ビジネスを買って起業する

New York TimesのWhen Buyinga Diamond With a Mouse。(有料です・・。登録すれば14日間無料トライアル可能。)Blue Nileというオンライン宝石店のお話。

Blue Nileについては2003年に「来年のbig IPO候補」というエントリーで書いたが、その後2004年に順調にIPOし、2005年の売上が2億ドル超。メイン商品は婚約指輪。前に書いたエントリー(のコメントに私が書いたこと)を抜粋すると

アメリカでは、婚約指輪は男性が一人思い悩んで決意して買って、心臓バクバクで「結婚してください」と言って渡す、という昔ながらのプロポーズがま
だ主流。買う側の男性は、知人・友人を頼りにすることが多い。それでも、宝石屋に入るのは恥ずかしいし怖いし、信頼できるオンラインショップは強い味方。

Blue NileのCEOのMark
Vadonは、私の大学院のクラスメート。Markは、大学院の前はコンサルティング会社のBainで働いていたが、大学院に通う間もパートタイムで
Bainの仕事をしていた。ので、最低限しか学校に来なかった(と記憶している)。で、卒業後もBainに戻るがすぐにBlue Nileを起業、現在に至
る・・というのは知っていたが、その起業の経緯が詳しく載ってたのがNew York Timesの記事。

いわく

Mr. Vadon stumbled on Mr. Williams’s site after a frustrating visit
to the Tiffany’s in San Francisco, where he had gone in search of an
engagement ring. This was late in 1998, and Mr. Vadon, a recent M.B.A.
graduate from Stanford, was a well-paid management consultant at Bain
& Company.

Yet as he tells it, the sales clerks initially
ignored him, presumably because he was dressed in a T-shirt, shorts and
Birkenstocks. He felt still more exasperated once one of their lot
deigned to wait on him and was not much help. ”He said, ‘Buy the one
that speaks to you,’ ” Mr. Vadon said. ”And I’m thinking, ‘This is
absolutely nuts.’ ”

Tiffanyに婚約指輪を買いに行ったら冷たくあしらわれ、さらに店員に

「心に訴えかけてくるような指輪を選んだら」

という意味不明なアドバイスをされムカツいた、と。そりゃそうだ。指輪のよしあしがわかるアメリカ人の男はまず100人に1人もいないでしょう。(しかも、彼がTiffanyで検討した指輪は1万2千ドルと1万7千ドル、と記事にはある。この値段のモノを買おうとして冷たくあしらわれたら怒りを感じる、確かに。)

ちなみに、私の愛する新聞の人生相談、Dear Abbyによりますと、「婚約指輪は女性と一緒に買いに行くもの、なぜなら女が気に入るようなデザインを男は選べないから」とありましたが、うーん、東海岸ではそうなのか?でも、Sex and the Cityでは、主人公の女性が、彼氏が買った婚約指輪を盗み見て、そのあまりの醜悪なデザインに眩暈がする、というエピソードがあったし。私の周りでも、Mark同様、男が決意して買ってるケースが多いです。(ちなみに、うちのダンナは、石だけ買って仮の指輪に仮止めしたのをくれた。その後私がデザインを選んだ。この辺が落としどころかな。)

話をBlue Nileに戻すと、Tiffanyの最悪の経験のあと、Markはオンラインでリサーチ、シアトルにあるオンラインショップから6000ドルの指輪を買う。

By chance, Mr. Vadon was in Seattle on business a few weeks after he
bought his engagement ring, and he stopped at Mr. Williams’s store.
When Mr. Vadon offered that he had probably been a very good customer,
Mr. Williams told him not really: he sold one or two diamonds a day
online, and at just under $6,000, Mr. Vadon’s purchase was more or less
an average sale.

購入から数週間後、たまたまシアトル出張の機会があったので、オンラインショップをやっている店に出向いて、
「6000ドルもする指輪買う人ってあんまりいないのでは」と聞いたところ、「いや、それくらいが平均単価で、毎日1つか2つ売れてる」という返事。

Standing inside Mr. Williams’s modest, two-employee store near the
Seattle airport, Mr. Vadon did a quick calculation in his head. At that
point he may have known little about diamonds, but he recognized that
an Internet site that cleared $250,000 a month in revenue despite no
advertising budget and a bare-bones design could be extremely valuable.
So at dinner that night, he offered Mr. Williams $5 million, which he
did not have, for an 85 percent stake in his company — a deal penciled
on a napkin and contingent on his raising the money.

ということは。月あたり売り上げが25万ドル。広告宣伝ゼロ、サイトは最低限の機能のみ。(しかもこれ、1998年のお話。)「これはすごい」と思ったMarkは、その夜、ショップオーナーと食事をし、その場で

「会社の85%を5百万ドルで買う」

とオファー。ただし、5百万ドルはこれから集めてくる、と。言葉どおり、ベンチャーキャピタルから6百万ドル集めて会社を買い、1999年にBlue Nileと改名、現在に至る。

というわけで、「会社を買って起業する」。

これ、ビジネススクールのアントレプレナーシップを教えていたGrousbeck教授がかなり強調してました。いわく、

「アイデアなどなくてもアントレプレナーになれる。ビジネスを買えばよいのだ」

と。「サーチファンド」という、会社を買うための資金調達方法も彼のご推奨。「何を買うかわからないけど、私が買って経営します」という「会社買収プラン」だけを元に、お金を出してくれるところを探してファンドを作る。その上で買う対象の会社を探しましょう、と。当時は「テキサスの石油富豪とかに頼むといいです」てなことを言っていたが、private equityもventure capitalも豊富にある昨今は、その手の投資家から集める方が楽そう。それに、買収対象が決まってから資金調達する方が説得しやすそうでもある。ま、どういう業界をターゲットにするかにもよるとは思いますが。

Grousbeck本人は、ハーバードのビジネススクールを出て20代でケーブルテレビの会社を始めて一山当てて楽隠居的教授業をやっている人。楽隠居といっても本格的で、最初ハーバードで教えていて、その後引き抜かれてスタンフォードにやってきた。その教えの一つが

「『誰かに指示されるのではなく自分のために働きたい。だからアントレプレナーになりたい』という願望も十分立派なアントレプレナーシップの種」

ということ。「すばらしいアイデアを持ち、それを実現するために起業する」というばかりがアントレプレナーではない、と。

Markはそれを実現したわけですね。

余談ながら、9/11のあと、うちのダンナが仕事でBlue Nileに行ってMarkやら、CTOの人やらに会ってきたのだが、その時

「9/11以降婚約指輪の売上がものすごく伸びた」

と聞いたそうな。9/11というクライシスを見て、「愛する人と過ごせる時は限られているかもしれない。早く結婚しよう」といった人が、当時は全国的に非常に増えたのでした。

ビジネスを買って起業する」への4件のフィードバック

  1. まったく同じ趣旨のクラスが母校INSEADでもあります。卒業生で既にあがったアントレ金持ちおっさんが余暇を楽しむため(+いい案件があればAngleとして投資するため)にRealizing Entrepreneurship Potentialというクラスを自ら作って教えに来ています。各グループは学生だと対象会社がまともに相手にしてくれないので偽の投資会社の名刺やアドレスを作って、実際の企業をブローカー等を使ってサーチし、ピッチ、DD、条件交渉し、その結果を纏めた内容を実際のPE/VCにプレゼンするというプロジェクトで、過去10年?の間に実際にスポンサーがついたプロジェクトのうちうまくいったのも何件かあるそうです。

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  2. 主題は後ろの10%ぐらいのところにありましたが、今だアメリカのピュアな男性の様子がおもしろかったです。いーなー、日本は基本的に「かかあ天下」だからなああ。。。

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  3. Blue Nileを使って婚約者が今必死に指輪を選んでくれてます。店で買うよりめちゃめちゃ安いし、情報も最高!とお気に入りのよう。背景にそういった内容があるんですね~。で、ところで日本で結婚して日本でビザ申請しようと2ヶ月前から企んでいたのに、「昨日日本での結婚による移民ビザ申請は受け付けなくなりました。即執行します」と今日通告が。。。指輪だけあってもね。。。

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  4. ピンバック: 人造ダイアモンドでファッションジュエリーに進出するデビアスのブルーオーシャン戦略 | On Off and Beyond

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