ナスダックとジャスダックとイギリス新興市場比較

新日本監査法人のIPOセンサー秋号に掲載いただいたコラム。ジャスダックとナスダックとロンドン新興市場の比較です。ちょっと前に、イギリスAIMは上場のオフブロードウェーですというエントリーを書きましたが、そこから発展させてみました。ジャスダックとナスダックが相互乗り入れするみたいですが、その後はどうなるんでしょうか。

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2006年6月に、シリコンバレーに新しくできたフォーシーズンズホテルで、ロンドン新興市場(AIM)のセミナーがあった。Kirkpatrick & Lockhartという米国の法律事務所が開催したもので、ロンドン新興市場から大勢の関係者がやってきてあれこれとプレゼンをした。要は「上場勧誘セミナー」。SOX法などでアメリカでの上場が難しくなる中、「AIMだったら簡単に上場できますよ」という営業のために、はるばる海の向こうのイギリスからやってきたのである。

上場企業減少は、アメリカの証券市場にとっても頭の痛い問題。2005年のIPO数は、ニューヨーク証券取引所、ナスダック、アメリカン証券取引所の3大取引所合計で221社。一方ヨーロッパの証券取引所のIPO合計数は603社と3倍近く、AIMだけでも335社と米国の総数を凌駕している。「アメリカの国際金融センターとしての地位を揺るがす由々しき問題」と、ニューヨーク市のEconomic Development Corporationがコンサルティング会社のマッキンゼーを起用、米国証券取引所の国際競争力調査を行うと9月に発表したくらいだ。

さて、ナスダック、AIM、ジャスダックの三つの市場を比較するとこんな風になる。

  • Nasdaq

上場企業総数:3200社
平均企業価値:1400億円 ($12億)

2005年IPO数:126社

2005年IPO調達金額:総計1兆4千億円 ($123億)

2005年平均公募売出額:110億円 ($9800万)

  • AIM

上場企業総数:1500社

平均企業価値:100億円 (£4600万)

2005年IPO数:335社

2005年IPO調達金額総計:1兆2千億円 (£56億)

2005年平均公募売出額:37億円 (£1670万)

  • ジャスダック

上場企業総数:970社

平均企業価値:140億円

2005年IPO数:65社

2005年IPO調達金額総計:1980億円

2005年平均公募売出額:30億円

(出典:Investec, Nasdaq, Jasdaq, 新日本監査法人)

日本の新興市場が「ナスダックに追いつけ追い越せ」というのは威勢はいいが、はっきり言って無理。現実感がまったく伴わない。しかし「AIMくらいだったら行けそう」という感じはしませんか?

AIMの平均企業価値は総額2000億円を超す一部の企業が押し上げており、実際に一番多いのは20億円から50億円程度とごくごく小粒。平均公募売り出し額も日本と殆ど変わらない。AIMでは、こうした小粒振りをメリットとし、「小粒会社が上場しても大海の一滴にならない。企業価値100億円程度の会社がナスダックに上場しても見向きもされない。」とアメリカのベンチャーにAIMでの上場を勧める。さらに上場維持費用も、ナスダックでは、SOX法準拠費用だけで2億円超、それ以外のコストも足すと年間5億円近い。一方AIMでは1億円程度。この辺も日本は対抗できそう。

AIMが面白いのは「上場条件は個別企業毎に応相談」という点。企業ごとに証券取引所側が認定するNomad (nominated advisor)と呼ばれるアドバイザーがつき、上場審査を行い、また企業に対してAIM公開企業としてどんな責任が生じるかを説明。Nomadは上場後も担当企業をサポート、コンプライアンスのチェックや、株価維持・機関投資家向けIRのためのアドバイスを行う。Nomadがいることで、小さな企業でもきめ細かく対応でき、上場後も埋もれていかないとのこと。Nomadを失った会社は上場取り消しとなることでもNomadの重要性は明らか。

一方、AIMは「小粒会社がたくさん」という市場でありながら、取引の95%は機関投資家。ナスダックですら、リテールの一般投資家が25%もおり、ジャスダックにいたっては株数ベースで65%が個人所有。ということでAIMの「プロ相場」ぶりが目立つ。また、アメリカの企業が日本での上場を考える際の大きな懸念の一つが「取引額が小さく、流動性が低い」という点で、これに関しては、AIMの一日取引額は600億円弱と、ナスダックの4000億円超に比べると少ない。しかし、「実は機関投資家同士の直接決済が多いので、実際に取引される額はもっとずっと多い」とはAIM担当者の弁。Nomad制度に加え、この機関投資家の多さは、金融センターとしてのロンドンの伝統が感じられるところ。いずれも、昔からの伝統で金融を行ってきた街ならではの知恵の蓄積、層の厚さが感じられる。

とはいうものの、上場する企業の規模では、日本も大差ない。ロンドンがミニ・ナスダックを狙うなら、ジャスダックは、少なくとも「アジアのナスダック」くらいは狙えるはず。中国や韓国など、周辺国からの上場を増やしアジアの金融センター化することも日本の圧倒的経済力から見れば十分可能。・・・とはいうものの、やはり最大の難点は言語か。日本語を国際言語化するのはやっぱりちょっと難しそうである。

ナスダックとジャスダックとイギリス新興市場比較」への9件のフィードバック

  1. 初投稿です。いつも楽しく拝見させてもらっています。
    私はテキサスのAustinに現地ベンチャー企業との合弁事業立ち上げで着ています。
    先日給料の件でシリコンバレーのソフトウェアエンジニアの件が書かれていましたがこちらではシニアエンジニアで年棒$80,000-120,000位ですがそれでも日本と比べると何とも羨ましい限りです。
    さて今回は上場のお話でしたがこの会社、ipodで有名な所と提携を取り付け社員も激増しているのですが、こういったケースで最終的に会社の目論見どおりにいく可能性はどの位あるもんなんでしょうね。
    日本だと年商10億円が新興市場上場の目安らしいのですが、それはクリアしています、このプロジェクトが成功すれば上場成金が一杯出てきそうで、ここで私も山っ気が芽生えました。
    上場前の会社なんで株式なんかが買えればいいなーと思っていますがそれも難しいのでしょうね。
    長文失礼しました。

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  2. こんにちは
    いつも拝見していますが久々の投稿です。
    「アジアのナスダック」ですか。そんなところでしょうね。
    ジャスダック市場の個人保有・売買が多いことは知っていましたが、やはり流動性の問題なんでしょうか。最近、アメリカのダウ同様、日本においても大型優良株に買いが集中し、新興市場の中小型株は売り一色といった様相(先週末で落ち着いた可能性あり)ですが、もし流動性も一因となってディスカウントされているとすれば、個人投資家にとってはそろそろ「買い」のタイミングだと判断しています。
    ちなみに、GOOGLEは結構儲かってますよ!

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  3. 楽天みたいに大きくなってもジャスダックにいる人もいますが、結局ちょっと大きくなるとすぐみんな東証に言っちゃうんですよね。ジャスダックもあの手この手で魅力を出そうとしてるみたいですが、東京一極集中と同じで、証券取引所も東証一極集中してしまう。個人的には大証なんか面白くてヘラクレスももっと頑張ってほしいんだけど、ジャスダックとマザーズの違いはなんなの?っていう感じ。結局資金調達にならないんだと思います。ジャスダックはもっと小口にして、一般投資家が集まるとかその逆とか、英語で開示して東証以上に海外投資家を集めようとか、ジャスダックとしての戦略があるといいんですけど・・・。

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  4. >やはり最大の難点は言語か。
    簡単ですよ。
    ジャスダックの公用語を英語にすればいいだけです。

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  7. はじめまして。最近国内でもAIMが注目されつつあります。先週は日経が3日間特集したし。
    一方日本のマーケットは先が無いように感じられます。
    AIMのようなリスクテークできるプロ投資家が少なく、いつも公開価格はいびつで、ローリスク/ハイリターン。
    起業家が離れるのも時間の問題という感じ。日本の市場で3年程がんばって公開を目指しても公開維持のエネルギーに見合う市場じゃないような。
    自分はVCですが、ちょっとこの商売、日本では限界あるきがしました。
    最近はアジア圏へ投資して、AIMに公開というスキームを検討しております。

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