スーパー高利貸しPayday Loanの存在価値

Payday Lone
カリフォルニアにはPayday Loanの店があちこちにある。(高級住宅地、一流ビジネス街等は除く)。年利300%とか400%という超高利で小額のお金を貸してくれる、いわゆる「サラ金」屋さんである。以前磯崎さんがこの業態に触れて、世界にはまだこんな高利の貸金業が存在すると、驚きを記事にされていた。どんなにおどろおどろしいものかと思う方もいるだろうが、写真のような「明るい」お店。

州ごとに法律が違い、認可されないところもあるようだが、カリフォルニアは97年に合法になった。

大抵同じ店舗で「check cashing」も提供している。こちらは「給料でもらったチェックを現金化してくれるサービス」。なんでもチェック=小切手で支払うのが普通のアメリカでは、日雇いの現場労働者なんかでも容赦なくチェックで支払れたりする。チェックは、自分の銀行口座に入れることで現金になる。ところが、推定2800万人が銀行口座を持っていない。そういう人たちは

「一体全体この紙切れをどうしたらいいの」

という状態に。こういうときに「check cashing」のお店に持ち込むと現金にしてくれるわけです。もちろん手数料は取られるが。

こちらのcheck cashingは70年代からあるビジネスらしい。

そして、そういうcheck cashing屋さんが多角化して「payday loan」の方も手がけるようになった、というケースが多い模様。

「年利300%」というと、どうしてそんなものを借りる人がいるのか、といぶかるかもしれないが、

「手数料20ドルで、2週間の間、100ドル貸してあげます」

という感じなんですな。つまり、利息ではなくフィーとして支払う。もちろん結果は同じだが、借りる側としては非常にわかりやすく、しかもクリーンな感じ。

ただし、payday loanの方は、将来の日付のチェックを「借金のカタ」に差し出さないとならない。なので、銀行を持っている人しか使えない。ということで、check cashingとpayday loanの対象顧客層は異なるわけで、なんで同じお店がやってるのか常々疑問に思ってきた私。

そんな折、New York Times Magazineに特集が。南カリフォルニアのcheck cashing/payday loanチェーン、Nixに関する記事。なかなか興味深い。

それによれば、競合他社を合計すると、同様の店舗は、マクドナルドとスターバックスを足したより沢山あるんだそうだ。そして、昨今の不況でどこも大賑わい、ということらしい。

記事には、「どうしても銀行でお金を借りられない人たちだけがPayday Loanを使っているわけではない」、というちょっと驚く記載もあった。

アメリカの銀行というのは、貧乏人に非常に厳しくできている。口座残高が低いと、口座維持料を取られるのは初歩の初歩、小切手発行手数料なんてのもあったりする。さらに、残高がない口座を使うと罰金がつく。これが結構高い。

「残高がない口座を使う」とはどういうことか、と不思議に思うかもしれないが、これはつまり

1)残高が足りなくなる額のチェックを切ってしまう
2)残高が足りなくなる買い物をデビットカードでしてしまう

といったこと。一回20ドルとか30ドルの罰金を取られる。

「一回」ごとだから、たとえば、残高ゼロになってから2ドルとか3ドルの買い物を5回しても、5回分罰金を取られる。1回20ドルとして100ドル。

私も昔旅行中に残高がなくなった瞬間があり、1日で20ドルくらいの買い物を2-3回して、その回数分の罰金をチャージされたことがありました。しくしく。チェック用の口座以外に貯蓄口座もあって、そちらにはちゃんと現金があったのに。しくしくしく。

話をNew York Timesの記事に戻すと、18セント(約20円)残高オーバーしたために35ドル(約3500円)の罰金を請求され、それ以降、より高いことはわかっていてもNixを愛用している人の話が出てくる。銀行の口座もキープしているのでチェックの現金化は無料でできるのに、わざわざNixで手数料を払っているそうな。銀行は信用できないから、と。

記事によれば、「銀行による、残高を超えた引き出し関係の罰金収入」の総額は、2006年に$25.3 billion、3兆円近くあるとのこと。2年間で48%増えたそうだ。

アメリカの銀行は、残高を超してもどんどんお金が使えるように、わざとしてると思う。絶対そう。

こういう銀行への不信感、というのが根強くあるところに入り込んだのがcheck cashing/payday loan屋さんなわけです。

銀行への不信感に加え、「二週間、などと期限をきっかり切られて、ホンの小額だけ貸してもらうだけだから、それ以上の借金の泥沼に入ることがない」といった「自戒の気持ち」がある人もいるし、ちゃんと他のコストも計算して見合うときだけPayday Loanを使っている人もいる。また、全てのフィーが明快でわかりやすいことを気に入っている人もいる。

さらには、記事で取り上げられたNixでは、会社による店員の待遇がよいため何十年も同じ店で働いている人もいて、常連の顧客と信頼関係がある、ということもあると。

そして、こうした「貧困層向け金融」を手がけようと、ついに大手・正道の金融機関であるところのKinectaというクレジットユニオンがNixを買収した。業界を知り尽くしたNixのファウンダーも重役としてキープ、NixユーザーにKinectaのサービスを提供しようとしている。5ドルからスタートできる貯蓄口座をNixの店舗で開設できるようにする、といったようなこと。記事を書いた記者の人が、実際それをはじめたNixの店舗で観察したところ、多くの顧客が非常に興味を持って窓口でいろいろと質問しており、中にはその場で口座開設した人もいたとのこと。

しかし、銀行口座を持たずにアメリカで暮らすって、ものすごいリスキー。1週間とか2週間に1回給料が払われるわけだが、それをキャッシュにしたら、そのまま数百ドル、時には数千ドル持ち歩くわけで。貧しい地域ほど窃盗が多いのもよくわかります。くわばらくわばら。

ちなみに、冒頭の写真のチェックキャッシング屋さんはSan Joseのラーメン屋、Haluの隣にあります。

スーパー高利貸しPayday Loanの存在価値」への14件のフィードバック

  1. これじゃ、アソウ総理が、銀行に公的支援をした方がいいといくらいっても、アメリカの有権者が納得するわけがないですね。で、そのそばで、大麻薬局が営業していて、オバマが合法化の代わりに、課税したりして、かえって高くつくことになれば、少額の金で苦しめられることが増えると、、、、かなり荒れそうですね。

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  2. 「オチはどんな洒落なんだろう?」と思いながら最後まで読んでしまった…
    日本の銀行ではチェッキングアカウントやジョイントアカウントの口座を個人で開設することがほとんどできません。つーか7年くらい前に当時のUFJ銀行に断られました。どちらも日本国外では良く聞くサービスなんですが。日本の普通預金はバンキングの使い勝手がいいけれど、マネーロンダリング規制のため制限も厳しいです。で、そこの勝手の違いも大きいんじゃないかと。
    (という話を踏まえて lone なのかなー、と咄嗟に思った私)

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  3. 日本だと、銀行に小切手を持っていけば即座に金になる。相手口座から引き落とされるのは、その後。
    よほど信用のある相手でなければ、小切手帳は渡せないよね。

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  4. chikaです。
    「オチはどんな洒落なんだろう?」、lone???なんのこと?と思ってタイトルを見て納得。 ひえー、間違えてたのは私か。直しました。
    >チェッキングアカウントやジョイントアカウントの口座を個人で開設することがほとんどできません
    うーん、でも、日本で生活してる限りチェッキングアカウントは必要ないのでは?ジョイントアカウントは確かに困りますね。
    >よほど信用のある相手でなければ、小切手帳は渡せない
    いやー、小切手帳は誰にも渡さないです。ATMカードを人に渡すようなもの。。執事とか、そういう家のファイナンスを預かってる人がいたら別だと思いますが。

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  5. 興味深い記事です。
    先日ニュースで解説者が、「アメリカが必要以上に消費をしまくっていたおかげで、世界の経済成長は支えられていた。なので、アメリカの消費がサブプライム等で冷え込んだ途端、世界中で景気が落ち込んでしまった」
    みたいなことを言っていたのですが、その肝心のアメリカの消費というものは、こういう「残高がなくてもウッカリ消費ができちゃう仕組み」に支えられていたのですね。
    しかし、小切手はともかくデビットカードまでが、残高がなくても支払えちゃうというのがとても不思議。銀行に接続して認証するときに、残高ってチェックしないのでしょうか。

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  6. 先日ハルの開店10分前に行ってしまい、開店を待ちながら、ずっとこの写真のお店を眺めつつラーメン何にしようかなって考えていました。その10分の間に沢山の人がここに軽快に出たり入ったりして行くので、このお店、私が考えているような阿漕な商売じゃないのかもしれないなぁと思っていたところでした。
    でもやっぱり、バブル後ヤミ金に手を出して苦しんだ親戚なんかを日本で散々見て来たんで、何をどう言ってもダークサイドな感じは払拭できませんが。
    潮ラーメンは相変わらず美味でした。

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  7. > 「二週間、などと期限をきっかり切られて、ホンの小額だけ貸してもらうだけだから、それ以上の借金の泥沼に入ることがない」
    ここを見て、日本の「質屋」のイメージかなと思った。質屋だと絶対に泥沼にははまらないからね。(ただし持ち込めるような贅沢品がないと、それはそれで泥沼な気もするけど。。。)
    そう言えば質屋を金利換算するとどうなるんだろ?
    それに米国には質屋ってないのかな。クイズ番組で、「ラスベガスで持ち込まれる最も多い質草は何?」というのをみた記憶があるけど、あれは記憶違い?(ちなみにそのクイズの答は「拳銃」。ラスベガスは治安が良いから必要ないんだとか。今は知らんけど。)

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  8. chikaです
    >銀行に接続して認証するときに、残高ってチェックしないのでしょうか
    わざとしないんですなぁ、きっと。3兆円ビジネスを自分からつぶす必要なし。
    >米国には質屋ってないのかな
    あります。でも、回りくどいこともあって、あまり目にしませんが。「車をカタに貸す」というのは結構あります。冒頭の写真のお店では、これもやってますヨ。

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  9. 四半世紀後のために、今日読んでおくべき一冊 – 書評 – 貧困のない世界を創る

    とてつもない。
    貧困のない世界を創る
    Muhammad Yunus /
    猪瀬弘子訳
    [原著:Creating a World Without Poverty]
    すごい人だとは知っていたつもりだったが、すごいを通り越してとてつもない人だとしか言いようがない。よって本書はスゴ本ではなく、トテツモ本であ……

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