去年の7月に公開され、12月にDVDになった映画。「キアヌ・リーブスが出てるSF、しかもPhilip Dick原作」というんで見ました。以下感想。予告編以上のネタバレなし。
一言で言うと「Philip Dickが好きだったら絶対見るアルよろし。」
デジタルで一旦映像を撮影、それを画像処理しながら手書きのアニメーションを重ねていく、という超凝ったInterpolated Rotoscopingという手法で作られた映画。
時に完全な劇画調、時に劇画と実写の中間、といった感じで揺れ動く。さらにホンの一瞬、完全な実写に見える瞬間がある。
ドラッグ、監視社会、揺らぐアイデンティティ、救いのなさ、死、といったテーマの映画なのだが、画像そのものがアニメーションと実写の間を揺らぐことで、麻薬中毒患者から見た幻覚の世界が臨場感を持って表現される。
Rotoscopingそのものは、1900年代の初めの頃からある技術だが、A Scanner Darklyに使われたツールを開発したのは、うちのダンナの大学時代の寮でお向かいだった人だそうな。今回の映画でも開発者本人がアニメ化責任者として雇われたのだが、ツールがあれどもアニメ化プロセスはとっても労働集約的。で、開発者氏は、
「まともなアニメータを雇う予算がない」
と、絵心のあるアーティストを集めてRotoscopingを始めたのだが、監督の希望するレベルのものができず途中で首に。以降、監督側が、今度はちゃんとしたアニメータでチームを組成してやり遂げたそう。
(つまり、アニメータ>普通のアーティスト、という価格体系なんですね。)
デジタル映像の撮影が終わってから、アニメ化が終了するまでに、結局18ヶ月もかかったと。元映像の方も、演じるのは、キアヌ・リーブス、ウィノナ・ライダーといった、ちょっとキワモノ感はあるがメジャーな俳優。それを贅沢にアニメ化しちゃったわけです。
さて、実際見てみると、この「実写ベースアニメ映像」、最初のうちはかなり鼻に付く。また、ストーリーも、出だしは特に大きな事件もなく、ならず者暮らしのダメ人間描写がダラダラと続く。(一緒に見ていたダンナは、30分でイビキをかいて寝てしまった。)
しかし、最後まで見ると、意外な暗転が。(暗い映画がさらに暗くなるのだ)。また、アニメと実写の揺らぎの不安定さにも段々吸い込まれ、最後にはその狂った世界観にどっぷり浸ってしまう。
さらに、最後まで見てからストーリーを思い起こすと、あちこちに微妙な伏線があったことがわかり、もう一度見ずにはいられない。
「最初はなんとも思わないが、だんだん興味をひかれてしまう」という意味で、
「~grows on me」
という表現を使う。A Scanner Darkly is the kind of movie that grows on meなのであった。
「Scanner Darkly」は聖書から取られた言葉だそうですが、映画の中でもキアヌリーブスの暗いモノローグに登場する。このキアヌ・リーブスという人、エッジーなSFがはまり役ですな。MatrixとかJohnny Mnemonicとか。今回も期待を裏切らない。
というわけで、SF、Philip Dickというキーワードでピクッとする人は是非ご覧くださいませ。Philip Dickは「Blade Runner」の原作、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を書いた人。A Scanner Darklyは彼の半自伝小説で、Dick自身のドラッグ歴、アウトロー歴を多分に投影した作品とされてます。私は原作読んでないんですが、Amazonのレビューには
「これまでDickの小説の映画化はどれも期待はずれだったが、今回は原作より良いかも」
と激賛している人も。あと、Dickではないですが、David Lynchの映画、Mullholland Driveが好きだったら、A Scanner Darklyも好きかも。「幻覚的ストーリー」繋がりということで。
ちなみに、SF、Philip Dick、Blade Runner、といったキーワードがいずれもピンと来ない人は、ほぼ確実につまらないと思います。あしからず。
私もこの映画は楽しめました。ただBlade Runnerには勝てないかな?と思います。
ディック原作の映画ってたくさんありますが、Blade RunnerとA Scanner Darklyが今のところのマイベストです。
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すでにDVDがっ。先月まだ東京で上映中になんとか間に合いましたです。というか、はずかしながらPhilip K. Dick作品の訳書の90%以上は網羅しているワタクシとしては、映画かされたものもほとんどチェックしておりまする。あ、はい、廃刊になったサンリオSF文庫での訳書も「アルベマス」以外はすべて持っておりまする。
個人的にはロバート・ダウニーJrの自分の実体験に基づくかと思われるジャンキー成り切りぶりが印象的でございました。参考↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/ロバート・ダウニー・Jr
そういえばウィノナ・ライダーも中毒更生施設ものの映画に出てましたが、実力派俳優ばかりですね。Anaheim近辺を想定したロケ地というのも、LAのあのどうしようもない快晴から来る虚無感(死語?)とか、じつは実際あんな生活してる人が居るだろうと実感させられますねぇ。
ちなみにDickはOaklandあたりにかなり住んでいたはずでは。あと、墓石には飼い猫の肖像が彫ってあるそうなので、猫好きDickファンとしては一度探し出して墓参りなど行きとうござりまする。
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SF,アシモフ、ニーブン、ホーガン辺りに反応する人はどうでしょう?
おまけ:http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/1460/data/what.html
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プロピア
プロピア
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初めてコメントさせていただきます。
ディック好きで原作も読んでいながら、
映画はなんとなく見逃してしまっていたのですが
こちらのレビューを拝見して是非見ないと!と思ってしまいました。
ps.小生、ブログもさることながらムスビ猫の大ファンなんですが、近況いかがですか?
また愉快な写真を拝見できることを心待ちにしています。
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リンクレイター監督、原作に忠実にきっちり描いたという感じでした。日本でも早くDVD出ないかな~と思っています。
浮遊感や思想性、グラグラ眩暈感は前作のアニメ作品「Waking Life」の方が数段、上でその分、眠たさも倍増するのですが。あとリンクレイターさんといえば、恋愛映画「Before Sunset」など、多彩で実験的で好きな監督です。
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年末に劇場で見ました。
このアニメ化相当手間かかってるみたいですね!
アニメでなくても・・・という気もしましたが、
見てよかったです。
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chikaです
>DickはOaklandあたりにかなり住んでいたはずでは。あと、墓石には飼い猫の肖像が
う、そそります。
>ムスビ猫の大ファンなんですが、近況いかがですか?
一旦6.2キロまで落ちた体重も、元の木阿弥で現在6.5キロとなりました。それでも前より300グラムくらいやせたんですが。とっても小食なんですけどねぇ・・。
>「Waking Life」
これも、同じアニメーションツールを使ってるんですよね。。。
>アニメでなくても・・・という気もしました
これは、私も考えたんですが、やっぱり、現実と非現実をさ迷う感じは、rotoscopingならではのもの、という気がしました。どうでしょね。
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chikaです。
お返事し忘れましたが、
>SF,アシモフ、ニーブン、ホーガン辺りに反応する人はどうでしょう?
うーん、もしかしたら、ちょっと頭痛くなるかも、という気がします。でも、試しにご覧になってみては??
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千賀さんがSFオタクというのが非常に不思議だ。カート・ヴォネガットとか読みます?
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> >SF,アシモフ、ニーブン、ホーガン辺りに反応する人はどうでしょう?
>
> うーん、もしかしたら、ちょっと頭痛くなるかも、という気がします。でも、試しにご覧になってみては??
ココで冒頭部分をたっぷり見られます。試しに食すにはちょうどよいかも。
http://media.filmforce.ign.com/media/670/670907/vids_1.html
ついでに、、Philip K. Dickのインタビュー映像も見つけました
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プラダを着た悪魔 (特別編)
原作者は、ヴォーグ誌で編集アシスタントを務めた経験を持つ女性作家。ベストセラーの映画化としては、本作はひじょうにうまくいったパターンだ。一流ファッション誌「RUNWAY」の編集部を舞台に、部下を人間とも思っていないスゴ腕編集長ミランダと、ファッションにはまったく興味を持っていない新アシスタント、アンディの丁々発止のドラマ。成功の要因は、まずキャスティングだ。ミランダ役のメリル・ストリープは、下手をしたら“やり過ぎ”に陥るアクの強い役で、持ち前のコメディセンスを最大限に発揮。アンディ役ア……
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ディックは「アイデンディティーの喪失」をテーマにしたものが多いですね。私もディックファンです(ブレードランナーと電気羊はAmazonのレビューも書きました)
ディックの死後これだけ原作を映画化されるのは
映画との相性が良いからではないでしょうか?(特に
CGSを使った映像が)
私的には「高い城の男」を早く映画化して欲しい。
久しぶりに映画館へ足を運びたい気持ちになりましたよ。
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