タバコ業界・反論の反論の屁理屈

さて集団訴訟でタバコ業界がなくなるかも(希望的観測)にはたくさん熱いコメントをいただきました。ありがとうございました。

さて、タバコ問題ってのは、感情論に基づけば「愛煙」「嫌煙」の二派に別れ、「匂いが嫌い」vs「ほっといてくれ」といったような平行線化しがち。で、「喫煙による社会へのコスト増」という数値化によって議論を持ちかけたわけだが、ははは、こういう理屈自体が嫌い、って人多いですよね。いや、一般論としてですが、「屁理屈」とかいわれがち。でも、私は屁理屈が大好きなのだ。というわけで、以下、いただいたコメントのうち質問っぽいと思われるものに、私なりにわかる範囲でお答えします。

by F-san
喫煙者が肺ガンになって支払われる保険料が問題だ、という話は、日本でも良く聞きます。(というか、やはり日本は皆保険制だからでしょうか)。しかし、それが本当に大変な金額の問題なら(例えばアメリカのような国では)喫煙者に対しては、保険料を『きわめて』高くする、などの対策が自然に発生するのでは、と思います。例えば、喫煙者お断りの保険会社が発生し、その保険会社は、他社(喫煙者と多く契約している保険会社)と比較して保険料が下がり、他社が駆逐される、となるはずなのではないでしょうか。

実際、喫煙者の保険料が高い(または、禁煙者にディスカウントがある)という健康保険はあります。しかし、実際の喫煙コストが全て転嫁できるほどの差はありません。というのも、アメリカでも、健康保険は会社経由で入るのが多く、保険会社にとっては、「会社が顧客、その社員は単なるユーザー」みたいな感じになります。保険料も、平均して約7割は会社負担。ということで、「あ、タバコ吸ってたら保険料3倍です」みたいなわけには簡単にいきません。ちなみに、どういう額を話しているかというと、普通の家族構成の社員で、会社が年間8500ドル(約100万円)、社員が3000ドル(35万円)払う、というのが全国平均の保険料とのこと。賃金の安い労働者の場合、給料より保険料が高い、ということもあるくらい。(スターバックスとか)

また、以前健康保険を民営化してはいけない、というエントリーでも書きましたが、

健康な間は、長期でメリットが出るような医療行為はカバーされないが保険料が安い保険に入り、病気になったら、カバレッジがよい保険に入る、といった乗り換えも当然起こる。

原因と結果の間に長い時間がかかるものには、市場原理が働きにくい。最近、HSAという「若くて健康な人にはお特な保険」が導入され、実際私もHSAにしてますが、医療費が高くつく老人はHSAに乗り換えない・・・・。なので、HSA以外のタイプの保険の加入者の平均年齢があがり、収益が悪化する、という現象も一部では起きているそうな。

医療の最大の問題は、「正当な値段がつけば市場が適正化する」とならないこと。ブランド物のバッグだったら
「買う金がないなら買うな」
といえますが、医療の場合は、
「治療する金が無い貧乏人は諦めて死ね」
とはなかなか言えない。いや、言ったっていいんですけど、殺伐として社会不安につながる。アメリカでも、ほんとーに貧乏な人と65歳以上は皆保険です。(Medicaid/Medicare)

ということで、こと医療に関しては、「市場原理に任せればいい」というわけにはいかないのであります。医療は、public goodに近いのでは、と。以前PC vs ダム端書きましたが、

普通のモノは、売りたい人と買いたい人に勝手にやり取りを続けさせれば、需要と供給がちょうど良くつりあうところに落ち着く。(中略)しかし、特定の特徴を持ったモノでは、この適切な均衡が起こらない。そういうモノがpublic good。「一人が使っても減らない」「独り占めできない」というのが特徴である。

一旦治療方法が誕生すると、「これ、金持ちの人だけね」と言えない。ということでmarket failureが起こるわけです。

by kohe-san
喫煙はほとんどの病気に対して有害なんでしょうが、最終的にタバコを吸ってても、吸って無くても人間みんな死ぬわけで、結果として必要な医療費に大きな差が出てくるんだろうか?
喫煙により寿命が縮まれば、社会保障費は安く済みそうな気もしますが・・・
(中略)雇用や税収も含め全体のコストはどっちが社会全体の利益になるんだろうか?

「喫煙者は早死にするから安上がりジャン」というのは、結構画期的意見だなぁ、と思います。でも証明は難しそう。というのも、これを調査して得する人がいない、、、タバコ会社が
「いや、みなさん、タバコを吸うと早死にするから、トータルコストが下がるんです」
って・・・・言えないですよね、やっぱり。そーいえば、三菱商事で、社員の平均寿命が60歳くらいなんで、日本人の平均余命ベースで積み立ててある年金が余っちゃうんだよねぇ、という衝撃的なことを昔聞いたことがありましたが、ホンマか。

しかし、確かに、

1.タバコ業界の雇用・税収

に加え、

2.喫煙で病気になる人のための医療・製薬業界の雇用・税収

というメリットを生み出しているのは確か。残酷なようだけど、アメリカの過去数年で雇用が増大してるのは医療関係オンリーのようだし。「生きるために働く」という時代になってきたのかも。しかし、「経済が成長するから、病気を引き起こしてもよろしい」というのは、倫理的な問題となりますが。

最後に一つ。

どうにも、一般的な嫌煙派の人たちの意見は、単にタバコが「嫌いなだけ」であって、そこに理屈をこじつけてるように感じがして、私はむしろ馴染めません。

理屈というのはそういうものではありませんか?ただ嫌い、というだけでは相手を説得できないから、いろいろ理論付けし、その証明となる客観指標を
持ってくる。つまり、まず証明したいものがあり、それを説明できる理由付けを探す。とはいうものの、自分の前提に反する分析結果が出てきたら、潔く主張を
変えなければなりませんが。じゃなかったら、まさにただの「感情論」になっちまいます。

なお、私はタバコの非合法化は反対です。アンダーグランド経済が太るだけ。マリファナに加え、コカイン・ヘロインとかも合法化して取り締まるというドラスティックな方法も検討すべき、と思ってるほうなので。

あー、取り留めありませんが、本日はこれにて。

タバコ業界・反論の反論の屁理屈」への25件のフィードバック

  1. タバコを非合法化すると、アンダーグラウンド経済が太ることは同感ですが、前回のエントリの話題のように合法化のまま供給先がつぶれたらもっと大変です。なぜなら、彼らを取り締まる法的根拠が無いから、大手を振ってアンダーグラウンド(とはいえないかも)ビジネスが横行するからです。
    しかも、麻薬に比べて経験者(中毒者?)がはるかに多く、市場がものすごく大きいブラックマーケットになりそうですね。思わずそこにいいビジネスモデルができないか考えてしまう自分がコワい。

    いいね

  2. タバコ・マリファナ(を高い税金を払って購入して人に迷惑がかからない場所で吸うの)は合法でよいと私も思いますが、コカイン、ヘロイン、覚せい剤については医学文献を読む限り、とてもレクリエーショナルユースを完全合法化できる代物とは思えません。
    下手したらアルコールはそれらと並ぶくらい危険ではないかと思いますが、さすがに禁止するのは難しいでしょうね。。。

    いいね

  3. “cost of smoking”でググってトップに出てきたのがこれ。
    http://moneycentral.msn.com/content/Insurance/Insureyourhealth/P100291.asp
    やはり喫煙はまず本人にとって高くつく習慣だといえませんか。タバコなしで生きられないのは、やめない限り返し続けなければならない借金を背負っているのと同じのような気がします。
    私の祖父も叔父も長年の喫煙者で、祖父は肺ガン、叔父は膀胱ガンで亡くなりました。痛々しい逝き方でした。

    いいね

  4. コレ面白そう。「サンキュー・スモーキング」

    動画のページに張り付いてたこのリンク「情報操作」をテーマとした作品
    http://vision.ameba.jp/thankyouforsmoking/
    「サンキュー・スモーキング」のキャンペーンサイト10/17までみたい、
    久々に見たい映画、発見って感じ
    オフィシャルサイトはこちら
    http://www.f

    いいね

  5. 道で堂々とタバコ吸いながら歩いていたり、公共の場で煙たがっている人の前で堂々と吸ったり、
    タバコが文化であった時代は終わったのだと思います。
    タバコ会社はその社会的使命を終えたのでは、と算数ができない(数字で考えられない)私が思いました。

    いいね

  6. 「タバコを吸うと早死にするから、トータルコストが下がる」というのは医療経済学的に証明されているはずです。国家の総医療費の圧縮に最も有効な政策は「喫煙の推奨」だそうです(皆保険で癌治療のコストを国がコントロールできる場合)。ただし、喫煙者だけでなく、副流煙によって周囲の非喫煙者の寿命をも縮めてしまうのが問題。

    いいね

  7. 個人的には喫煙問題は「モラル」の問題だと思います。
    他人に迷惑をかけないのなら喫煙者が肺癌で早死にしようとどうしようとその人の勝手。病気になろうが早死にしようが好きにしてという感じ。
    でも、嫌がっている人が周りにいるのにタバコを吸ったり、歩き煙草で他人の服に穴をあけたり(実際にあたったことはないけど危ないと思ったことは何度もある)、火のついたタバコのポイ捨てなんてモラルの欠落以外のなにものでもないでしょう。

    いいね

  8. あらいしゅんいちさん、アルコールの禁止ですが実際にアメリカでは禁止された時代があります。俗にいう「禁酒法時代」です。
    ただこの「禁酒法」は現代では悪法として知られています。結局、飲酒がアングラ化しアル・カポネなどギャングやマフィアが暗躍しました。

    いいね

  9. 小学生の時にマウスの実験ビデオを散々見せられたんですよ
    たぶん、よほどタバコ吸う人は脳を則られていて!!
    精神病であって!!!!!!!

    いいね

  10. 健康第一が経済も潤す

    渡辺千賀さんのタバコに関するエントリが色々な意見でものすごく盛り上がっているので、ちょっと考えてみたいと思います。 On Off and Beyond: タバコ業界・反論の反論の屁理屈 喫煙はほとんどの病気に対して有害なんでしょうが、最終的にタバコを吸ってても、吸って無くて…

    いいね

  11. 私の屁理屈に丁寧に回答をいただき、ありがとうございます。正直なところ『医療が絡む市場については市場原理が働きにくい、徹底するわけにはいかない』という点については、そういう回答が返ってくるであろうと考えながら書いてました(笑)。
    『「会社が顧客、その社員は単なるユーザー」〜〜』、というくだりは、大変納得しました。なるほど。
    > 煙草を吸って早死にしてもらったほうが社会的に得か
    この考えは面白いですね(笑)

    いいね

  12. 『経済が成長するから、戦争を引き起こしてもよろしい』
    アレ?
    親子でノーベル賞貰う人達もいるってのに・・・

    いいね

  13. たばこを吸う人がどうなろうか、知ったこっちゃない。勝手にお好きなタバコを吸って、病気にでもなんでもなればいいんです。ただ、その自己満足のために他人を巻き込まないで欲しいと言いたいだけ。タバコを吸う人の権利を守り、吸わない人の不快感をなくすには・・・1.タバコを吸うときは自己シェルターに入り、煙や吐いた息をすべて自己処理する。2.もしくは、タバコ会社が煙の出ないタバコを開発する。3.どこかの国で紙タバコなるものがあったと思うのですが・・・紙タバコのみの販売にする。これなら他人に迷惑かけないですよねぇ。

    いいね

  14. (日本の)会社では、喫煙室(喫煙所)分煙機を設置しているところがありますね。タバコ吸わない私から見れば、その設置コストも、無駄に見えます。最近は、ビル内禁煙も増えましたが、少し前までは会議でスパスパすっている人までいましたから、だいぶ雰囲気は変わりました。
     次は酔っ払って電車に乗る人が減ってくれないかしら。

    いいね

  15. 今は廃部になってしまったようですが、JT野球部が都市対抗に出ると、近所のタバコ屋のオバちゃんたち(タバコ店組合?)は貸切の新幹線に乗って応援に行っていました。
    (もちろん自費ではないでしょう)
    いったいこの応援費用、しかも全国からその集団を呼び寄せるにはどのくらいかかっているんだろう?と思った記憶があります。

    いいね

  16. ぜんぜん話は別ですが、もうそろそろ自動車会社はシガーレットライターの替わりに100V家庭用コンセントを備えた自動車を販売して欲しいものです。
    やっぱり、部品の調達とかの問題でなかなか実現しないのでしょうか。

    いいね

  17. シガーソケットのDC12Vを家庭用のAC100Vコンセントに変換する機会は自動車用具販売店に行けば、いくらでも売ってます。どうぞ買ってきてください。
    じゃあ、なんで直接コンセントの口を付けないんだ!
    →容量も考えずに使って、バッテリを上げる馬鹿が続出でしょう。鉛蓄電池は過放電が寿命に対する最大の弱点です。
    オルタネーター(発電機)の容量を上げろ!
    →駆動損失が馬鹿になりません。たまに電気製品を繋ぐために、燃費を悪化させていいと。

    いいね

  18. ほぉ。。。。 Chikaさんも、ここにコメントされる方も造詣が深くて、すっごく勉強になるわ。ズズズーっ。(と、茶をすすってみる。) 

    いいね

  19. お久しぶりです。
    タバコについては、喫煙無しに文章の一つも書けない中毒者ですので、自宅で好きなだけ吸わせていただき、短い人生を謳歌したいと思います。
    上の方で少し話題になっていますが、嫌煙もよいのですが、アルコールを早々に取り締まっていただきたいもんです。公共の施設(電車/歩道を含む)にて0.3mg以上のアルコールが検出された場合は、5万円の罰金として、飲み屋を出たらすぐタクシーか代行に乗りましょう。路上でそんな人を見つけて密告すると罰金の10%がインセンティブで支払われるようになれば、ニートが外を双眼鏡で監視してくれるはず!
    タバコを吸う事を強要されるのは中学生までですが、酒を飲むことを強要されるのは、いつまでも果てしなく続いています。タバコを吸って人を殴るバカは少ないですが、酒によって殴るバカは繁華街には毎日います。
    そんな風に思うのですが。。。

    いいね

  20. 都の税収、過去最高の4兆9千億円に バブル期上回る

    東京都の税収がバブル期を上回る金額となり、過去最高金額になるらしい。」
     これまでも、現在の企業業績がバブル期に迫る勢い等の報道を見てきたが、一般レベルにそれが反映されていない、その様子を肌で感じられないのはどうしてだろうと思う。
     バブル期、行きすぎ感はあったが、なにか時代に突き動かされるような高揚感が、確かに日本全体を包んでいたように思う。人々は、大いに買い、食べ、遊んだ。
     ただ、現在はどうかというと、そんな気配すら感じられない。雰囲気だけで言うと、景気の底がまだ見……

    いいね

  21. 東洋医学によるがん治療

    横内正典氏の著書はこちら(Amazon)横内正典氏の著書はこちら(楽天Books) 実は昨年だけで身内が3人も癌になってしまいました。そのうち一人は実母です。膀胱に4cm大の腫瘍ができました(膀胱に癌ができること自体けっこう珍しいようです)。腫瘍は内視鏡手術(開腹手術では……

    いいね

コメントする