インターネットでIQが上がるか

日経産業に掲載頂いたコラムです。

いつも、直された原稿を見て、「ふーん、このカタカナ言葉はこう書くのか」と興味深いのですが、今回の例で言うと
ルネサンス(ルネッサンスじゃないんだな)
ネット(なんだか、ネットリしてる気がする。元原稿は全てインターネットで統一してあったのだが。)
「ハイパーリンク」という仕組み(元原稿ではさらっとハイパーリンクと書いたのだが、かぎ括弧と「という仕組み」の注意書きが必要なようだ)
ヘッドホン(ヘッドフォンじゃないのか。ヴァイオリンとか書いてあるのを見ると「スカしてるなぁ」と思うのだが、ヘッドフォンと書いてあるのを見ても同じように思う人たちがいるのであろう。ということは、電話はテレホンか。かわいい。)
コンピューター大手のサン・マイクロシステムズ(元原稿では単にサン・マイクロシステムズ。コンピューター大手なんですね。コンピュータじゃなく)

では、以降、まじめにコラムです。

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活版印刷は羅針盤や火薬と並ぶルネサンスの三大発明で、世界を変革した重要な技術だ。それまでは本は一字一字写すという膨大な時間と手間をかけて作っていたが、大量かつ安価に印刷できるようになった。これを受けて、人文や科学などあらゆる面で学問の進展が促された。

現在、活版印刷と同様に知の形成に大きなインパクトを与えつつあるのが、インターネットをはじめとする新技術だ。特に教育の場では「インターネット有史以前」からは想像もつかない教え方や学び方が生まれてきている。

ネットを通じてまず距離や国境を越えた教育が可能になった。米マサチューセッツ工科大学が教材をすべてネットで公開、他の国でもこの教材を使った授業をする学校が誕生したのは有名な話だ。義務教育レベルでも、人件費の安い国からネット経由で家庭教師のサービスを提供する企業もある。

その象徴例がカリフォルニア州に本拠を構えるグローイング・スターズ社。同社ではヘッドホン、マイク、インターネットの画面を通じて、インド人の教師がマンツーマンで米国人生徒を指導する。競合他社も含めると、すでに数千人の米国の生徒がインドの教師の指導を受けているとされる。

映像や音声を活用した、双方向の教育方法も可能になった。アメリカでは、全国の学区の一割ですでに市販のテレビゲームを授業に活用している。たとえば、実際に文明を勃興させるシュミレーションゲームを遊びながら、文明の仕組みを学ぶといった使い方がされている。

コンピューター大手のサン・マイクロシステムズが開発する「ルッキンググラス」という情報表示ソフトを使って、歴史的事象を有機的に表示する試みも始まった。

旧来型の教育では歴史は西洋、東洋などと地域で区分し、中身を時系列に沿って教える。ルッキンググラスを使えば視覚的、立体的にデータを表示でき、それぞれに複雑に絡み合う歴史的事象や人物の間に、網目状に関連の線を引くことができる。思いがけない出来事の間に実は関連性があるのが歴史の常だが、それを表示することが技術によって可能になった。

さまざまな事象を記憶し、その間の関連性を見いだす力は知性の大切な構成要素とされる。ネットは一人の人間が触れることのできる情報量を圧倒的に増やし、「ハイパーリンク」という仕組みを通じて物事の間の関連性を草の根的に表示。多数の人に「気づき」を提供する仕組みを作った。

一方で、「何もかも見せられてしまったら、自ら考える力が身につかない」という議論がある。そういったデメリット以上に、莫大な情報に触れられるメディアができたことのメリットは大きいはずだ。「知らない出来事の間の関連性を考え出すことは不可能」だからだ。

過去二十年間に人間のIQ(知能指数)は平均で十以上向上した。原因は特定されていないが、映像などのメディアの刺激による知覚開発も大きな要因と推測されている。今後、小さなころからインターネットを活用してきた子供たちが大人になったとき、人間の知性はどんな形に変革していくのだろうか。

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以下追加情報:
Growing Stars社だが、1時間21ドルで、アメリカの一般的な個人レッスン料30-70ドルより格安、という触れ込み。が、21ドル=2500円。それって、15年前の日本の家庭教師の相場・・・だが、今でも同じくらいと聞いたことがあるんですが、どうでしょうか。日本人も英語ができさえすればアメリカからいろいろなサービス業をアウトソースできるのに。

 

インターネットでIQが上がるか」への8件のフィードバック

  1. Dora(時々Doraemon)です。こんにちは。
    とても興味深く読みました。知性は上がりそうな気がしますが、耐性は下がりそうな気がしますね。(すぐ答えを欲しがるとか。)
    ちなみに日本の古き良きIT系大企業では、最後の「ー」をつけないという暗黙のルールがあることが多いです。「コンピュータ」とか「メンバ」とか。そーいえば、最近は「インターネット」っていうと古い感じがして「ネット」って言うことが多いですね。ちょっと前までは「ネット」って言うとなんだか、廃人ムードのマイナスイメージだったような気がするのですが・・
    ではでは。

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  2. 素晴らしいコラムですね。思わずうーんとうなりながら読ませていただきました。
    仕事で小中学校に行く事が多いのですが、日本の教育現場ではネットの状況も5年前とさほど変わらないですね。昔からの教え方を変えない先生の数が多すぎです。学ぶのなんて子供が楽しけりゃ何使ってもいいんじゃないの?と思うのですが、主役不在だから方向がおかしくなるんですかね。

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  3. Dora-san,
    ネットが普通になったんですか・・・。なるほど。私としては、攻殻機動隊で、クサナギが最後に「ネットは広い」と言っているところを思い浮かべて恥ずかしいのですが。
    h-san,
    本当の発音はシミュレーションに近いけれど、日本語ではシュミレーションと書くのが普通かなーとおもったんですが、言われて見ると自信ないです・・シミュレーションでしょうか、やっぱり・・でも直し入らなかったし・・・。ちなみに、ジャグジーは、誰がどう聞いてもジャクージなんですけど、どこでジャグジーになったんでしょか。
    けんけん-san,
    アメリカも、まだまだ一部だとは思います。1割の学区で使っている、といっても、その学区の中のいくつの学校が使っているか、という問題もありますし。。。。ただ、あるベキ論としては、どこに国でも、なるべく画期的な教育方法が導入されると美しいですよね。

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  4. 初めまして、興味深く読みました。
    「日本人も英語ができさえすればアメリカからいろいろなサービス業をアウトソースできるのに。」という発想にびっくりしました。
    アウトソース=賃金の安い国で、というイメージがありました。
    ところで、今の日本の家庭教師の相場は
    東大の家庭教師募集掲示 (友人の話では)-3000円
    私の周り - 1500-2500円
    こんな感じですよ。インド人より安いかも…

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