゃないだろうけど、他人にあげるお金としては破格だし。何年もお世話になっていると、美容師さんとか、お客さんの心の中で何となく大切な存在になると同じように、ガードナーさんも、そのお客さんにとって特別な存在になっていたんだろうと思います。これを読んでいて、知り合いの高齢の女性が、家の電気関係のことやその他のちょっとした修理をずっとお願いしていた人が癌で死んじゃったのよ、ってちょっと悲しそうに最近言っていたのを思い出しました。
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あ、ごめんなさい。7000ドルでした。
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このコラムを読んでなつかしい昔を思い出しています。僕は1969年に渡米、ユダヤ系アメリカ人の家にホームステイをして、近くにあるUCLAに通っていました。当時近くにくるガーデナさんのヘルパーとして Beverly Hills 付近で働いていると、時々Customerから不要になった(といってもまだNewに近い)靴や、ズボンなどをもらいました。 どれもアメリカンサイズでだぶだぶ、残念なことに一度も着ることはなかったのですが。Customerの中には歌手のレイチャールスさんもいました。夏の暑い日、草刈が終わり、飲んだコカコーラの味は今でも忘れることがありません。卒業後は印刷機械を作る会社(Heidelberg A.G.)でGreese Monkey として働き4年前にRetire、今は日系人が多く住むRedondo Beachでノンビリ暮らしています。40年が経ってもガーデナーのヘルパー時代を思い出すと胸が熱くなります。
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chikaです
>小学校の時分から、塾、予備校、私立中高といったプラスアルファのコストをかけずに難関大学(特に、東大京大)に受かる(または卒業する)のは、ほとんど無理だと思う
これ、みなさん、言うんですけど、私はほんとかなー、と思ってるんですよね。「親が高学歴・高収入だと子供もいい大学に行く」というのは、実は「教育費を沢山かけたから」という理由じゃなくて、他の要因が効いているんじゃないか、と疑っている私。(なぜなら、ある水準の子供だったら、学校の教科書読めばどの科目もわかるはず・・・。)この話はいつか本文で書こうと思っているのですが、ちょっとだけ言うと、「親が子供の学力ポテンシャルを把握して、高いゴール設定を励ますかどうか(そして、「把握」する力が、自分も大学に行った親の方がある)」の違いじゃないかな、と私は思ってたりします。
>果たして所謂「ガラスの天井」があるか
上を見ればきりがなく、下を見てもきりがないとは思いますが、ガーデナーのお父さんより良い暮らしは出来るんじゃないでしょうか。海外研修に行くくらいやる気もあるみたいですし。
>1969年に渡米、ユダヤ系アメリカ人の家にホームステイをして、近くにあるUCLAに通って
大変な時代にアメリカに来られたんですね。。。。Redondo Beachに日系人が多いとはしりませんでした。(私の義理の両親は以前はHuntington Beachに住んでいました。今はハワイにいますが。)
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再度コメントをさせていただきます。
私は、「教育費を沢山かける」というのが十分条件ではなく必要条件じゃないかなと思っているだけでして、お金をかければいわゆる’学力’がつくと思っているわけではありません。相応の努力なしでは難関大学には受からないというのは、大学受験を経験したものであればわかっていると思います。もっとも、親の環境づくりが大切なのは私も同感です。
また、私立の中高一貫や(地方の)進学校の公立高校に入るには、それなりに小さいころから塾にいかないと入りにくいと思ってますが、プラスアルファのコストというのは、ものすごいコストというわけでもなく、アメリカにおけるメキシコ移民の立ち位置では決して払えないコストとの対応、という感じでとらえてもらえたら幸いです。
サンノゼ大学というのは、超難関というわけではないのですね。ただアメリカですと、大学院は違うところに行くのが普通のようですので、あるレベル以上の大学を卒業したのであれば、その後のジャンプアップも可能かなと思いますし、またそれが評価される文化なのかなとも思っています。
あと、chikaさんの
(なぜなら、ある水準の子供だったら、学校の教科書読めばどの科目もわかるはず・・・。)
ですが、数学とかについてはそんな気もしますが、英語だけは限界があるかなと感じてます。
だいぶくどくなってしまいましたが、今後も楽しみにしています。
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千賀さん、ぷらぷらさん、
お返事、ありがとうございました。今、アメリカの田舎に住んでいるため、日本とアメリカの両方を知っていらっしゃる方とコミュニケートする機会が少ないので、とても楽しいです。
とりあえず、千賀さんのガードナーさんの場合、それが成功の物語であることは、明らかだと思います。ただ彼の例を、日本人にすぐ当てはめることは出来ないのではないか、って私は思います。少なくとも日本は今のところ、先進国で、日本人が日本でそれなりに一生暮らすことは、メキシコ人がメキシコでそうするよりも、たぶんより可能なことだから。海外で移民として苦労するんだったら、日本で自分の周りをちょっと居心地よくすべく努力したほうが得な場合って、沢山あると思うから。
ちなみに、私は小学校5年生から中学3年まで父の仕事でニューヨークにいたのですが、中学2年生のとき現地校が大好きで、高校受験の準備するために日本人学校に転校するのがすごく悲しかった。でも、その時母に言われたのは、「ウチはパパもママも日本の大学を出ているから、日本だったら、あなたが東大でもどこでも行かれるよう協力してあげられると思うけど、アメリカだったら、この社会で成功するにはどうすればよいか私たちは、よく分からない」ということ。実際、母の言うとおりにしたら、帰国子女枠で日本の割合良い高校に入れて、その後東大にも入れました。でもやっぱり自分のアメリカ的な部分も大事だったから、博士課程の段階で、アメリカに戻ってきてしまった。さらに最近フェースブックでニューヨークの中学時代のロシア系アメリカ人の同級生と「再会」して、移民の彼が割合有名な大学に行った道筋を考えていたら、「それなら、私にだって出来たよ!」って思ったり(笑)。
いずれにしても、アメリカで地域研究をやっていると、アジア関係にはやっぱりアジア系が多いし、南米研究だったら、南米系の人が多いのに気づきます。語学的な利点を考えて、というのもあるのですが、やっぱり自分のルートを知ることって、人間の欲求の大事な部分なのだと思います。そしてアメリカからの帰国子女にとっては、アメリカもルートの一つ。だからぷらぷらさんも、お子さんをアメリカで教育を受けさせるか日本にするかでなくて、どういう形で、アメリカと日本の両方の教育を受けさせてあげるか、ということを、たぶんすでにお考えだろうし、これからも考えていらっしゃることが大切だろう、って思います。
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chikaです。
ちなみにこのようなエントリーもございますw
http://www.chikawatanabe.com/blog/2009/02/todai.html
題して、「低学歴の親を持つ東大生はシリコンバレーに行く」。
(日本で)「成功するにはどうすればよいか私たちは、よく分からない」という親がいることがメリットとなって楽しい場所にたどり着いた愉快な仲間たち、って感じです。
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>「教育費を沢山かける」というのが…必要条件
そんなことは全くない、と思います。受験勉強は必要ですが、塾は必須ではありません。参考書を買う程度の費用は必要ですけれども。
ちなみに、日本の塾にも特待生制度はありますので、費用の問題よりも、親の意識と子の能力の問題が大きいと思います。
もちろん、塾に通い、家庭教師をつければ有利かもしれません。そんな人ばっかりが難関大学にいるわけではないと思います。
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低学歴の親を持つ東大生はシリコンバレーに行くは、面白いですね。確かに親から勤勉だけを教えてもらって、後は自分で工夫して東大に受かったような人のほうが、シリコンバレーで冒険しようっていう気持ちになれたのかもしれません。
ただ、私の念頭にあるのは、親の学歴・収入と子供の学歴の関連を説明するのに社会学者が時折使う「文化資本」という言葉です。別に塾に具体的に通っているとか、参考書を何冊持っているかとか、そういうことではなくて、東大卒の親をもっていたり、自分の親の友人が東大に入っていたりすると、親も子も「東大に入る。」っていうのも、別に普通の人間にも可能なことだ、っていう感覚になる。それと同じものを、アメリカ人のいわゆる有名大学を出た親を持つ子供も持っていて、そういう人と日本人が上のほうで競争していくのって、本当に大変なことだって思います。
でも、最近日本の後輩にメールを書いたときに私自身が、言ったのですが、こういう不確実な時代に成功するタイプというのは、楽観的で、まあまあ実力があって、幅広い視野を持った人だと思います。だから千賀さんが、一生懸命「やればできるんだよ!」とか、「日本以外にも世界中に沢山オプションがあるんだよ!」ってこういうサイトで書いていらっしゃるのは、とても価値があることだなーって思います。今後ともどうぞよろしく。
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