IPOはタイムマシン

11月9日の日経産業に掲載いただいたコラムです。ただし、ワタクシの元原稿。実際に掲載されたものは変更があるかもしれません。「株式市場は、将来のウベカリシ利益を、今のお金にして発明者にくれるタイムマシン」という話。

ドラえもん「のび太君、のび太君の発明した技術が将来世界中の人に使われて、のび太君が作った会社は世界1の大企業になるよ。」
のびた「ええ!すごい・・・・」
ドラえもん「将来の儲けを、未来から僕が持ってきてあげたよ。」

みたいな。以下本文です。

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グーグルがユーチューブを十六億五千万ドルで買収することを発表した。ユーチューブは動画配信サイト。誰でも無料で気軽に動画を投稿できる。毎日一億本の動画が視聴されており、アクセスは世界中からある。米国の動画配信サイト利用のうち半分近くがユーチューブ。この五月には、日本国内からのアクセスでも、国産サイトを差し置いてユーチューブが最大の視聴者数となった。

ユーチューブは二千五年二月創業で社員約七十人。たった二十カ月の間に、二千億円近い企業価値になったことになる。サイトへのアクセスこそ著しく多いが、一般ユーザーの利用は全て無料。有料の広告を掲載し始めたのはごく最近で、利益はおろか、売り上げもまだあがり始めたばかり。そんな会社に数千億円の価値が付くことに違和感を持つ方もいるだろう。買う側のグーグルも創業してたった八年で十七兆円近い価値がある。株式市場という直接金融が生み出した価値だ。「製品を売ってなんぼ」というものづくりの発想からすれば机上の空論である。

さて、机上の空論かどうかはさておき、直接金融の大きなメリットは、イノベーションを生み出す人、つまり「研究開発の人」をリワードできること。今回のユーチューブの例でも明らかなように、「アイデアを考え出した人」「製品やサービスをゼロから作り出した人」に大きな富が与えられる。

事業というのは、なんでも大きくなるには長い時間がかかるもの。多額の利益が出るころには、一番最初にタネから事業を育てた人はもう携わっていない、ということも多い。融資で事業を育て、その事業が生み出した価値を利益分配で社員に還元する方式では、すぐには商売にならない「研究開発の人」は埋もれがち。富も名声も集まるのは、過去にできたものを上手に売る「営業の人」となる傾向が強い。「研究開発の人」は、プロジェクトXよろしく敢えて発掘しないと見つからない無名の人として消えていく。

一方、株式市場は、将来の価値を現在におき戻してリワードを提供する「事業のタイムマシン」。未来の国からやってきて夢を与えるドラえもんよろしく、先々生み出されるであろう価値をまとめて「研究開発の人」を報い、「研究開発こそクール」という風土を生み出す。

ここ数十年の日本では、直接投資は少なく融資が中心。それと、日本から世界に躍り出る新規ビジネスが少なく営業力依存型事業が多いのは、無関係ではないだろう。

 

IPOはタイムマシン」への13件のフィードバック

  1. 特にインターネットを媒体にした新しい事業は,普及のスピードもサービスの受け手の大きさも従来型の産業とは比較になりませんものね。評価が出る速さも,つけられる価値の莫大さも,これまでは考えられなかったくらいです。
    以前役所で制度融資を担当していた頃に聞いた話。今の日本の銀行員は融資先の与信審査ができないのだそう。融資するしないの判断は専ら地域の信用保証協会の審査に委ねられているのですって。
    今ワタシのいる部署では行政評価に関わっています。最近になって人事評価も始まりました。でも日本人って「評価」が本当に苦手みたい。何でもあいまいがウツクシイ,と思っているんじゃないかと思えてしまいます。なんだかまとまりのないコメントですみません。

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  2. 横レスですが、
    日本人が評価が苦手、に同意します。私自身は、日本では評価と人格を切り離して考えることがなされていないからかな、と予想しています。良くも悪くも。
    元のエントリとそれてすみません。

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  3. 日本人は評価が苦手なわけではなく、日本人は「日本人が評価が苦手」を言い訳にしているだけだと思います。
    「日本人は論理的思考が苦手」「日本人はプレゼンテーションが苦手」「日本人はチームワークが苦手」「日本人は意志決定が苦手」「日本人はディベートが苦手」も同様でしょう。そんなもの生まれつき得意な人などいませんよ。
    「日本人は英語が苦手」もほぼ同様。英語ネイティブな人を除き、苦手だからこそ勉強するんです。たしかにラテン語圏の人に比べれば敷居が高いのは事実でしょうが、その理屈で言えば、日本人は皆韓国語がペラペラになってるはずですよ。

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  4. chikaです。
    苦手なのか言い訳なのか・・・・。私的には「嫌いなんじゃない」と思っています。つまり、日本人は評価が苦手なんじゃなく、嫌いなんじゃないかと。
    評価とは多くの場合主体性を伴います。よって、評価が間違っている場合の責任は、評価する人が負う。その代わり、評価がうまくいったときのメリットは評価する人に返ってくる。このリスクリワードのバランスが取れてないから日本人は評価したがらない。(評価して得るものが、評価が間違っていた場合のリスクに比べて低い。)
    とはいうものの、この「バランスが取れてない」というのは「原因」ではなく、「評価したがらない」ということに付随する「現象」かな、と。もしくは、全て絡まりあった出来事かなと。(どちらかが原因で、どちらかが結果なのではなく。)
    いずれにせよ、日本人は評価が嫌いなんじゃないでしょうか。嫌いだから、評価が報われないシステムができてるんじゃないの、と。
    can’t doじゃなくって、don’t want to doかなと。

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  5. 日本で融資ばかりになっていて、融資がなかば資本化してしまっているのは、株式市場があまりにもプアーだからですよね。。。上場するなんてえらいことだし、いまだにマーケットは、企業の経営内容や業績ではなく、株価だけで動くし・・・。うちのお客さん(証券向け情報サービスやってるのですが)でも株のキーしか磨り減ってないところ多いし。。。でも少しづつ良くなってると思うので、未来に期待です。最近のIPO銘柄一覧とかみてると、少し気持ちがやわらぎますよ~~(ひさしぶりのとんぽ~ろ~でした)

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  6. あ、話題の中心は日本人の評価能力でした。。。昔、ホンダの社長は何のバックグラウンドもなく大銀行に出向いてアイディアだけを説明し「融資してくれ」と言ったとかなんとか。。。昔は経営者の心意気で融資してる銀行もあったと思います。今の銀行はだらしないけど。。。株式市場については、株を買うほうが業績や未来の経営方針で評価できない理由は、ただ一つ、バブル以降、株価が連動してないことだと思います。状況が整備されれば、変わると思いますが・・・。

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  7. あいまいさを訂正&反省。「苦手」は,「カーブが苦手」「バントが苦手」(打者)という単にスキルの問題ではなく,「ネズミが苦手」(ドラエモン)の意です。だからchikaさんの指摘のとおり。まるさんのコメントもうなずけます。
    昨年は失敗学会の飯野先生をお呼びして職場で講演していただきました。サンノゼに住んでいる方ですがchikaさんご存知ですか?
    特に悪い評価を下さざるを得ないもの(失敗)については詳細な評価・分析が必要なのに,みんな下を向いて禊(責任をとらせること)ばかりに思いがいき,嵐が通り過ぎるのをじっと待つという雰囲気があります。評価を好きになれとまでは思わないけれど,評価をすることが大切,評価を怠ることは向上を怠ること,しっかり評価しなくてはならないという覚悟が広く浸透してくれたら,と思うのです。
    やや元ネタに戻りますが,アメリカでは一度会社を起こして倒産させた経験のある企業家のほうが,融資(もしくは投資)を受けやすい,というのを以前聞いたのですが本当ですか?

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  8. chika-です。
    とんぽーろーsan
    >株のキーしか磨り減ってない
    なんかリアルですねぇ。ははは。テクニカル分析ってコトで。。。違うか。みんなが業績(や将来性)見て株を売買すれば、株価と業績が連動すると思うんですけど、うーむ、鶏卵・・・・。
    ユキエsan
    実は私、すぐ謝ろうとする人が苦手。そういう人に限って、「謝ったら嵐が通り過ぎるんじゃないか」と、世を甘く見てる気がしますです。厳しいかな。
    飯野さんは存じ上げないです。。ベイエリアにも知らない日本人の方がたくさんいるんですよね。
    >一度会社を起こして倒産させた経験のある企業家のほうが,融資(もしくは投資)を受けやすい
    これは、前提条件がありまして、「二人の起業家がいて、他の経歴が甲乙つけがたくスバラシイ場合」というのがそれ。世の中厳しいですねぇ・・・

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  9. いつ削除になるか分からないお宝動画を保存しておきましょう

    【情報屋】店主の鎌田ですバックナンバーさん。いつも読んでいただいてありがとうございます^^メルマガ受信解除URLhttp://jyohoya.info/sale/index.htm ID:u87165625(読者数が1,000名付近になったあたりから、「購読を解除して下さい」といったメールをいただく様……

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  10. [転職]ソフトウェア産業の究極の振興策

    http://blog.gcd.org/archives/50816826.html それなりに物議をかもしているようなのでメモ. ああ、この人もソフトウェアをモノと誤解している人なんだ。 ソフトウェア以外の分野、たとえばバイオや新素材などでは優れた発明・発見がビジネスに直結する。真に有効なモノ (…

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