イギリスAIMは上場のオフブロードウェーです

1.昔「ナボナはお菓子のホームラン王です」という宣伝があった
2.AIMはロンドン証券取引所の新興市場。(マザーズとかジャスダックとかみたいな)
3.ブロードウェーはミュージカルの王道。オフブロードウェーはちょっとブロードウェーを外れたところ。ミュージカルの二軍、みたいなもの。
1+2+3=「イギリスAIMは上場のオフブロードウェーです」

っていうか、昨日行ったセミナーのメモ。「アメリカの本場ナスダック上場は敷居が超高いが、AIMだったら簡単。こっちの水は甘いぞ」と、AIMの人たちが、シリコンバレーに営業に来たセミナーなのであった。証券取引所も海外営業しなきゃなんないんですね。大変だ。

というわけで、以下メモです。営業(講師)の皆さんが強調してた内容別に分けてみました。

AIMは小粒会社が上場しても大海の一滴にならない

  • AIMの上場企業は1501社と多い
  • 平均企業価値は$80Mー$90M(M=百万。8千万ー9千万ドル)程度。ただし、バルクゾーンはそれよりもっと低くて$20-45M程度。
  • 2005年の1年間に335社が上場し、56億ポンド($10B)を調達、一社平均の調達額は$30-50M
  • このうち英国企業は259社、76社は海外企業
  • 一方でナスダックの平均企業価値は$1.2Bもある。企業価値$90M程度の企業が上場しても、誰も見向きもせず、忘れ去られる

AIMは上場のハードルが低い

  • 上場時の会社の条件は、企業価値5千万ポンド、調達金額が千万ポンドかもしくは企業全体の25%
  • ロックアップ(マネジメントやベンチャー投資家がIPO後に自分の株を売れない)の必要はない
  • マネジメントも上場時に持分の30%程度まで売れる。ただしこれは、すでに利益が出ている会社のとき。売り上げもないような会社だとマネジメントは売れないことが多い
  • 米国は今381件のS1ファイリング(上場準備書類)が提出されているが、そのすべてが上場できる可能性は皆無。が、AIMだったら去年1年でそれくらい上場している
  • アメリカでは上場前はquiet periodとして関係者はマスコミ等に話ができないが、AIMでは、「Loud Period」として情報告知を奨励

AIMだったら、IRが楽

  • 機関投資家は、ほとんどがロンドンにいるので、飛行機に乗って時差を超えてあちこちを飛び回ってロードショーをする必要がない
  • AIMの投資家の95%が機関投資家。年金ファンドなどが主で、450の投資機関がある。リテールの一般投資家は4%強しかいない。よってIR活動でも、相手にしなければならないのはプロばかりで、レタラシーは高い。うわさレベルで会社の価値が乱高下することはない。
  • 一方、Nasdaqの投資家の25%はリテールの一般投資家

AIMは、数字で見えるよりも流動性が高い

  • AIMの一日取引高は2億7240万ポンド(5億ドル)
  • しかし、ほとんどの投資家が機関投資家なので、機関投資家間で直接決済する株が多く、取引高として表面に出る以上の額が常に取引されている

AIMだったら、上場コストも上場維持コストも安い

  • IPOにかかるコストはNasdaqが517万ドル程度、AIMが380万ドル程度。
  • 米国では、Sarbanes Oxley準拠費用が国家全体トータルで1.4兆ドルかかっており、売り上げが10億ドル以下の会社だけで見ても、SOXコンプライアンス費用は一社平均190万ドル
  • それ以外の上場維持コストは、Nasdaqが230万ドル程度、AIMが92万ドル

AIMだったら、上場後の買収も簡単

  • アメリカは独禁法が厳しいが、イギリスならどんどん会社のお買い物ができるので上場株をCurrencyとしたM&Aが容易

AIMでは、Nomadが懇切丁寧にお世話

  • NomadはNominated Advisorの略で、ロンドン証券取引所に認定されたアドバイザー会社。AIMのルールを説明したり、上場が可能かの審査をしたりする。上場後も、どうやって株価を維持するかなどのアドバイスを行う。Nomadがいなくなった会社は上場取り消しになる可能性もある。

***
なるほどー。日本の上場って、数は多いけど、一個一個が小粒だよね、と思っていたのだが、ロンドンもそうなんだな。そしてそれを優位性として押し出して

「ナスダックはビリオンダラー会社のもんでっせ。そんなとこにいくのに苦労するより、まずはこじんまりAIMでがんばって、力がついて世の中の感じもわかってきたらナスダックに鞍替えしはったらどうですか。企業価値5千万ドルくらいだったら、十分上場できまっせ」

という感じのセールスなんですな。

とはいうものの、「イギリスでの事業がある。イギリスにボードメンバーがいる」というのがAIM上場成功の条件とのことで、誰でもいいわけじゃないようですが。機関投資家たちが経営陣の顔がわかるようでないと、やっぱり厳しいのであろう。当然だが。

日本や韓国、台湾の新興取引所との違いはという質問が出たが、答えは

  • AIMはインターナショナル。アジアの新興取引所はリージョナル
  • AIMは10年の歴史があり、アジアの新興市場より成長している
  • アジアの市場はニューヨーク・ロンドンという金融の中心から遠く離れており、時差が大きいので、夜ウトウトしている間にアービトラージを取られる危険がある・・・(これはつまり、アメリカとかイギリスの会社が日本などで上場したら、という意味ですが)

規模的には、アメリカの会社が同様に日本で上場、「まずはオフブロードウェーで実力をつけて」ということも可能ではある。あるが、やはり日本での事業は必要だろうなぁ。IRも日本語でやらないとならないし。日本の投資家はほとんどがリテールの一般人、と聞いたんですが本当でしょうか。だとすれば、これも上場する会社にとっては結構頭の痛い事態。普通の人向けIRって大変だものね。

さらには、日本で上場しちゃうと、アメリカに比べて著しく企業価値が高くなるので、買収されにくくなるという問題もあるだろう。上場した後、さらに買収を受けるという、二段階エグジットはよくあるのだが、上場した日本の会社が外国の会社に買ってもらう場合は、相当のプレミアムを相手が覚悟して買ってくれないとならなくなる。もちろんん、高企業価値を武器にがんがん世界の会社を買収して回る際には、高バリュエーションは有利に働くのだが。

なお、証券取引所というのは、なんとなく公営のもののような気がするが、民間企業なんですよね。自らの株を、自分の市場で公開したり、証券取引所がM&Aで他の証券取引所を買収したりとかいうことが起こる。AIMの24%は米国Nasdaqが所有しているんだそうです。

AIMの人たちは、「アメリカに比べて基準がゆるいからといって、なんでもしていいということではない。ガバナンスは重要」と力説していた。なんでもありか、と、とんでもないのに出てこられたら困るからでしょうか。

昔、「とあるシリコンバレーのベンチャーを、日本の上場したてのベンチャーが買う」、という話でアメリカ側の会社の側をサポートしたことがある。日本側の会社はごく限られた分野だけにフォーカス、それ以外はパートナーに依存した事業できっちりと利益を出す事業体となった会社。アメリカ側の経営陣は

「うーん、ああいうやりかたもあったのか。スマートだ。われわれも、何から何まで自分たちでやらない方法を考えるべきだ」

と結構激論を交わしていた。「営業から製造から、何から何まで自分たちでやり、売り上げも大きく、コストも大きく」というのがアメリカのベンチャーの成長形態の基本形。そうじゃないと、上場できる規模にならないから。上場したら、最低でも$300Mくらいの企業価値は必要なので。

しかし、企業価値$70-80Mでも上場できるとなったら、別のビジネスの育て方ができることになる。

いずれにせよ、Sarbanes Oxleyでますます上場が大変になったアメリカの隙をついて、営業にやってくるロンドン証券取引所も、なかなかやる~という感じでした。

イギリスAIMは上場のオフブロードウェーです」への20件のフィードバック

  1. お元気ですか? この前、佐鳥電機から3人伺って色々話を聞かせてもらいました。 このブログもいつも見てます。私もビジネスプロモーションの一環としてブログを始めました。 暇があったら覗いて下さい。 Chikaさんの事も書いたのですよ。 いつも思うのですが、やっぱりChikaさんの優れたところはビジネス全体を見ているところと、金融関係かな? では。

    いいね

  2. はじめまして。
    >日本の投資家はほとんどがリテールの一般人
    ジャスダックだと株数ベースで65%個人が保有しています(平成17年度)。
    機関投資家が投資するには各企業の起業価値が小さいから割合が低いと認識していますが、ロンドンでは違うようですね。

    いいね

  3. はじめまして。
    いつも拝見させてもらっています。
    ムスビさんの身の安全が気がかりです。(vsラスカル)
    >売り上げも大きく、コストも大きく」というのがアメリカのベンチャーの成長形態の基本形。そうじゃないと、上場できる規模にならないから。上場したら、最低でも$300Mくらいの企業価値は必要なので。
    売上が大きい分、コストも大きいビジネスなら、企業価値は大きくならないと思いますが。
    それとも、いまだに売上マルチプルなんて手法がまかり通っていたりするのですか?

    いいね

  4. 大額-san
    先日はありがとうございました。世界をあちこちされているようで何よりです!
    sato-san
    情報どうもです。65%ですか・・・・もっとリテールが多いのかと思っていましたが、一応機関投資家もいるんですね(あたりまえか)
    >機関投資家が投資するには各企業の起業価値が小さい
    私もそう思ってたんですよね。AIMの話はそこが一番意外でした。やはり、金融のメッカ、ロンドンだからでしょうか。イギリスの機関投資家以外にヨーロッパのもあるそうです。Nasdaqを見るより、AIMの方が日本での新興市場運営の参考になりそうです。
    nao-san
    >売上が大きい分、コストも大きいビジネスなら、企業価値は大きくならないと思いますが。
    確かに最近では、米国でも企業価値算定においてはprice/sales ratioより、PERを問われますが、
    売り上げが小さいと、企業価値の問題以前にアメリカで上場するのが難しいと思います。
    売り上げ10億円、利益5億円では上場できませんが、売り上げ50億円、利益1億円だったら可能性アリ。「ここ数年最悪のIPO」と呼ばれるVonageも、売り上げ$270Mで赤字、企業価値$1.3Bですが、もしこれが売り上げ$27Mで利益$10Mだったら、米国での上場は無理だったのではないでしょうか。。。利益をあげることも大事ですが、会社が成長する時期では、がんがん売り上げを伸ばす勢いがあることも大切。アメリカ的には、
    「こじんまりまとまっているのだったら、たとえ利益がたくさんあっても、会社側にも上場する必要があまりないし、投資する側からも大きく成長する将来性が見えずつまらない」
    ということになるのでは。
    個人的にも、「企業としての市場ドミナンスへの気迫・勢い」という意味で、利益だけじゃなく売り上げのサイズも大事だなぁ、と思います。要は、売り上げも利益もどっちも大事、ということなのではないでしょうか。

    いいね

  5. 自前主義のポイント

    新規事業やベンチャーでは、何を「コア」とするかが第一のポイント。第二のポイントは、それをどこまでやるかということ。裏を返せば、何をやらないかということ。この線引きは結構難しい。実際、アメリカのベンチャーの場合、ある程度の段階までは全て自前でやることが多いようである。渡辺千賀さんのブログでは、「営業から製造から、何から何まで自分たちでやり、売り上げも大きく、コストも大きく」というのがアメリカのベンチャーの成長形態の基本形。そうじゃないと、上場できる規模にならないから。上場したら、最低でも$300Mくら…

    いいね

  6. chika-san
    言葉足らずでスミマセン。
    特にPERのことを意味したわけではありませんでした。
    (PER自体も問題の多い指標なので。PSRよりはましですが。)
    売上規模については、おっしゃるとおりですね。最初に市場支配力を押さえてしまう売上拡大路線のほうが、将来キャッシュが大きくなるという夢を抱かせるには必要かもしれませんね。

    いいね

  7. 10000円引き!「アービトラージFX」

    【値上げ決定!12月31日までです。この価格は!!】取引レートの時間差を利用して毎月100pipsをノーリスクで「物理的に」稼げる 検証作業さえ不要の【超短期!】アービトラージFXなんと!10000円引き!!【値上げ決定!12月31日までです。この価……

    いいね

  8. 1/30に値上げします!今がチャンス

    知りたくありませんか?
    初心者でも簡単に1億円稼ぐサイトの作成法を・・・・
    投資0円で通算2億円以上売り上げた男がそのすべてを公開します。
    毎日の仕事があっても大丈夫。

    いいね

  9. はじめまして。
    初めて拝見させてもらいました。
    AIMに関してはますます興味を持ちました。AIMに上場するにはどうすればいいのですかなどのことも詳しく知りたい。

    いいね

  10. はじめまして!現在IPO、AIMに興味をもち、色々資料を探しています。
    2005年の1年間に335社が上場し、英国企業は259社、海外企業が76社とありますが、76社の国別数など教えていただけませんか?
    参考資料にいたしたく思います。

    いいね

  11. chika-さん
    早速の質問に対する返答ありがとうございました。
    参考にさせて頂きました。
    再度教えていただきたいことがあります。
    (質問等ばかりですいません)
    イギリスにおいて株式を上場、会社の設立のプロジェクトチームに所属することになり、イギリスにおける総務(財務・税務、労務)において学べる書籍等の情報を教えていただけないでしょうか?
    (御ページにふさわしくない内容の書き込みでしたらご了承ください)

    いいね

  12. chikaです。
    うーむ、知りません。・・・上の方のコメントにreferしてある弁護士のJames Prentonなら知っているかも。

    いいね

  13. Minasan – romaji de mooshiwake arimasen ga, Chika-san ni shokai shite itadaita Prenton desu. Sengetsu Palo Alto de AIM seminar wo mata shusai shimashita. Seminar no shiryo wo extranet ni upload shimashita node goranni natte kudasai. Eigo deno annai narimasu ga:
    1) Go to https://extranet.klgates.com/home.asp
    2) Enter the username “NCAuser” and the password “KLGates.” The username and password are case sensitive.
    3) Click the Corporate section.
    4) Materials from June 2006 and September 2007 are available.
    Mail matta wa denwa wa nihongo demo kamaisen no de shitsumon arimashitara renraku kudasai. Soredewa.
    James Prenton (ジェームス・プレントン | 弁護士)
    K&L Gates (Partner | パートナー)
    630 Hansen Way | Palo Alto, CA 94304
    d: (650) 798-6707 | f: (650) 798-6701 | m: (925) 895-2560
    email: james.prenton@klgates.com
    website: http://www.klgates.com

    いいね

  14. こんにちわ。以前よく渡辺さんのブログにお邪魔してコメント書いていました。この度転職して、今AIMについて調べています。東証がロンドン証取と合弁会社を作るのです。ところでくだらない質問ですが、Noamdはどう発音するのでしょうか。すみません、ひさしぶりのコメントなのに。。。

    いいね

コメントする