日経産業に掲載頂いたコラムです。先日JTPAでRubyのまつもとゆきひろさんにお越しいただいて「ギークサロン」を行ったのですが、その時に伺った話も踏まえて書きました。
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「日本の自動車産業が世界に冠たるものになったのは、日本政府が自動車産業を守らなかったから」という見方がある。保護された産業は弱くなる。通信機器など、国営通信会社を介して大事に育てた産業はグローバル競争では惨たんたる有様だ。だが、例外もある。
日本のソフトウエアは自動車同様、ほとんど保護を受けなかった産業の一つだが、そのグローバル競争力は地を這っている。なぜか。一つには、開発サイクルと求められる完成度の違いがある。自動車はコンセプト段階から市場投入までに十年かかることもざら。
製品化した車の完成度には人間の命がかかっている。「長い開発サイクル」「高い完成度」という組み合わせだ。一方のソフトは、少々未完成なものでも市場に出し、短期間の間に改良を加えていかなければ競合他社に遅れを取る。「短い開発サイクル」「低い完成度」という組み合わせの産業だ。緻密で職人芸を好む日本人の美学には、自動車の方が適しているといえる。
ここまではしばしば指摘されること。だが、実はそれより大きな理由がある。自動車というハードウエアが単体で動くものなのに対し、ソフト、特にパソコン上で動くものに関しては、他のコンポーネントとの連携が肝要だという点だ。
ソフトには様々なレイヤー(階層)があり、それぞれ異なる開発企業や組織が乱立してしのぎを削る。特定のレイヤーで優位な地位を占めるには、他のレイヤーから広く支持される必要がある。そのため国際的な会話能力が不可欠。業界標準制定に際しては、優位な仲間を囲い込み業界団体を作ったり、その中で自社技術の優位性を主張したりする「政治力」も必要。自分のソフトを広く認知させるためにも、細やかなコミュニケーション能力がいる。
ソフトの世界では、それなりに国内市場を押さえていても、グローバルな勢力に押し切られる傾向が強い。国内で一世を風靡した「一太郎」、「花子」、そして「98パソコン」もマイクロソフトの波に飲まれた。連携が重要ゆえに孤立した市場を守るのは難しく、グローバルに優位に立つことが極めて重要だ。
日本のソフト業界になぜそれができないかといえば、グローバルビジネスのデファクト言語である英語が苦手だからだ。世界的に普及する日本発の開発言語に「Ruby」がある。島根県在住のまつもとゆきひろ氏が一九九三年から一人で開発したものだが、二〇〇一年からは毎年米国でRuby開発者を集めたコンファレンスが行われ、数百人の参加者が集う。
世界各国でRuby関連本が出ており、日本語と英語で運営されるメーリングリストも、〇二年からは英語の登録者が多く、今では毎日二百通程度が交換される。
まつもと氏は学生時代に二年ほど英語を多用する活動をしていたことがあり、Rubyが世に出始めた当初から英語でのコミュニケーションが可能だったという。もちろん、Rubyが技術的に優れた開発言語だったことが前提だが、開発者の英語コミュニケーション能力が普及を大いに助けたのは間違いない。
「英語で仕事ができるようにする」という目的を定めて義務教育できちんと教えれば、「英語が苦手」という理由で日本発ソフトが普及しない現状は改善できるのではないか。
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以上が掲載文ですが、ちなみにですな、私の元原稿の最後の段落は下記の通りでありました。
「英語で仕事ができるようにする」という目的をきちんと定めて義務教育の間にきちんと教えれば、英語ぐらいたいていの人ができるようになるはず。「英語が苦手」というつまらない理由で日本発のソフトウェアが中々でてこないのは、歯がゆい限りである。
「・・・・ではないか」という終わり方、基本的に嫌いなんですよね。自分が読者として読んでるとき、
「私に聞くなよなぁ。意見があるならはっきり『・・である』と言い切ってくれよ。」
と思うので。今回、修正版を頂いたとき、
「むむ、何かがおかしい。」
と思ったんですが、ばたばたしてて何がおかしいか検討する余裕もなく、大体いいか、と「OKです」と言っちゃったんですけど、今もう一回読んで後悔。
マーケティングも、性能と同じくらい大切では?ソフトにおいては、
「いい内容のものさえ作れば売れる」
が一番失敗する発想だと思います。「このソフトが売れないのは、ソフトの内容を見ない人間が多いから」的な「私は悪くない発想」みたいな。(私が「ソフトにおいては」と思う理由は本文に書いたとおりです。)
・・・だし、求人広告に特定の項目があるかどうかと、それを見る人がデファクトを信じるかどうかは別問題ですし。
・・・だし、日本以外の国では、きちんと内容を評価した上で、デファクトじゃないものを買う人がいっぱいいるなんてこともない。(だったら、そもそもデファクトなんて言葉が頻繁に使われるはずもない。)
あと、通りすがり-san,
日本の英語教育、別に今以上のお金・授業時間をかけなくても向上できるんじゃないかと思います。要は、「読んでわかるものは聞いてわかるようにする」だけで、相当コミュニケーション能力は向上する。別に「英語が話せる先生」を導入する必要もない。テープとかいろいろあるし。とはいうものの、大学入試に導入して、あとは自助努力に任せる、というのが、一番ローコスト・ハイリターンな策かもしれませんね。
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現在の一太郎の売り方は、Officeでは物足りない・使いこなせないユーザーをターゲットにして、それなりにマーケティングを意識していると思います。
プレバンドル市場を抑えているマイクロソフトには正面切って競争をいどんでも勝ち目はありませんから。
バージョンを重ね、販売を続けていくことを勝利目標としているなら、善戦していると思います。
グローバルな競争はパッケージソフトから、WEBサービスに移っていると思います。
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久しぶりの投稿です。既に各論のお話になっているようで恐縮ですが。
日本でパソコンのソフトウェア産業が育たないのは、中小零細企業、もっといえば、汎用的に使われるソフトウァは個人のフリーウェアが主体であるからではないでしょうか。
他方、家庭用ゲーム機器ならば、グローバルスタンダードで、国際的に著名なソフトウェアも数多く輩出しています。昨今のアキバ系文化しかりです。
などの前提で考えますと。
・日本は、特に昭和中期以降、ベンチャーには適さない国になっている。
・そもそも世界を見ていない作者が多い。
・情熱を注げるのは、ビジネスでは無くホビー。
・日本語の壁と英語の壁。
などと言う考察結果に至ります。
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快密度と快頻度という概念と英語とソフトウェアについて
トラックバック。
快密度と快頻度という概念をノードパッドを作っていく中で思いついた。
快密度はセックスしたときに高くて、電車に乗っているときには低い。
快頻度は、電車が一度…
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お初です。
なんかchikaさんを論駁したくてコメってる人もいるような気がします。
僕も↑の方も仰ってるように、世界を見ていない作者が多いんではないかと思います。
日本は島国だから世界に触れる機会が他国に比べると圧倒的に少ないから、猿山の大将で満足できてしまう人が量産されているんではないでしょうか。
自分が見てきた世界の中で一番になれればそれでいいのさ!ウキー!
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「ソフトウエアの弱い分野もある」と言った方が良くありませんか?
一番競争力のある工作・一般機械や、例題の自動車や家電製品なども、ソフトウエアで動きます。
一時世界を制したゲームも、ソフトウエアです。
戦前、自動車に限らず多くの分野が、アメリカ企業に支配されていた。高度成長期は戦時体制がそのまま続いていた。 By野口 悠紀雄
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chikaさん、美人ですね。
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久しぶりに、自分にとって読む価値のあるブログに出会えました。(遅すぎたけど。)
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