ビジネスマンとアート:Tom PerkinsとCharles Ives

Tom Perkinsが本を書いた。シリコンバレーで一番有名なベンチャーキャピタル、Kleiner Perkinsの創設者のPerkinsさんである。御年73歳。本のタイトルはSex and the Single Zillionaire。そうです、「ハーレクインロマンス」系恋愛小説なのであります。

Wall Street Journalの記事いわく

"Sex and the Single Zillionaire," which features a handsome investment
banker who agrees to participate in a TV dating show. Sex scenes are
sprinkled throughout, as readers glide from a Manhattan penthouse to
exotic islands to a lavish yacht.

マンハッタンのペントハウスからエキゾチックな島、豪奢なヨットなどでのエッチシーンが満載だそう。

"no ‘ghost’ did the writing."

ということで、本当に自分で書いたんだそうだ。

The main character, a dashing widower in his 60s, and
his grown son, came from his own imagination, he says. He described
them this way: "They were obviously father and son, with the same tall,
athletic build. They were so handsome that they could have made money
modeling, if anyone could afford to hire them. The aura of money seemed
to float around them."

すごいですねー。本物の成功者兼金持ちが、成功者兼金持ちが主人公のエッチ小説を書くのはハズカシイのでは!!と思うんですが、そういうテライを乗り越えたということ?こういうのがアメリカ風枯淡?うーむ。

元奥さんが恋愛小説の大家ということで、彼女に負けじと書いたのさ、と言ってます。

元奥さんは、この2月で66冊目の小説を出版、これまでに世界で累計6億冊を売ったという売れっ子。100人座れるダイニングテーブルのあるサンフランシスコの家に住んでるとのことであります。どんな机だろか。

で、その奥さんに負けじと書いたのがSex and…。Perkins氏は非常に負けず嫌いで、やることなすこと成功しないと気がすまないヒトだそう。ま、そうでなきゃ、海千山千のシリコンバレーで名を成せません。

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さて、Sex and the Single Zillionaireがアートかどうかは相当異論があるとは思いますが、ビジネスでも成功したアーティストといえば、ゴーギャンあたりが有名。35歳まで株のブローカーで儲けた後引退、画家一筋となった人。まぁとはいっても、ビジネスマンとしては一銀行員に過ぎず。

その点、Tom Perkins並に成功した人といえば、Charles Ivesでは。超アバンギャルドなピアノ曲をあまた生み出したアメリカの作曲家。不協和音と、複数の旋律が混在する実験的な構成で、マニア受けする人であります。

"(if a composer) has a nice wife and
some nice children, how can he let them starve on his dissonances?"

「妻や子を、不協和音のために路頭に迷わせるわけには行かない」

ということで、Yale大学卒業後保険会社に入り、30代前半で独立、自分の保険会社を起業し全国で最大の保険会社に育て上げる。40代はじめには現代の金で数十億円の個人資産を持つに至った・・、というのが経歴。その傍ら作曲活動を続け、フルタイムの起業家とは思えない数多くの作品を残した人。

音楽的には「アマチュア作曲家」として扱われ、生きている間は殆ど誰にも省みられることはなかったのでした。(実は14歳で給料をもらうプロのオルガン奏者となり、リサイタルを開いたり、大学でも音楽の基礎をきちんと勉強していたにもかかわらず)

しかし、その一方で、金に不自由しなかったため、芸術性を犠牲にせず、自分の思うがままの作曲ができた、というのが定評。作曲家シェーンベルクも

"There is a great man in this country who solved the problem of how to be true to oneself. His name is Charles Ives."

「自らに正直になれた偉大な男、Charles Ives」と書き残しています。

去年の夏にIvesのConcord Sonataを聴きに行ったのですが、全編ピアノなのに、途中ほんの数十秒ヴィオラが入る、というトンでもない曲。「このためだけにヴィオラ奏者を雇ったら、その分経費がかさむ・・・」なんていう音楽ビジネスの都合なんてお構いなし。

***

よく宗教画を見て思うんですが、その多くは、

「家の壁にかけるから、なんか聖書をテーマに描いてよ」

みたいな注文を受けて、「アイアイサー」とばかりに描かれたものでありましょう、と。で、中には、

「宗教モノだったら、ちょっと裸があっても家族に許してもらえるから、ホーマンな女体ヨロシク」

とかいう陰の注文もあったりして、「きー」とか思いながら描いた画家もいるのでは、と。いや、もちろん、高尚なアートとして描かれた宗教画も一杯あると思いますが。

モーツアルトだってダビンチだって、結局パトロンがいたわけで、実際いやとは言えずに作らされたものもあったのでは、と推測。

その点、Ivesは音楽で金儲けする必要がなく、むしろ、パトロンとして音楽のためにふんだんに金を使う側だったので、思うがままにアバンギャルドなものが作れたわけです。

このあたり、以前書いたWhat Should I Do with My Lifeとの整合性はありやなしや。これは、900人にインタビューして書かれたキャリア選択に関する本。もとのエントリーに書いたとおり、メッセージは

「夢を閉じ込めて、生活のため、金のためにつまらない仕事をすると、苦しいばかりだよ」ということ。900人話をして「いったん事業で成功した上で、若い頃の夢に戻って実現した」という人は一人もいないんだそうだ。

ということなんですが。

「Ivesはビジネスで成功した上に音楽でも成功したじゃないか」

と思うかも知れないが、実は違うんですねー。彼があまたの曲を生み出した時期と、保険会社のビジネスに没頭していた時期はほぼ完全に重なるんですな。50歳を超した頃の1926年に「nothing sounds right」といって涙を流して作曲を諦めた「後」、1930年にビジネスからリタイアしたのでありました。

思うに、

「ビジネスで成功するためにはアートを諦めなければならない」(またはその逆)

という、世でよく聞くセリフは実は疑わしく

「ビジネスで成功する確率は超低く、アーティストとして成功する確率はさらに著しく低いので、その両方で成功できる人はめったにいない」

というあたりがより真実に近いのでは。この場合

「Xをするために、Yを諦める」

は、実は自分への言い訳。

もちろん体は一つ、時間は有限。Ivesもビジネスが忙しくなってきた頃、オルガン奏者など音楽関係の公的活動を全てやめてます。が作曲は続けてたわけで。

うーん、でもこれって、「超人は超人、凡人は凡人」ってことか。うむむ・・・。

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参考
Learning to Love a Cranky Composer
Ives Biography
Wikipedia: Charles Ives

ビジネスマンとアート:Tom PerkinsとCharles Ives」への5件のフィードバック

  1. なる・・・極貧・精神異常・アル中、みたいな芸術家は、とってもたくさんいますよね・・。

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  2. インターネットで芸術は生き残る

    [http://www.chikawatanabe.com/blog/2006/01/tom_perkinschar.html:title=On Off and Beyond]さんのエントリで、チャールズ・アイヴズという人がいるのを知った。詳細は元エントリに詳しい。乱暴に要約すると、 ”(if a composer) has a nice wife and some nice children, how can he let them starve on his dissonances?” 「…

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