ストライキ続出のアメリカとストライキが姿を消した日本

シリコンバレーで大々的な看護士のストライキが予定されている。3月21日から10日間、4000人が参加予定。(病院側は代替となるテンポラリの人材を雇って医療行為は継続する。)同じ看護士のグループのストは、去年の10月、12月に続きここ数ヶ月だけで3回目。

いや、それにしても、日本でストを見なくなって久しいが、アメリカのストの多いことよ。

Wikipediaの日本語版には

1980年代以前(特に1970年代以前)には、日本・諸外国を含めかなり多かった。しかし、日本のみならず諸外国でも近年ではあまり起きない傾向にある。

とあるんですが、頭の中は?マークでいっぱい。

少なくともアメリカはストは頻繁にあるぞ。

フランスなんかはもっと沢山ストをしているように思うんですが、フランス在住の方いかがでしょう?数年前TGVでパリからアビニヨンに行ったとき、ちょうどストでひどい目に会った。さらにかの地では、カフェのウェイターまでストをするそうではありませぬか・・・。

アメリカに話しを戻すと、看護士というのはよくストをする。スタンフォードの大学病院の看護士も数年に一回くらいはストをしているし。(2003年のものはこちら)。

伝統的に戦う組合としてはUAWというのもある。自動車系の労働者の組合。ちょうど今も、デトロイトの方では2月26日からずっと3600人が自動車部品メーカーでストをしているらしい。(シリコンバレーではほとんど報道もされてないが。)

あと、最近の有名なものでは、脚本家12000人が11月から2月までストをしていた、というのもある。(争点は「インターネット動画配信利益のために戦う脚本家組合 」を参照)。さらに、今度は俳優のストが行われる可能性も浮上している。

過去半年くらいのメジャーなのだけでこんなにあるわけで、まぁ常に国のどこかで誰かがストをしそうか、ストをしているか、という感じな訳です。

とはいうものの、その頻度/激しさは、70年代までの比ではないようだが。

Washington Postの社長、Catherine Grahamの手記には、印刷工場の労働者がストを行い、さらに工場の機械を全て破壊した、という昔の激しい時代のエピソードがある。会社側が、ストをしている組合労働者を排除し、非組合員を新規雇用して工場を稼働させてしまうことがある。これを阻止するため、製造ラインそのものを破壊してしまう訳です。(これに怒り狂ったCatherine Grahamは組合と徹底抗戦する。)

別の例では、スト中の労働者が工場の周りにピケを張って中に入れないままストが長期化、経営側は別の場所に新しく工場を設営し、ある日ヘリコプタでスト中の工場の中に降り立ち、どうしても重要なものだけ取り出して、新しい工場で製造開始、なんていう話しも聞いたことがある。スト中の組合員は全てクビ。

つまり、昔のアメリカのストはほとんど「内戦状態」で、それに比べればずいぶんおとなしくなった、という感じなんですね。

また、組合活動そのものも下火である。KrugmanのThe Conscience of a Liberalによれば、1973年に39%だった組合参加率は、2005年には13%にまで落ちている、とある。(そしてこれが、アメリカからミドルクラスが消えた大きな要因の一つである、とKrugmanはしている。そして、組合が減った理由は「時代に即さない」というようなファジーなものではなく、政府の組合つぶし、企業保護の政策に寄る、というのがKrugmanの主張だ。)

と、アメリカでもストは昔に比べればずいぶん廃れているのだが、今の日本みたいに「ストってなんですか?」という状態では全くありません。残された13%の組合員はきちっとストしてます。

ただし、プロフェッショナルな仕事(含むエンジニア)では組合は稀。集団で戦うより、個人で交渉した方がいいし、条件のいい会社に転職してしまえばいいことだし。

珍しい例としては、数年前Electronic Artsのゲーム開発者が

「強制的な労働時間が長過ぎ。残業代払え」

集団訴訟を起こしたことはありましたが。(長過ぎ、といっても週70時間とか80時間とか。日本に比べると甘いですね。)結局Electronic Artsは残業代を払うこととなったのでした。

いや、日本も70年代までは、ストってあちこちであったもんですけどね。動労春闘で電車が毎年一回は盛大に止まる。子供にとっては、学校も休みになって、大人もみんな家にいるので、ストライキは楽しいもの、という刷り込みがあります。普段は入れない線路の上を散歩したりとか。

ま、私は、同居していた祖父が元地方の国鉄の組合のリーダー、かつバリバリの共産党員で、私自身も小さい頃から赤旗(共産党の機関紙)を読んで育ったので、これがストへの抵抗を低めてるのかもしれませんが。

で、そのストが日本からなくなったのは、ちょっと悲しい。

待遇は自分で勝ち取るもの。戦って好待遇を勝ち取る根性がないのだったら、与えられた条件に甘んじ、いいようにこき使われても仕方ない。転職で好待遇が勝ち取れる人はそうすればよいが、集団で戦わなければならないタイプの仕事をしているのであれば、ストをしてでも自分の未来は自分で勝ち取るべき。

そのためには少々世の中に迷惑がかかってもしかたないではありませんか。

・・・と私は思うので、ストをされても、

「ち、不便だな。でも、元気だね。がんばってね」

程度の感慨しかない。

ま、水道、ガス、電気、ガソリンあたりは止まったら心の底から困るが、それ以外はまぁなんとかします。

もちろん、ストの理由に納得性がある、というのは大事。

昔私が三菱商事につとめていた頃、「子供を私立の小学校に入れるのが大変だから給料あげろ」という主張を組合がしてたことがあって、組合員ながら「これはいくらなんでもダメだろ」と思いました。はい。そんな理由でストされたら単に迷惑ですなぁ。誰もしないと思うが。

ストライキ続出のアメリカとストライキが姿を消した日本」への20件のフィードバック

  1. こんにちは。
    今まさに子どもの学校の先生がストライキ中です。
    さすがに授業はありますが、放課後のクラブ活動のようなものが無しとなっていて、先生が「学区が州からお金をたくさんもらっているのに、先生の給料を上げないで、銀行に貯金してお金を増やしている。」と理由を説明してくれたと息子が言っていました。教育予算のカット関係のストライキだと思います。
    何年か前の先生のストライキは「宿題が一切でない」ストライキでしたから、子どもは大喜びでも、この辺りの熱心な保護者に訴えかけるのに効果大だったかと思いますが、今回は宿題は出ています。

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  2. ウチの祖父は逆に小さい工場をやっていて、加減を知らない労働争議で死にそうになってたらしいです。30代で胃を何回も手術して、ほとんどなくなっちゃったとか。日本では「やり始めると加減を知らない」感じになりがちなので、ただストを煽れば良くなる感じでもないかもしれません。
    最近は、「春闘」の時期なので、たまに労働組合の人とかを日本のニュースで見ますが、昔と違って今では、労働組合の人も、「経営側の都合もオモンバカル」感じだというか、「厳しいのもわかりますが、ここでいっちょお願いしますよ」的なトーンになってきている感じがします。昔みたいな「シュプレヒコール型」ではないというか。
    経団連の方も、「今年は、余力があれば、そろそろ賃上げに応じても良いのではないか」とかいう発言とかもしてましたし、なんかこう、「お互いオモンバカリあって行動する関係」みたいなのに、徐々に進んでいこうとしてるんじゃないかなという希望的観測も成り立つかもしれません。
    まあ、まだ形になってはいないですが、「スト」って実際にあったら、結構「労使どちらも大変」なことなので、そういう「交渉自体が持っているコスト高な部分」を毛嫌いして、もうちょっと「日本的にムニャムニャっと落としどころを見つけていく」形が、今後10年ぐらいで見えてくればいいなあと思ったりします。「vs」にしてしまわない交渉プロセスっていうか。
    「労使のナニワブシ的解決」みたいなのが、成長の起爆剤になるみたいな話って、特に中小企業ではよく(大きいトコでもたまに)あることなんですよね。「対立」自体を、「経済合理性」に集中していくための「磁力」にしてしまう感じっていうか。

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  3. chikaです
    >「日本的にムニャムニャっと落としどころを見つけていく」形
    私なりの現在の結論は
    「この手の『形』が経済成長にメリットがある、というのは幻想である。ショートタームの痛みを避け、短視眼的な解決を図るものでしかない」
    というものです。
    「日本が成長したのは、衝突しながらも新しいことに挑戦した70年代まで。80年代はその余波で最も経済的反映を享受するが、足下はこの10年の間にあやしくなり、以降はそれまでの遺産を食いつぶしている。この食いつぶしている状態でしか仕事をしたことのない人たちが、(中長期的には)右肩下がりの中で見たやり方だけを元に『これが日本式だ』と言っている」
    とまじめに思います。つまりおじいさまの工場のように、30年前の日本は労使間もムニャムニャしてなかったけど、それこそ日本の反映の基盤の時代だった、と。

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  4. たしかに団塊世代には不満がある。労組もスト位して、もうちょっとガンバレと思う。
    それを言うと、アメリカが最も経済的繁栄したのは60年代まで。以降はそれまでの遺産を食いつぶして、さらには多額の借金までしていると言える。(ベンチャーがどうのと反論されるでしょうが、支えられるほどの規模にはなっていないと思います。)
    先進国の一般的問題ではないでしょうか。

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  5. さっきの続きなんですけど。
    「ムニャムニャ」にも二種類あってですね。「縮小均衡的なムニャムニャ」っていうのと、「無限大に発散するようなムニャムニャ」っていうのがあると思うわけですよね。
    中小でもうまく行ってるところというのは、「馴れ合い」になるでも「ケンカ」になるでもない、「発散型の関係」が労使にある感じがするんですよ。「ナニワブシ型の労使解決」ってのは、なんかそういう感じなんですね。「トップが俺たちの所にわざわざ降りてきて、一肌脱いでくれた!」「しゃあねえ、俺らもやらねばなるまい!」みたいな、なんか理屈じゃないところで盛り上がっていく感じがね。まあ、冷静に第三者から見ると、「安い芝居を見せられてる」みたいな感じになったりもするんですけど、案外それがクリティカルだったりするような。
    特に、「グローバル資本っぽいロジカルさ」を体現している存在が、「あえて一肌脱いでくれた!」的なストーリーに、今の日本人は弱いので、「日本的ベタベタな人情にあえて身を投じるロジカル人間」が生み出していく「視野の広さと日本的団結の両立」みたいなパターンに希望があるのかなと。
    「ドラマ」でなくてはならないとは思いますよ。しかしそれは「ケンカ」すりゃいいってもんじゃないと。結局ウチの祖父の工場は潰れちゃったわけでね。ストが起きたりする時点で負けてるってところがあるわけですよ。変な言い方だけど「洗脳力が足りなかった」みたいなところでね。
    まあそれはアメリカでもどこでも古今東西同じ「良い組織」の基本形だとは思いますが、「理想状態」に持って行くための「方策」は、結構「文化的要素」が大きいので、「彼らの琴線」に触れるような「ローカライズ」が必要かなってことですね。
    「飢えてないワレワレ」は「昔の日本」には戻れないわけですから、「何か新しい動員力」を発揮していかなくてはならないわけで。
    ま、言葉で言うと空虚な感じだし、実際には難しいことですけど。たぶん今後10年ぐらいに、日本の「未開っぽい部分」から、新しい「あり方」が生まれてくると思いますよ。ちょくちょくそういう動きを見かけますし、昨今の「日本回帰ブーム」の中で彼らにスポットがあたっていけば、ある点で「日本人的クレイジーな没入力」が再発動する日も来るでしょう・・・・今度は「グローバル資本」と「噛み合った」形でね。
    それに道筋を付ける仕事を僕はやってこうと思ってますし、でもそれが終わったら僕個人はアメリカに行きたいです(笑)。
    日本はもっと「いわゆる日本人的な人たち」が長所を活かせる(そしてそれがグローバル市場的な成果に繋がってゆく)場所になってった方が、チカさん含め「日本にはいたくないタイプの人たち」にとっても「自分だけ脱出して自由になる気後れ感」がなくて良いんじゃないかと・・・・「ああ、人それぞれ自分の長所が活かせる場所で生きるのが良いんだねえ」的な感じで大団円みたいな(笑)。

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  6. 日本の大企業の場合、経営者は生え抜きだし給与格差もたいした事がないというのもあるでしょう。
    アメリカ人って、言うほど戦っているのでしょうか?
    給与格差は馬鹿みたいだし、富の9割を1割の人間が握っているなんて、どこの発展途上国?

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  7. 日本の公立中学校の教員がストを起こさないのが不思議でしかたありません。
    定時退庁なんてありえない世界で、夜8時9時退庁は当たり前、万一、生徒が万引きしたり家出したりと問題起こせば夜中でも警察に行ったり、家庭訪問したり、24時間対応を迫られます。
    土日も部活でほぼ一日指導のため学校にいます。出勤と言いたいところですが、あえて言いません。その際の手当ては、自治体にもよりますが、うちの学区は4時間以上指導で1日あたり1200円です。(例:朝の8時から夕方5時までやっても1200円です。)
    こんな感じで月給およそ30万円(37歳女性)。ぜいたくでしょうか。
    今すぐにでもストライキしてもいいと思うのですが。
    (教員全員が必ずしもこうとは限らず、部活を担当せず定時退庁、土日も部活がないので完全に休日、という方もいます。)
    休日が取れず、結婚して5年たってもまだ新婚旅行に行ってない教員のトホホな実感です。

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  8. 日本とアメリカの国民性の違いもあると思いますが
    アメリカ: マイルドなインフレ → 名目賃金を上げないと生活水準が下がる、完全雇用状態なので労働側も強気
    日本: デフレ → 賃金の下方硬直性のおかげ職さえ失わなければ生活水準はデフレ分上がるからストの必要は無い、一方、完全雇用状態じゃないから既得権からあふれると深刻な状況でもストを打ちづらい
    … こういうマクロ経済的背景もあると思います。デフレ時には既得権維持に全力を尽くすことがインセンティブになりイノベーションが二の次になった、というのがこの十数年ではないかと思います。

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  9. > Kさん
    だったら、私立の進学校に転職するなり、予備校の講師にでもなれば。
    でも、どれだけ恵まれているのか分かってから転職しても遅くないと思うけど。
    ボーナスだって年100万近くもらってるんだろうし、定年まで勤めれば民間企業より高い退職金と年金も貰えるんだから、そんなんでストされてもねぇ。

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  10. > yukimuraさん
    そんなに不満であれば、裁判を起こされてはどうでしょうか。
    最近の日本では、ストやデモより、個別に訴訟を行うのがトレンドのように思われます。
    判決によっては、外資から社会主義だとの非難があるようですが、これも勝ち取った権利でしょう。

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  11. 教職員のストについて
    日本の地方公務員は、法律で争議の権利を奪われていると思います。
    この規定は憲法違反という見方もあるそうですけど。
    ちなみに、教職員は労基法の例外として残業代も出ないようになってます。

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  12. 現在、ベルギー在住ですが、以前フランス、イギリスに住んでおりました。
    私の知る限り、フランスのスト度はかなり高いです。(ベルギー、イギリス、生ぬるいです)
    普通に、「給与をあげろ~」程度のわかりやすいストはいいのですが、確か2002年ごろにあった、「税金全く払いたくない!」という、激しくわかりやすいストは、絶対にあり得ないと思いました。
    ストに限らず、所謂、デモというものも激しく、パリのバスティーユオペラ座で、バレエを観ていた、その幕間に、外の広場で炎が上がっていた時はびっくりしました。確か2002年の大統領戦の際のことです。
    2001年頃の、「不法滞在者にビザを出せ!」という権利の主張(?)も、あり得ない・・・、と思いました。
    フランスでは、何でも、言ったもん勝ち、と言いますか、とりあえず、言ってみることが重要。一歩譲る日本とは、180度違うカルチャーゆえか、パリは海外都市の中で、日本人のノイローゼ患者が一番多いというのも頷けます。

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  13. アメリカのような国で、ストが労働条件を改善するとはあまり思いません。単なるガス抜きでしょう。結局、労働需給と労働市場の流動化の度合いが、一番重要なんじゃないでしょうか。
    一方で、日本では雇用市場が労働者に極めて不利に作られているのに、日本の労働者は自分の権利を自分で守るっていう意識が薄すぎますよね。Yukimura さんは、なんでみなさんに叩かれているか理解されているでしょうか。多少の軋轢が生じても、労働者の権利を主張するということが、自分のみならず、全ての労働者のため、究極的には労働生産性向上に役立つのです。
    そういうことを説教じみずにさらっと書いた、このエントリーには好感が持てます。

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  14. 日本では、サービス残業や名目上の管理職だとか働く人の権利どころか人権さえ危うい状況。
    市場というのは売り手と買い手が平等である事が理想だけれどハローワークで大々的に違法な派遣をしてる会社を紹介する有様。
    公務員はクビにならない事が前提なので失業保険の対象外。
    未だに終身雇用を前提にした制度の運用。
    労働市場という言葉は相当にうそくさいです。
    ストライキよりがないというより暴動が起きない現状が不思議。

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  15. アメリカの大学でTAをしていたとき、複数の新入生が「教科書が高い、いい加減にしろ」と先生に抗議というか問い詰めていたのを思い出しました。>>lakme様
    フランスだとどうなっちゃうんでしょうね?

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  16. >「教科書が高い、いい加減にしろ」
    例えば経済のマンキューみたいなポピュラーなものなら、安い古本を探して学生も自衛できるでしょうから、余程マイナーなもの(もしかして教授の自著?)を無理矢理買わせたのでは?>otoma様

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  17. 自分を追い込む日本型と、戦う型との違いですね。
    選挙権すら戦い得たものではない国ですから、自然の流れですよね。
    残念です。
    甘んじてハードワークに耐える人たちが多い日本は、
    経営者もしくは雇用者にとってはとてもチャンスのある国だと思います。

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