インターネット時代に本屋はどうやって生き残るのか

スタンフォード大学から車で5分ほどのところに、Kepler’sという本屋がある。このKepler’sが経営難を理由に突然閉店したのが去年。その後資金を集め再スタート、「レギュラーのお客さんからの会費制度」を導入して、なんとか1年乗り切りました、、、という記事がフリーペーパーPalo Alto Dailyに載っていた。

Kepler’sは、去年で50周年を迎えた由緒正しい本屋で、Grateful DeadのJerry Garciaが無名だった頃に演奏したりしてたこともある。「出版時の講演&サイン会ツアー」はアメリカの文学界ではつき物なのだが、ちょっとした作者のものがベイエリアで行われるときは必ずKepler’s。単なる本屋というより地元の名所。

しかし、そんなKepler’sも、Amazon.com、CostCoなどの安売り大チェーン、Border’sなどの大手全国チェーン本屋等に押され、倒産寸前となり去年の8月に突然閉店。Amazonその他では、20%位の値引きが普通。アメリカの本は高いので、20%は結構大きい。新書で3000-4000円、文庫(ペーパーバック)で2000円近いのは当たり前、という感じなので、3-4冊買うと結構な額になる。で、独立系の本屋は軒並みつぶれていったのだが、Kepler’sの閉店は大きな話題を呼んだ。

自動車社会のアメリカでは、「通勤途中で時間つぶしに本を読む」という習慣がない。(そういう意味で、日本の「本」の役割を果たしているのがアメリカの「ラジオ」。)なので、本は本好きの人のためのもの、という感じが強い。(なので、大衆娯楽的有象無象的面白い超ジャンルみたいなものが中々ない。SFといったら宇宙人とかナノテク、純文学と言えば愛と青春と老化と孤独、みたいな傾向が強い。)で、その本好きの人がしみじみと時を過ごすのが本屋。あちこちにソファやベンチがあって、皆どっかりと腰を下ろして本を読みふけっていたりする。だから、センスのいい本が揃っていて、しかも雰囲気がよい本屋は本好きの心のよりどころ。なので、Kepler’sが閉店したときは地元の本好き人間には動揺が走った。

で、Kepler’sが新たに編み出したのが「会費運営」。メンバーシップページにある通り、年会費を払うと、その額に応じて割引クーポンなどいろいろなメンバー特典がある。下は20ドルから。250ドル出すと「本の筆者と会えるレセプションご招待」、2500ドル以上出すと「本の筆者と会えるイベントの際の特別駐車スペース提供」がある。「駐車スペース」は結構いいなぁ、、。以前Oliver Sacksが話に来た時、行ってみたらKepler’sの周囲2ブロックのどこにも止められず断念したことがあったので。

(なお、閉店から再オープンに至る経緯はSan Francisco ChronicleのThe end — or is it?; Investors trying to reopen independent bookstoreなどご覧あれ。)

私は、以前はKepler’sから車で10-15分くらいのところに住んでいたのでよく行ったのだが、今は片道30分かかるのでめったに行かなくなってしまった。近くだったら会費払ってもいいなぁ、と思います。はい。メンバー特典もさることながら、近所の優良書店は心のオアシス。オアシスキープ費用として何がしか払うのはやぶさかでない。Kepler’sでは、「筆者イベント」以外にも各種チャリティイベントなどの催しに注力している、と今日のPalo Alto Dailyの記事に出ていた。「心のオアシス化」を推し進め、文学的イベントの中核となる、ということでありましょう。経営状態の方は、まだまだ予断は許さない状況ながら今年はぎりぎりで黒字、だそうです。

で、思ったわけだが、独立系本屋がアメリカで生き残るとしたら、こういう「コミュニティからの会費(もしくは寄付)による運営」というのが一つのモデルのなるのではないかと。殆ど公共事業。アメリカでは、ラジオ局やテレビ局で、「視聴者からの寄付金による運営」というモデルが事業として成立しているが、本屋もそうなるのでは、と。

ちなみに、Kepler’sは「本好きのナンパ場」としても機能している。
「あ、その本、面白いですよね」
みたいな会話から出会いを生み出すという、老若男女の真摯な試みが日夜行われている場所なのだ。(これホント。平日夜、土日など試すあるよろし)。

コミュニティのハブとして優良な本屋が生き残っていくための最後の切り札は「出会い強化」・・・・・んなわけないか。

ちなみに、Kepler’s「筆者イベント」の9月20日は、ソフトウェア会社UpShotを創業してSiebelに売却したアントレプレナー、Keith
Raffelがゲスト。Raffelによる初のミステリー小説、Dot Deadの発売記念だそうです。いろんな人がいますなぁ。

インターネット時代に本屋はどうやって生き残るのか」への16件のフィードバック

  1. ケプラーって倒産してたんですか。しらんかった。昔、歩いて1分たらずのところに住んでたので、休日は、毎夜、ここあたりで時間つぶしてました。本好きのナンパ場はボーダーズのほうがかなりよく見る光景だった気がしますが、地べたに座り込んで本を読むスタイルを、ここで憶えてしまって、日本に帰った今も書店で、そういった衝動にかられることがあります。会員制度で復活ですか。近くに住んでいたら入ってそうです。

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  2. 日本だと本の値引きがほとんど無く、あいもかわらず護送船団方式の横並びなのでamazon.co.jpでやっている10%弱の割引セール(1万円以上買うと千円分のクーポンがもらえる。)でも値引率ではほとんど最強です。専門書の値段に関しては一緒かも。何しろ和書じゃいい本が出ないので、泣く泣くamazonで洋書を買って、さらに泣きながら英語で読む他ないわけですね。(一番泣けるのが、上の連中が「あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ」を言い訳に勉強しないくせに、権力の座だけは手放そうとしないことなのだが……「老兵は死なず。ただ邪魔するのみ。」とは良く言ったものだ。)
    >日本の「本」の役割を果たしているのがアメリカの「ラジオ」
    podcastが異様なまでにヒットしたのはそういう事情があるのかも。

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  3. 日本人だって、わざわざ金を出して自分の手元に残らない本を読むぞ。
    マンガ喫茶で。

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  4. はじめまして!アメリカ生活3年目になる主婦のものですがこのサイト面白いですね。アメリカに来て驚いたのはこちらの本屋の懐の深さですね。コーヒー飲みながら売り物を読破している人々・・・卵と同じで買う前に汚れてないかどうかチェックしちゃいます。子連れで待ち合わせて子供コーナーがプレイエリアと化していてもあまり露骨にはいやな顔されませんしね。
    今回の本屋のことはじめて知りました。9月から旦那がスタンフォードのクラスをいっこ取るのでおしえてあげます。
    それでは、今後も楽しみにさせていただきます!

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  5. United Clusters of America における本屋の滅亡

    私はかなりの本好きである。昔からジャンルを問わず本を読むことは異常に好きだが、本屋好きの方が年季が入っているかもしれない。 待ち合わせとかで突発的に空き時間ができると、まず本屋で時間をつぶすことを考える。住む所や勤務先を変えた時は、まず、テリトリーを確認…

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  6. はじめまして!
    日本にいてはちょっと気づかない視点でのblogでとても楽しかったです。
    いろんな視点で見られているんだなぁと尊敬してしまいました。
    無許可でトラックバックさせていただいてしまいました。ブログ初心者ですいません。。
    今後も楽しみにさせていただきます♪

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  7. ナンパできるリアルの本屋がアメリカにあるらしい

    Book Portfolioというネットの本屋をやってるので、余計に反応してしま

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  8. アメリカって、本が高いんですね。日本より人口が多いし、英語人口はもっと多いわけだから、大量に売れて、一冊あたりのコストは安くなると思うのですが。なんで高いんでしょうね。

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  9. 追伸
    本屋の生き残り策で、『出会い強化』は意外な案ですが、なかなか面白いと思いました。
    人間関係が薄れてきた現代では、『出会い』に対して強い関心がある人は多いと思う。出会い系サイトなんて、その関心を利用した商売だし。
    よく考えれば、他にも『出会い』をキーワードにしたビジネスが伸びてますよね。結婚相手の出会いを手助けする、お見合いサービスの会社。企業と求職者の出会いを仲介する会社。「出会い」で新しい商売できそうですね。
    ちなみに、私も松田聖子が言っていた「ビビビッと来た」出会いを求めています。

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  10. chikaです。
    マンガ喫茶!ではっと気が付いたんですが、Kepler’sは普通の本屋で会員じゃなくても誰でも入れます。会員になるとちょっと割引がある・・という程度。わかりづらかったら申し訳ない!!
    団長san
    >「ビビビッと来た」出会い
    これ、求めはじめるとヤバイですよー。多分やってこないですよー!!へへへ。

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  11. 「まちおこし」のためにも、本屋は不可欠ですね。リーゾナブルな会費ならば支援者も多いと思う。

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  12. 会員制の商売

    昨日、アメリカのシリコンバレーで会社経営をされている渡辺千賀さんのブログを読んでいて、思い立ちました。
     
    アメリカでは、WEB書店や大手書店チェーンにおされて、単独店舗の本屋さんの経営が、なかなか難しいとのことです。
     
    その生き残り策として、図書館兼本屋さんの機能を充実させようと、会員制の本屋さんに衣替えした店があるそうです。
    ようするに、店の贔屓客に寄付をしてもらって、店舗の運営を維持するということです。
     

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  13. コミュニティ≒長屋

    これって面白いな。
    ・『インターネット時代に本屋はどうやって生き残るのか』(On Off and Beyond より)
    > こういう「コミュニティからの会費(もしくは寄付)による運営」
    > というのが一つのモデルのなるのではないかと
    なるほど…
    ネットによって食われてしまった本屋さんが、ネットによって再生してい
    くってところが、いかにもネットらしいな…
    最近、思うのは、マスを狙うと疲れてしまうなぁ…とい�…

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  14. さっきまでいたバーンズアンドノベルズは、すごく盛況のようでした、、ニューヨークではみんな床に座り込んで読んでいます。本屋もおしゃれだし、文具も売っているし、喫茶店でみんなメール書いてます。一種の集まる場っていう感じ。。。日本より読者人口が多そうな気も。。。
    こんなブログ書いてみました。
    http://blogs.yahoo.co.jp/tonporo2002/39687484.html

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