投資はがし(とベンチャーキャピタルの仕組み)

昨日のエントリーが貸しはがしだったので今日は投資はがし。

昨今の市場暴落で「ベンチャーキャピタル(VC)のキャピタルコールに応じないLPが出る」、と言われてきたが、なんと自社の社員の給料も払えないVCが出ているらしい。

(とはいうものの、今日、シリコンバレーのVC、corporate VCあわせて3人の方と話をしましたが、皆さん、ごく最近series
Aやseedで投資したばかり+投資するところ、鋭意検討中、とのことで、審査は厳しいものの、まともなVCはまともなベンチャーには相変わらず投資し続けている模様ですが。)

「キャピタルコールって何じゃ?LPって?series Aって?seedって?」という方には以下説明します。

そもそも、ベンチャーキャピタルというのは、自分たちもどこかからお金を投資してきてもらってファンドを組成、、そのファンドのお金をベンチャーに投資する。で、その「ベンチャーキャピタル(のファンド)に投資する人」のことをlimited partner、LPという。LPは、自分が投資した金額分しか責任を負わないので「limited」。

一方で、実際にベンチャーキャピタリストとして投資にあたるベンチャーキャピタルの社員(パートナー)がgeneral partner、略してGP。

そして、ひとつのベンチャーキャピタルが複数のファンドを持つのが普通。たとえば、「Sequoia Capital」というベンチャーキャピタルはひとつしかないが、そのSequoiaは時期が違うファンドをいくつも持つ。(バイオとIT、という風に投資領域が違うファンドを複数持つこともある。)通常ひとつのファンドは10年間の期間限定付き。

つまりベンチャーキャピタルというのは、複数のファンドと、それを運営するパートナーを抱える芸者の置屋のようなものなわけです。

で、VCが「うちは200億円のファンドを運営中」という場合、それは「今銀行に200億円入ってます」という意味ではなく、「ファンドの運営期間中に200億円出す、とLPがコミットした額が200億円」ということ。実際には、必要になるたびに、「capital call」というのをして、そのたびにLPはちょろちょろとお金をVCに渡す。つまり最初に総額は決めるが、実際にお金を出すのは五月雨式なわけです。

で、LPが何らかの理由で資金が出せなくなると、「capital callがあってもお金を渡せない」ということになる。これが冒頭の「キャピタルコールに応じないLPが出ている」という話。

capital callに応じないと、それまでファンドに投資した金額のリターンがあってももらえない。すでに投資済みの投資先が将来上場したりしても、びた一文もらえないことになる。なので、致命的なのだが、お金がないと背に腹は変えられず。

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ちなみに、VCの一般的なビジネスモデルは、

1.毎年、ファンド総額の2%を運営費用としてもらう(これをmanagement feeという)
2.ファンドの運用益が出たら20%をもらう(こちらはcarried interest、または単純にcarryという)

となっております。「運用益」は、投資先が上場したり買収されたりすると発生する。

ちなみにVCで働くGPも、ファンドには出資する。ただし1%のみ。つまり1%しか出していない人が、利益の20%を持っていくわけです。

なお、ファンドが巨大だとmanagement feeの方もばかにならない。たとえば$500Mのファンドだと、management feeだけで年間$10M、10億円。GPが5人だと、一人当たり2億円だ。実際にはオフィスの賃料とか、そのほかの社員の給料とか、そういう経費があるので、手取りはそれよりは少なくなるが、それにしても億円単位。

また、ひとつのファンドの寿命は10年なので、期間合計で見るとmanagement feeだけで2%×10=20%。ファンド総額の二割となる。(1%、ということもあるようだが、総額が大きいとそれでも巨額になってしまう。)

バブル期には巨大ファンドが増えて、「management feeだけでそんなに儲かっちゃったら、投資実績を上げてcarryを出そう、という意欲が薄れるのでは」というLPの懸念が出たりした。

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あ、それから、ちょっと前のエントリーで「VC投資のシリーズ」のことを軽く書いたら、「はじめて知った」というようなご意見が散見されたので、再度それも説明します。

正しいシリコンバレー的ベンチャーでは、増資をだらだらと常時行ったりしない。増資は、時々まとめて行われるもので、それぞれの回ごとに「今回の投資の条件」が決まり、複数の投資家(主にベンチャーキャピタル)が同条件で投資する。その「回」をroundと呼び、それぞれのroundをはじめの方から順番にseries A、series B、series C・・・とする。

(なお、数千万円程度の小額増資をしてアイデアを形にする、という場合、それは「seed round」となります。種まきラウンド。かわいい。多くの場合seedはエンジェルインベスターと呼ばれる個人の投資家か、friends and family=縁故・知人より行うことが多いが、VCの中にもseed投資をするところもある。また、seedはすっとばしていきなりseries Aということもあります。)

投資条件は、同一round内では一緒だが、roundごとには異なる。(抵当権設定で先にある抵当権と後に来る抵当権では借金取立てできる順番が違う、というのとちょっと似ている。)で、たとえば会社が売却された際には、どちらのseriesの投資家から先に売却益を獲得するか、等々が異なるわけです。

それから、各roundにはlead investorが一社だけいる。leadの主たる役目は値段付け。総額いくら投資するかも大事だが、それで会社の何%を手に入れるか、という「価格」が大事なんである。

「投資してもいいけどleadはしない。どこかleadが見つかったら声をかけてね」というように言うVCもいれば、「うちは基本的にはleadしかしない」という勇気あるところもある。あと、以前のroundで出資した投資先ベンチャーが次のroundの増資をする際には、新しいVCをleadで呼んでくる、というのが美しかったりする。(じゃないと、自分で自分の持ち物の値段をつける、という状態になってしまうので。)

ちなみに、VCの投資書類はすごい長い。見ても呪文のようである。実際、ほとんどは単なる呪文なので適当に弁護士まかせでよい。しかし、絶対に見落としてはならないのがliquidation preference。特に不景気に突入していく昨今のような状況下においては、これが明暗を分けるケースも多い。以前のバブル崩壊時に書いたliquidation preferenceに関するエントリーがあるのでそれを参照してください。

それ以外では、anti-dilution/ratchetってのもベンチャー側にとっては「ぐえっ」と首が絞まる可能性のある大事な条項である。これは弁護士に説明してもらってください。弁護士のYokumが書いたエントリーもありますのでご参照あれ。

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なお、ベンチャーキャピタルというのは大変小さい産業で、2006年時点で年間総額$20 billion、2兆円程度。スーパー高利貸しPayday Loanで書いたとおり、「普通の人が、銀行口座から残高を超えた引き出しをした際の罰金総額」が3兆円もあるわけで、それより小さいという。小粒でもぴりりと辛いよ、って感じでしょうか。

投資はがし(とベンチャーキャピタルの仕組み)」への4件のフィードバック

  1. うちの会社がVCから資金調達したときも、先方の投資委員会の審査を通過するまでは順調だったものの、投資契約書の内容で揉めに揉めたなあ・・・
    私の経験上、日本のVCの場合は、銀行融資かと思うようなえげつない連帯保証的な買取請求権(事業が失敗したら投資額で買い取る、みたいな)を入れようとしてくることが多いですね。
    弁護士費用も含めて調達額の数%くらいは調達のためにかけるべき、と後程先輩経営者からアドバイスされましたが、アメリカの場合どうなんでしょうか?

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  2. 弁護士費用、アメリカでも、(てかアメリカだからこそ)がーんとかかります。弁護士以外でもいろいろコストがかかるので、大体アメリカでベンチャーを立ち上げると、日本で同じような会社を立ち上げるのに比べて2-3倍かかる、って感じです。アメ車みたいに燃費が悪い。

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