白紙小切手会社と裏口上場

今日締め切りの原稿を書き終わった。テーマは blank-check company(白紙小切手会社)とreverse merger (back-door listing=裏口上場)だ。以下は、その下調べをしながら出会った笑える話の数々。(原稿自体は1ヶ月位したらBlogにアップします。体系だった話はそのときにでも。)

ちなみにblank-check companyとは、将来どこかの会社を買収することを目的に株式公開して資金調達をする会社。上場時点では、事業内容が決まっていないのでblank checkと呼ばれる。先週、Appleの創業者Wozniak、元Apple CEOのAmelio、同じく元Apple CTOのHancockが集まって作ったblank-check companyのAcuicorが上場して$150 Million調達した。

The StreetよりAcquicor Tech Enjoys Apple’s Halo

Gil Amelio (中略) in exchange for a $2.5 million-a-
year salary and a $5 million loan, presided over declines in Apple’s
earnings, market share, headcount and stock price.


Ellen
Hancock (中略) headed up Exodus Communications, which filed for bankruptcy in
2001

Steve Wozniak (中略) whose most recent venture, Wheels of Zeus, shuttered its doors on
Friday.

ファウンダーたちの暗い過去をびしびしと指摘する厳しいお言葉・・・・。が、人生山あり谷あり。山も谷も激しいシリコンバレーで、谷のほうをピックアップされたら、多くの人がこうなるだろう。ラッキーにも一発当たったら、さっと大学の先生になったりすると、バツがつかずに美しかったりする。

TheStreetの記事では、Acquicorのprospectusがいかにとんでもないかを延々と指摘。

Some highlights: "You
will have no basis upon which to evaluate our ability to achieve our
business objective"; "none of our officers or directors is required to
commit their full time to our affairs"; and "the personal and financial
interests of our directors and officers may influence their motivation
in identifying and selecting target businesses."

Translation: We may fail at this, and if we bother to show up for
work, it may be simply to use your money to buy companies we already own.

とか。続いて、「こんなのに投資するやつの気が知れない」と。ちなみに、投資家の多くはヘッジファンド。

What’s disturbing is how readily funds put their capital into a
company that, for all its star power, doesn’t seem to have the interests
of its shareholders as a top priority. That smells a little like an
early-stage financial bubble, when funds get antsy about sitting on cash
and grow desperate to stick it somewhere, anywhere.

で、Acquicorは「イワシの頭も信心から」みたいな投資である、うまくいくかどうかは今後のお楽しみ、と。

Acqucor is faith-based investing taken to the extreme. That it even
got through the gates is a little startling. But keep watching: Whether
it proves to be an exception or a general rule will show how intoxicated
investors are getting with technology stocks.

こちらには、元NBAプレーヤーで国会議員だったTom McMillenが作ったblank-check companyの話もある。

Former NBA player and congressman Tom McMillen is trying to go two-for-two in homeland defense plays. 

Fortress America Acquisition,
a so-called blank-check company dreamed up by McMillen, raised $42
million in an initial public offering. The Bethesda, Md., start-up,
whose only products are the resumes of its politically connected board,
hopes to use those funds to buy a company that "contracts directly with
the government on homeland security projects."

「ボードメンバーの強い政治的コネクションで国土安全保障(homeland security)関係の仕事を受注するような会社を買う」というビジネスプランだそうです。いやはや、臆面もなく。すごいですねぇ。

一応Blank-check会社は、IPOして一定期間(18ヶ月とか)後にどこも買収できなかったら資金を投資家に返すことになっており、そういう意味では少ないリスクでバイアウトに参加できるといううまみが投資家側にはあるわけだ。

***

一方、Back-door listingは、こちらのページに寄れば

A strategy of going public used by a company that fails to meet the
criteria for listing on a stock exchange. To get onto the exchange, the
company desiring to go public acquires an already listed company.

とのこと。休眠状態の上場会社を買収して、上場ステータスはそのままに、中身だけ自分の会社にするわけです。「厳しい上場基準を満たさずとも上場できる」、「上場するためのコストが安あがり」、というのが動機。後者については、普通に上場すれば数億円から数十億円かかる。(多くが投資銀行へ流れる。ぼろ儲かり。)それを安く上げるというのは結構意味があることではあるが、その一方で、いい加減な会社を上場させて、株価が上がったところで売り抜ける、という悪事が発覚した過去もあり、評判よくなし。

が、最近、GoogleのLarry Pageのお兄さんが創業したHandheld Entertainmentという会社がback door listingをした。Vikaという会社を買ってのものだが、このVikaのSECの申請書類が泣ける。一応、中小企業向けにデータとボイスの統合アクセスを提供する予定、とかなんとか書いてある。が、

As of December 31, 2004, we had $2,690 in cash on hand.  This is
sufficient cash to sustain our operations for a period 1 month.

ということで、おととしの年末時点では所有キャッシュが2690ドルだったそうです。お小遣いじゃないんだから。。。。しかも、これで1ヶ月会社が運営できると。正々堂々としたペーパーカンパニーなのであります。

ということで、フィナンシャルエンジニアリング花盛りのアメリカでした。

白紙小切手会社と裏口上場」への8件のフィードバック

  1. へええええ、こんなところまでいっちゃってるんですね。
    前にお世話になった某VCのポートフォリオに、”Veritasの元創業チーム2名が作ったストレージ関係セキュリティ会社。製品もエンジニアも無いけど買収で遅れを取り返します”っていうのがあって、「業界にコネと成功体験があるっていうだけでこんなにお金集められちゃうんだ。なんだかなあ。」と思ったものですが、そんなの目ぢゃないですね。
    今どき資本ってありあまってるから、次から次へと手を変え品を変えお金をつっこむ方法が出てくるんでしょうかねえ。資本より投資先のほうがScarce resourceなら、by definition で資本家が偉いって理に適わない気がしてしまいますが。

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  2. >資本家が偉いって理に適わない
    ほーほほ、実際シリコンバレーで「パーティーで人気がある順」は
    1.アントレプレナー
    2.アントレプレナーの直の友達
    3.VC
    4.ベンチャー企業の社員
    5.大企業の社員
    といった感じだと思うんですけど。VCは、セコイアとかKPとかUSVPとか、そういう一流どころだったらかっこいいけど、名前だけみたいなところもたくさんあって玉石混交。でも、アントレプレナーはそれだけでえらい、みたいな。

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  3. はぁー、まぁ、なんていうか、頭で理解できても日本語で説明したら通じないような話ですね。それはそれで大切な宝物だと思うのですが。
    汗水汗水流さないかんばい。って話と遠くない話だと、説明できるといろんなネタは落ちてそうなのに、もつたいない。と[on]を読んでると思います。
    お勉強になります。

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  4. は〜、は〜、は〜。こういうblank check coとか、例の生ドア社に行った日本の検察の方々ならなんと評するのでせうかね??? 興味深いですな。しかし、これ、SOX対応なんてどうしてるんでしょーか? すご過ぎるかも。

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  5. 日本の検察・・・「空いた口がふさがらない」とか?
    SOX対策の$2-3Mは、ファンドの「マネジメントフィー」扱いで。サクッと必要経費とみなされるのではないでしょうか。昔レディースコミックで
    「良く聞きなさいっ!お金って言うのはね、水と違って、高いほうから低いほうに流れるんじゃなくて、既に金が集まっている高い方へ、高いほうへと流れていくのよっ」
    というようなせりふがあったのを思い出します ;-p

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  6. 「空いた口がふさがらない」<同感ですー。生ドアに知り合いがいることはいるんで、「アメリカでIPOしなおしたら?」などと戯れネタを振っておいたのですが、名前変えたら可能だったりして。
    その「お金は高い方へ流れる」ていうのを重力場理論的なもので解けないかと考えたことがありますた。金額の大小を質量に置き換えて考えると、お金同士は互いに引き合うので一カ所に固まり易く,金額の大きいお金は互いに引き合ってさらに集まる法則があるのでは、とか。なので超新星的に巨大なお金があると周りのお金を全部吸い寄せて来る、とか。で、超新星が爆発してブラックホール化したのが、dotcom crashだったのでは、とか。
    んで、そこでもうひとつ考えたのがReputationにも同様の法則があるのではないかってところ。ということは、Reputation→お金変換を可能にするメカニズムがあれば、最初にお金がなくても大金を作れる。あとは、この理論を実現するサイトをネット上で作れれば、いっきにお金持ち? (でもこれって、Hollywoodがやってることだわね。セレブってそんなとこから出てるわけだしぃ)

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  7. こんにちは。いわゆる紙会社はaccelerated filerに普通はならないから、いまのところSox対応はないと思うのですが、2008年以降は引っかかる会社も出るのかもしれないですね、そういえば。。。
    アメリカでのreverse mergeは日本のprivate companyで、日本だと東証の上場基準に引っかかって上場できない業種の会社さんが資金調達目的でやったりするようです。上場してアメリカの一般投資家から新たにお金を集めるのが目的ではなく、アメリカで形だけでも上場していると海外の金融機関からの審査も通るし金利がよい、のだとか。まあ、お金がほしいといろいろ思いつくわけですね。。。

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  8. gt-san,
    そーいえば、数年前のエープリルフールネタで、「シリコンバレーの有名ベンチャーのウォータークーラーの水を売る」ってのがあったような気が。これもreputationをmonetizeすることかしらん?
    lat37n-san,
    お、プロのお言葉! accelerated filerとは?また、2008年以降に何が起こるのか、教えてください(ご自身のblogで書いていただいても結構ですので。あ、その際はtrackbackお願いします)

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