企業広告はセカンドライフにとって重要か

日本語版、出ましたね。最近、ちょろちょろセカンドライフに入ったり、関連文献を読み漁ったりしてる渡辺です。そんな私のセカンドライフへの関わりは、

1)ビジネス的興味/知的好奇心

がまずきっかけ。しかし、人の話を聞き、人の書いたもの読み、その二番煎じサマリーを作って理解したつもりになるだけでは、私のオタク心が満足しないので、実際アカウント作っていろいろ見てるうちに

2)はまってきた

という感じです。

「人が言っている事」だけでも、セカンドライフについて書かれた英語コンテンツは膨大にあるので、それをシャクシャクと要約するだけでも、かなり面白いんですが、オタク道を進む者としては、無駄な2)の方もやらざるを得ないと。

結果としては、1)、2)両方の側面から奥深く面白くて、山のようにエントリーが書きたくなってしまうのでした。その面白さは、単にゲームとかビジネスとしてだけではなく、「貨幣経済」「犯罪経済」「神経学的認知」など、いろいろあるのですが、今日は「ビジネス面」のそのまた一部で、「企業のセカンドライフ内プレゼンスはセカンドライフにとって大事なのか」という点をば。

まず、セカンドライフ現状のおさらい。

1.2003年に事業開始
2.2005年まで鳴かず飛ばず
3.2006年半ば頃から各種企業がセカンドライフ内に「島」を持ちはじめたこともあり、メディアで話題に
4.セカンドライフにプレゼンスを持つ企業は100社近く、政治家や政府団体までが乗り出す
5.しかし、ここ数ヶ月、企業島の不振が徐々に喧伝されるように
6.櫛の歯が欠けるように企業が撤退

(後日追記:ここでいう企業は、「広告目的で島を出すリアルワールドの企業」であって、セカンドライフ内で事業をして金儲けをしよう、という企業は含みません。それはまた別の話。)

という感じです。企業が撤退する最大の理由は

1.人が来ない
2.荒らされる

というもの。

1については、「登録ユーザー800万人といっているが、同時アクセスしているユーザーは3-4万人しかいないじゃない」という記事も見かけますが、しかし、これはLinden Labはちゃんと発表してる数字であり、ちゃんと読まずに記事を書いた人が勝手に怒っている感あり。(ずっと下のほうの、オマケ参照。)

一方、「それにしたって企業島は閑散としている」というのは本当。(こちらのエントリーに、日産、ヒラリークリントンの島のスクリーンショットがあります)。

まぁ、最大の問題点として、企業が作った島はつまらないんですな。これまで私がやってみた感想は、

「他の一参加者がせっせと作った場所、作ったものが一番楽しい。リアルな世界の企業が、『どうせ君たちこういうモンが見たいんでしょ?見せてやるよ』という感じで商業主義的に作ったものはつまらない。」

ということ。「一参加者」の中には、セカンドライフを専業にしている人たちもいるのであるが、そういう人たちはそういう人たちなりに必死だし、事業のあり方がセカンドライフネイティブモードなこともあって(ちょっとセコイところも含めて)面白い。やはりセカンドライフの本質は、ユーザー参加型のコミュニティである、というのが今のところの私の観察。

(ただし、企業島に限らず、そもそもセカンドライフの殆どの場所が閑散としているのは事実。どこに人が大勢いるか、セカンドライフ内の地図でよーく観察してからテレポートしないと、行けども行けども無人で、人類が突然消え去った後の地球みたいなのでした。これはまぁセカンドライフの問題点ではあります。これはまた今回のエントリーとは別の話なのでまたの機会に。)

2の荒らされる。これは大きな問題。爆破されたり、殺人されたり、奇妙なオブジェクトを割りこまれたり、改変されたり。何でもありのセカンドライフならでは。JTPAのセカンドライフツアーなんていう少人数の集まりですら、箱テロリストに妨害されたし。(ひたすら巨大な箱を周囲に置きまくって妨害されました)。

何があっても、基本的に、よほどのことがない限り(サーバをわざとダウンさせるとか)Linden Labは介入しない。というわけで、こんな風に店じまいしたところも多数。

さて、で、この企業撤退をもって、

「セカンドライフ、ビジネスとしてダメじゃん」

という声があがっているわけですが、ちょっと待った。

セカンドライフは企業広告で儲けているわけではないのだよ。

試算してみる。

セカンドライフに島をもった企業は100社ほど。一社当たり複数の島を持つこともあるので、企業島が200あるとする。島の値段は初期費用1675ドル、維持費295ドル。(去年の10月までは、それぞれ1250ドル、195ドルだったが、ここではそれはとりあえず考慮に入れず)。

とすると、100社全部、200島でも、初期費用の「累積」は34万ドル(約4000万円)に過ぎない。また、月々の維持費も、トータルでたった6万ドル弱(700万円)。

さらに企業島数を多く見積もって400島としても、依然としてタカが知れている。

一方、Linden Labがセカンドライフから得る売り上げ総計は、月々5-6百万ドルと試算されます。(試算by渡辺)

というわけで、この数字を見る限り、LindenLabにとっては、

「企業は、いてもいいけど、うるさいこというなら出てっていいよ」

というレベルでしかありません。

もちろん、企業が島を出すことによる広告効果は大。

「トヨタも日産もBMWもベンツもIMBもロイターもスウェーデン大使館も、みんなやってるセカンドライフ!」ということでメディアに大きく取り上げられました。(これについては、島を出した企業側も、セカンドライフに島を出すことでメディアに取り上げられるというメリットは大いにあったはず。)

こうしたニュースによる「ヘェ効果」は大きい。

ヘェ効果とは、1998年にウィリアム・ヘェ博士が考案した広告効果測定手法です。

・・・というのはもちろん嘘で、「Second LifeにXX社が島を出した」というニュースを見て、

「ヘェ、どんなところだろう」

と多くの人が思って、くらくらとアカウントを作ってしまうこと。たとえ、そのまま残る人は一部としても、売り上げ増には確実につながったはず。

実際、Linden Labが売り上げに関連する各種数値を発表し始めた昨年11月から今年の6月までの売り上げ推定はこんな感じ。(推定by渡辺)。11月から1月にかけての伸びは急速であります。

  • Linden Lab Revenues (Estimate)

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一方、企業が出て行くことより、もっと本質的な問題は、ここ数ヶ月一般会員からの収益が伸び悩んでることじゃないでしょうか。私の試算では、3月ー6月の収入は、5-6百万ドルでうろうろ。

問題の一つとして、ここのところSecond Lifeの稼動が不安定で、ワールドそのものがダウンしたり、持ち物データ、買い物記録などが消失する、といったトラブルが続いている、ということもある。どっちかっていうと、マーケティングでユーザー数を増やすより、技術的安定を図る方が優先課題という気がします。

  • オマケ:Second Lifeのユーザー数について

上で書いたとおり、セカンドライフについて、「そもそも、会員800万人が嘘」と怒る声もあるが、これは、まぁヤツ当たりである。Linden Labは、

  • これまでに登録したアカウント数
  • ユニークユーザー数(一人で複数のアカウントを持てるので)
  • 過去1週間・1ヶ月・2ヶ月にログインした人の数
  • 現時点でログインしているアカウントの数(Concurrent User)
  • 過去1ヶ月のトータルログイン時間(国別、年齢別もあるぞ)

といったものを細かく発表
ている。で、800万人は一番最初の数字。これまでに一度でもアカウントを作った人の積分値だから多くなって当然。(一応クレジットカードデータを入力する必要はある。また、同じIPアドレスから登録できるアカウント数は限られている。)

一方、concurrent userはここ1ヶ月くらいで3
-4.5万人くらい。通常のMMORGでは、経験則的にアクティブユーザーはconcurrent userの10倍とされるので、その方程式を当てはめれば、30-45万人くらいがアク
ティブユーザー。

Linden
Labが発表している「過去1ヶ月にログインしたアカウント数」は100万人強。一回ログインしてそれっきり、という人もたくさんいると思うので、まぁア
クティブユーザー40万人、というのは当たらずといえども遠からず、という数字では?

積分値的登録ユーザー数ではなく、有料会員数(月10ドル)と、トータルログイン時間を月次グラフ化したものがこちら。利用の伸びを客観的(かつ相対的)に見るにはこの二つの数値がわかりやすいかと。

  • Second Life: Hours Used & Premium Users
    (2003年9月より2007年6月まで)

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右側の軸・青の折れ線が有料会員数、左側の軸・紫の棒グラフがログイン時間です。

こちらでも、ここ数ヶ月伸びが鈍化してはいるものの、去年の半ばから急激に伸びたというトレンドが見えると思います。ヘェ効果。

というわけで、企業広告の増加とSecond Lifeの成功は一対一対応しているわけではない、という話でした。

一ユーザーとしても、ちょっとごちゃごちゃした普通の町並みみたいなところに、淡々といろいろなユーザーが住み着いていて、それぞれの好きなコンテンツをシミジミ作ってくれてる方が、ずっと楽しいメタバースになると思います。イメージ的には、表参道の裏道的、代官山的、恵比寿的、そういう自然発生界隈的楽しさです。

企業広告はセカンドライフにとって重要か」への7件のフィードバック

  1. 日テレでやってましたね。
    佐藤恵利子さんがはまってます・・・なんて言ってました。
    厳しい意見も多いようですが、じわじわと伸びるんでしょうか。
    私のPC、セカンドライフはじめると唸りだすんですよねぇw。

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  2. セカンドライフ参入関連の報道について(その2)

    セカンドライフ参入関連の報道についてというエントリーを書きましたが、広く認知されているメディアの記事に多くを期待しても仕方ないので、そちらはそちらでプレスリリースなど頑張って欲しいということで置いておきます。前のエントリーで気になっていた一番のポイント…

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  3. 日本でも、広告代理店が無理やり盛り上げようとしている、的な
    意見を良く拝見しますが、僕はセカンドライフはブログ・SNSに続く
    「個人の新しいコミュニケーション手段」にならないか/なったらいいな、
    という点で注目しています。
    文字だけを利用して、ディスコミュニケーションが発生しがちな
    ブログ・SNSよりも、もっと人の体温や尊厳が尊重される対話手段が
    ネットで登場したらいいなという思いです。
    が、荒らしやPKが乱発されている現状を見ると
    まだまだ難しそうですね。すごく期待はしているのですが。

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  4. 接続ユーザーのGPUが消費する電力から換算される炭酸ガス量は年間で○○トン、みたいな試算がそろそろどっかから出てくるんじゃないかと。

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  5. こんばんは。セカンドライフの閑散とした感じは確かにさびしい。ただ、英語ができれば、ブラジルの人とだってコミュニケーションできるのは面白い。セカンドライフは、そうゆうバーチャル世界でのコミュニケーションの面白さを世間に広めた点が素晴らしいと思う。

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  6. 初めまして!SLはどこもかしこも閑散としてますよね。
    でも、私は、人がいない分、空中遊泳して、かなり楽しんでます!
    都会では見られない夕日の美しさ。
    感動ものでした!

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  7. 全然期待してないので、ポシャろうが、マネーロンダリングであげられようが、まあどうでもいい

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